小田和正の真摯で誠実な姿勢こそが最大の醍醐味に 『ENCORE!!』ツアー東京公演
もちろん小田のライブの定番メニュー“ご当地紀行”(ライブが行われる土地の名所を小田自身が巡るビデオ)も。この日は高尾山、国営昭和記念公園などを訪れ、名所を回りつつ、ファンに声をかけられると気軽に握手やサインに応じていた。マダムの集団に囲まれたときは「ババアのパワーには太刀打ちできません」とコメント、会場が笑いに包まれる。
ライブ後半ではMCをほとんど挟まず、綺羅星のごとくヒット曲、代表曲を連ねた。そのなかには当然「ラブ・ストーリーは突然に」「YES-YES-YES」なども含まれるのだが、知名度が高い曲になると小田はステージを降り、一緒に歌っている観客にマイクを向ける。観客のシンガロングを促す場面はほかのアーティストでもよくあるが、観客の間近まで行き、アーティスト本人がマイクを向けるシーンは小田のライブ以外で見たことがない。この演出の根底にあるのは“ヒット曲はファンのもの”という意識なのだろう。当たり前の話だが、たくさんのリスナーが楽曲を受け取り、共有しないと、ヒットという現象は生まれない。その楽曲はアーティストのものではなく、リスナーひとり一人の財産なのだーー楽しそうに歌う観客の姿を見ているうちに、そのことを改めて実感することができた。
個人的にもっとも心に残ったのは、オフコースの名曲「さよなら」だった。かぎりなく原曲に忠実なアレンジ、そして、当時と同じような瑞々しさと奥深い表現力を同時に感じさせてくれる歌声。普遍的としか言いようがない楽曲の魅力をストレートに体感できる、素晴らしいパフォーマンスだった。
それにしても、まったくインターバルを取らず、ほとんど水も飲まず、続けざまに歌い続ける小田のエネルギーは凄まじい。解放的に盛り上がる楽曲、シリアスなメッセージを伝える楽曲、リスナーの側に寄り添うような優しい楽曲。さまざまな方向性を備えた楽曲にしっかりした説得力を与えていくステージングには、一切のムダがなく、スキもない。余計なことは話さず、自分の思いはすべて楽曲を通して伝える。その誠実な姿勢こそが、小田和正のライブの最大の醍醐味なのだと思う。
約3時間で30曲。セットリスト、ステージング、歌のクオリティを含め、満足できなかった観客は一人もいないだろう。ツアーは10月末の横浜アリーナ公演まで続く。会場に足を運ぶ方はぜひ、小田和正の音楽を心ゆくまで堪能してほしい。
(写真=菊地英二)
■森朋之
音楽ライター。J-POPを中心に幅広いジャンルでインタビュー、執筆を行っている。主な寄稿先に『Real Sound』『音楽ナタリー』『オリコン』『Mikiki』など。
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小田和正 オフィシャルサイト