『君にふれて』

安月名莉子×ボンジュール鈴木が『やがて君になる』OP曲に込めた“百合もの”特有の繊細さ

 仲谷鳰による人気コミックを原作に、主人公の小糸侑と生徒会の先輩・七海燈子の“女の子同士の恋”を繊細なタッチで描くTVアニメ『やがて君になる』。この作品のOPテーマ「君にふれて」で、シンガーソングライターの安月名莉子がメジャーデビューを果たす。今回の「君にふれて」は、『ユリ熊嵐』の「あの森で待ってる」など、過去に人気百合作品の主題歌を担当したボンジュール鈴木が楽曲を提供。作品の世界観に寄り添いながら、透き通るような歌声を生かして恋愛の機微を歌った、優しい楽曲に仕上がっている。リアルサウンドでは、安月名莉子とボンジュール鈴木の対談を実施。お互いに新たな挑戦になったという「君にふれて」の制作風景や、作品に感じた魅力などを語ってもらった。(杉山仁)

「原作であのシーンを読んだとき『ここだ!!』と思った」(安月名)

ボンジュール鈴木、安月名莉子

――そもそも、お2人は『やがて君になる』にどんな魅力を感じましたか? 好きなシーンやキャラクターもあれば教えてください。

安月名莉子:TVアニメを観て、ゆったりとしたテンポ感がすごくいいなぁと思いました。原作では自分で想像しながら読んでいたセリフが、アニメになると「こんなに溜めて言うんだ」ということが分かって面白かったですし、テンポがゆったりしているからこそ、(主人公の小糸)侑ちゃんたちの細かい表情を追うのもすごく楽しくて。『やがて君になる』はどのキャラクターも個性があって魅力的なので、私はハコ推しです(笑)。

ボンジュール鈴木:(笑)。確かに、作品のテンポ感は印象的でしたよね。原作を読んだときに気になっていた木々のキラキラや、紅茶の動きも、すごく丁寧に表現されていて。何よりキュンとする作品になっているところが、すごくよかったです。中でも私が好きなのは、侑ちゃんがベッドで寝転んで考えているシーン。あれって女の子だったら、普段の生活の中でみんなが経験したことがある場面だと思うんです。そのリアルな描写が素敵でした。

――では、OP曲「君にふれて」は、どんな風に制作を進めていったのでしょう?

ボンジュール:作詞作曲に関しては、実は最初にお話をいただいたとき、自分の中で両極端な2つのアイディアが生まれました。ひとつは今回の「君にふれて」になったエモーショナルなタイプの曲で、もうひとつはもっと可愛い曲で。その2曲を書いて送りました。でも、『やがて君になる』はただ明るいだけではなくて、侑ちゃんと先輩の葛藤も描かれた深い作品ですよね。だから、その部分も表現した「君にふれて」が選ばれてよかったです。原作を読んで、私自身「ただ可愛いだけじゃないところを描かなきゃいけない」と感じていたので。

安月名:そうだったんですね! 今曲に込めた思いを聞かせていただいて、とても嬉しいです。ボンジュールさんとはレコーディングのときにご挨拶だけはできたものの、ブースが離れていて、全然お話ができなかったんです。

ボンジュール:私は人見知りが激しいので(笑)。安月名さんは、いるだけで周りを元気にしてくれる人ですね。レコーディングも彼女がいると雰囲気が明るくなるのを感じました。

安月名:この曲には「私も主人公の侑ちゃんを演じているんじゃないか」と思うぐらい、侑ちゃんの気持ちが反映されていて、ライブで歌っていてもエモーショナルになります。今でも「もっとこんな風に歌いたい!」という気持ちが、どんどん生まれてきているんです。

――実際のシーンを想像しながらレコーディングに臨んだ箇所もあるそうですね。

安月名:はい。1サビの直前の「鍵をかけたガラスの箱に/何を隠しているんだろう」というところは、アニメの3話で放送された、先輩の過去をまだ知らない小糸ちゃんの気持ちを照らし合わせて歌いました。

――生徒会選挙のときの、体育館の裏のシーンですね。主人公の侑ちゃんが、周囲からは完璧だと思われている先輩の過去や弱さを垣間見る大切な場面だと思います。

安月名:原作であのシーンを読んだとき、「ここだ!!」と思ったんです。それで、レコーディング中はその風景を思い浮かべながら歌っていて……。

ボンジュール:実際、私が歌詞を書いたときに想像したのもそこだよ……! きっと安月名さんは、曲の意味を汲み取って感じる力が高いんでしょうね。丁寧に汲んでもらえて嬉しいです。私は普段エレクトロ系の曲が多いですけど、安月名さんはギター女子で、実力派のボーカリストだと聞いていたので、「自分の作品ではできないような曲を書いてみたい」とも思っていました。普段はやりたくてもできない、感情がすごく伝わる曲を書きたいな、って。

――実際に言葉を交わさずとも、音楽を通じてお2人の会話ができていたんですね。歌詞の中で好きなところ、ポイントになるところはありますか?

