『Feat.ソニーミュージックオーディション』ファイナリスト インタビュー(後編)

SNS時代に音楽をリスナーへ届ける方法とは? SUKISHA、葉山柚子、夜中出社集団に聞いた

 ソニー・ミュージックエンタテインメント主催のオーディション『Feat.ソニーミュージックオーディション』ファイナリストが決定した。

 『Feat.ソニーミュージックオーディション』は、音楽トレンドに新風を吹かせるアーティストを募集したオーディション企画。ファイナリストには、ソニーミュージックがトレンド作成に必要な予算、スタッフ、インフラ、ワークショップをバックアップ、音楽トレンドランキングのグランプリを目指していく。

 今回ファイナリストに選ばれたのは、あさぎーにょ、KID CROW、SUKISHA、ドアノブロック、葉山柚子、夜中出社集団(五十音順)の計6組。ファイナリストたちに密着したリアリティショー『Feat.ソニーミュージックオーディション』のオンエアもGYAO!と音楽チャンネル・MUSIC ON! TV(エムオン!)でスタートしている。

 リアルサウンドでは、ファイナリスト6組のインタビューを2回に分けて掲載。後編ではSUKISHA、葉山柚子、夜中出社集団にが登場。SNS上でバズを起こし“トレンド”を生み出すための戦略をはじめ、アーティスト活動を始めたきっかけ、オーディションを勝ち抜くための秘策になどついて話を聞いた。(編集部)

SUKISHA「自分を見てくれている人間を的確に刺していく」

 2017年8月に活動を開始したSUKISHAは、同時に公開した楽曲「4分半のマジック」のMVがSNS上で大きな反響を呼んだ。その後も、音楽クラウドファンディングサイト「muevo」で、ミニアルバム制作のための資金を募った結果、同サイトの最速時間2時間20分を記録し、達成度309%の72万円を集める。ボーカル、コーラス、各楽器の演奏やミックス・マスタリングなど、曲がパッケージされるまでにまつわる全てを1人でこなすSUKISHAは、オリジナル楽曲のほか、インストゥルメンタル、カバーなども数多くアップしており、現在はメロウなオリジナルナンバー「恋する幽霊 (The Ghost in Love)」(1stアルバム『Segment of Cakes』収録)のMVが注目を集めている。

――活動開始と同時に公開した「4分半のマジック」のMVは、大きな反響を呼びました。振り返って見て、当時はどのような心境でしたか?

SUKISHA:戸惑いでしたね。その前は本名でシンガーソングライターをやっていて、泣かず飛ばずだったわけですよ。そこから、世の中の好きなものに寄せて作ってみたのが「4分半のマジック」だったんですが、MVをアップして告知したらめちゃめちゃ拡散されて。前例が上手くいってなかったので、「何がどうなっているんです……?」って感じでしたね。

――リスナーからはどのようなコメントがありましたか?

SUKISHA:「中毒性が高い」とか「めちゃめちゃかっこいい」とかですかね。戸惑っていたので、意味が分からなかったですよ。クラウドファンディングでは、知らない人が10万円コースに入れてくれたり、CDも買ってくれるし、今も不思議です。自分の立ち位置が分からない。

SUKISHA / 4分半のマジック(4 and half minutes Magic)

――ミニアルバム制作のために資金を募ったクラウドファンディングでは、「muevo」の最速時間2時間20分を記録し、達成度309%の72万円を集めました。

SUKISHA:先にお金をもらって欲しい人にだけアルバムを作ることってできないのかなと思っていたら、muevoの人から「クラウドファンディングをした方がいい」と教えられて。結果、びっくりするくらいの金額が集まりました。

――ライブの現場ではファンからリアルな声を聞くこともあると思います。

SUKISHA:ライブは基本あまり出演しないで、月に1度やるかやらないかって感じです。面白いのが、ネットで知った人たちが長野や群馬からわざわざ観に来てくれるんですよね。SNSでのフォロワーの数って、実際のライブの動員にあんまり反映されてると思っていなくて、3000人のフォロワーがいれば、3000人全員がくるわけじゃない。100人も10人も来ない。でも、知ってくれてかっこいいと思って足を運んでくれると、「すげぇ、インターネット!」と思います。

