村尾泰郎の新譜キュレーション
サンドロ・ペリ、Cat Power、冬にわかれて……秋に聴きたいパーソナルな雰囲気の歌もの5選
Alison Statton & Spike『Bimini Twist』
70年代のUKポストパンクシーンに登場した孤高のバンド、Young Marble Giants(YMG)。その紅一点のボーカル、アリソン・スタットンは、YMG解散後にWeekendを結成。そして、そこでバンド仲間のスパイクことマーク・ウィリアムスとユニット・Alison Statton & Spikeを組むことになる。そんな二人の実に11年ぶりの新作『Bimini Twist』は、二人が暮らす自宅でレコーディングされた。親密なムードのなかミニマルに整理された演奏は、以前と変わらない清々しさ。キーボードや多重コーラスを少し重ねるだけで豊かな叙情性を感じさせる繊細な音作りは、まるで水彩画のスケッチのようだ。なかでも、針金細工のようにほっそりとしたギターの音色が印象的。アリソンの涼しげでどこか翳りを帯びた歌声は、YMGの頃から驚くほど変わらない。
チャック・センリック『Dreamin’』
最後は再発盤を。チャック・センリックはミネソタ出身の鍵盤奏者。70年代にレストランやバーで演奏して生活していたチャックは、76年に結婚すると後にも先にもたった一枚のアルバム『Dreamin’』を宅録して自主制作で発表した。それがやがてマニアックな音楽ファンからシンガーソングライターもの激レア盤として人気が出るとは思いもしなかったはず。そのまさかの一枚がリイシューされた。吹けば飛ぶようなリズムボックスのビートをバックに、フェンダーローズを弾きながらジャジーなメロディーを小粋に歌うチャック。スカスカなサウンドと爽やかな歌声のコントラストが絶妙だ。侘しげな音なのに幸福感を感じさせるのは愛する人がいればこそ。ジャケットが愛妻の手描き、というところも泣かせる、まさに掘り出し物の一枚だ。
■村尾泰郎
ロック/映画ライター。『ミュージック・マガジン』『CDジャーナル』『CULÉL』『OCEANS』などで音楽や映画について執筆中。『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』『はじまりのうた』『アメリカン・ハッスル』など映画パンフレットにも寄稿。監修を手掛けた書籍に『USオルタナティヴ・ロック 1978-1999』(シンコーミュージック)などがある。