安月名:私が好きなのは、色々ありますけど……たとえばさっきボンジュールさんもお話されていた、作品の中の木の揺れ方や、木漏れ日の雰囲気が表現されているところ。歌っているとアニメの風景が浮かんでくるので、すごく好きです。「作品そのままだ……!」って。

ボンジュール:サビのところの、手がふれる描写も工夫しました。この作品には、実際に「手がふれる」描写が印象的に出てきますけど、それって恋愛がはじまる最初のポイントで、すごく純粋なものだと思うんです。私の普段の作品ではもっと……そういうものを忘れていることが多いですけど、『やがて君になる』は、その純粋さを大事に描いていますよね。

――「君にふれて」は歌詞に「私」「僕」というような主語が出てこないので、実は曲だけ聴くと「女の子と女の子の恋の歌」だと分からないようになっているのが印象的でした。むしろ、もっと普遍的な恋の歌になっていて、それが「女の子と女の子の恋だって、色んな恋のひとつなんだよ」という雰囲気を生んでいるように感じられて……。

ボンジュール:実は、その部分も意識したところでした。たとえば、高校生ぐらいの女の子の場合、恋とまではいかなくても、カッコいい女の子に憧れたりする経験ってあると思いますし。性別をぼやかして、聴いてくれる方に想像してもらえるようにしたかったんです。

安月名:実際、『やがて君になる』は、女の子と女の子との恋愛としてだけじゃなくても、色んな人が共感できる作品になっていますよね。同時に、学生の物語なのですごくキラキラとした作品でもあって。歌っているときは、私もキラキラした気分になります。ただ、この曲、私にとっては音域がすごく広いんですよ……!(笑)。

ボンジュール:曲を作る段階から歌の上手い方が担当するという話を聞いていたので……。ごめんなさい(笑)。

安月名:いえいえ、むしろこの曲が、新しい私を引き出してくれたように感じました。「ここは裏声で歌った方がいいかな」「ここは地声かな」と、色々試行錯誤しながら歌っていくのも楽しかったです。

ボンジュール:安月名さんが歌ってくれて、素晴らしいものになったと思います。私が仮歌を入れていたときは、自分の声質もあって、ケーキに生クリームをドバっとかけるように甘くなりすぎていて。「こうじゃないよなぁ」と思っていたんです。でも、安月名さんの歌は私の仮歌とは全然違うものになっていて、「こんなにエモーショナルな歌い方ができるんだ」と感動しました。感情表現が素晴らしいと思いましたし、アニメの世界にぐっと引き込んでくれる曲にしてくれたと思います。最初に聴いたとき、泣きそうになっちゃった。

安月名:そんな、私も泣きそうになっちゃいますよ……! どうしよう!

――安月名さんにとっては初めての本格的なレコーディングだったんですよね。

安月名:はい。正解がないからこそ、どんな風に歌うか考えるのが難しかったです。でも、レコーディング自体は意外とすんなりいきましたよね?

ボンジュール:安月名さんは音程がすごくいいので、作業はスムーズに終わりました。全然初めてのようには感じられなかったですよ? 一回歌ってもらった時点で世界観が出来上がっていて、それを生かした方がいいと思ったので、私も特に何も言わなかったんです。

安月名:歌いがいのある曲なので、レコーディング当日までに家で何度も何度も歌っていたんです……。そのおかげで、当日はリラックスできました。私は今まで自分の気持ちを曲にして歌うことが多かったので、キャラクターの気持ちになって歌うことも初めてで。すごく新鮮でしたし、ちゃんとしたレコーディングも初めてで、すごくワクワクしていました。

――とてもいい雰囲気でレコーディングが進んだのですね。先ほど制作中は全然話せなかったというお話がありましたが、この機会に聞いてみたいことはありますか?

ボンジュール:安月名さんは、どういう音楽が好きなんですか?

安月名:私は、洋楽がすごく好きなんです。もともとはギターで弾き語りをするスタイルのアーティストがすごく好きで、たとえば、KTタンストールさんが大好きです。ライブではループペダルに音を入れて、ひとりで曲を演奏することもあって、その姿に憧れました。私のルーツになったアーティストのひとりです。J-POPだと、YUIさんも好きで影響を受けています。

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