――SNSの使い方としては、YouTube Liveでトラック制作の配信も行っていますよね。

SUKISHA:人間が享受できる楽しいことって、3種類あると思っていて。1つ目が食べたり、飲んだりする“消費”。2つ目が感想を言い合ったりする“共有”だと思うんですよね。そして、最後に“生産”があると思うんですよ。ブログを書くとか、音楽を作るとか、、世の中の人たちって“生産”の楽しみを知らない人が多いと思っていて。僕はトラック制作の様子を配信することで、自分が何をやっているのか興味を持って欲しいし、DTMをやってみたいとか、音楽のことをもっと好きになってくれたら嬉しいです。

 あとは、SUKISHAで活動を始めてから2人弟子ができて、レッスン料をもらったりしているんですよ。インターネットで知り合って、それからSkypeで教えています。だから、直接は会ったことはないです。トラック制作を生配信をすることによって、それを増やせるんじゃないかっていう目論見もありますね。「4分半のマジック」でいろんなものが動き出した感じです。

――2010年から奥田民生さんは『奥田民生ひとりカンタビレ』としてライブツアー形式で楽曲レコーディングをする公演を行っていますね。

SUKISHA:民生さんは、以前からやってるみたいですね。僕も、お金を発生できるようにしたいなと思っていて。ネットショップのBASEでチケットを売って、購入者限定のYouTubeストリーミング配信にするなど、クローズドな場を設けて新しいお金の稼ぎ方を作りたいんです。インディーズで活動している人たちって、実力はあるけどお金が稼げてない人や、不本意ながら燻っている人も少なくない。自分らは音楽をやっているぞ、人生楽しいぞと思ってほしいですし、もう少し自尊心を持って欲しいんですよね。新しい勝ちパターンを出したいなと思っていて、それの一環ですね。

ーーなるほど。

SUKISHA:例えば、バンドだったらスタジオの様子を配信するのが、お金になればいいじゃないですか。以前、フレンドファンディングアプリのポルカで、「アフロにしたいです。代わりに新曲制作の限定配信に招待します」という形でやったんですよ。それは、バンドだったら「エフェクターが欲しいです。代わりにスタジオの様子を配信します」とかで成立する。新しい楽なスタイルで活動ができるな、と。CDも現場レベルでは売れるとは思うんですけど、マクロな視点で見ると買わない人が増えてるじゃないですか。バンドの売り上げがグッズとCDだけっていう状況を変えたいなとは思っていますね。

――Chance The Rapperはストリーミング配信のみで、ビルボードにランキング入りし、グラミー賞のルールを変えましたね。

SUKISHA:ドレイクの新しいアルバム『Scorpion』は、1週間で再生回数10億回超えですよ。それだけで相当儲かってるだろうし、CDを売るだけではないやり方も考えたいです。

【MV】SUKISHA / 恋する幽霊 (The Ghost in Love)

――今回『feat.』のオーディションに応募したのは、どういった部分に惹かれたのでしょうか。

SUKISHA:友達の勧めですね。音楽トレンドを作るとか、SNSを活用するという部分がぴったりじゃんって感じで。インターネット好きな人間なんで、アナログじゃなくデジタルな感じが面白いなと思いました。これはオーディションしてる側も考えていると思うんですけど、オーディションで発掘された人間が上手くいくかは分からない。音楽聴く人たちって、自分の好きなものじゃないと買わないし、どれだけお金をかけてもリスナーに刺さらないと売れないんですよね。そういう状況を踏まえた上で、新しい音楽の消費の仕方、音楽の楽しみ方をリスナーに勧めて行った方が、作り手側も楽しくなると思います。

――『feat.』の審査基準はどれだけSNSでバズらせるかが鍵になりますが、なにか作戦はありますか?

SUKISHA:ほかの人たちと比べて、自分がどういう立ち位置にいるのかを考えています。若くもなければ、外見にアドバンテージがあるわけでもない。それにバンドでもないし、集団でもなければ英語が喋れるわけでもない。ただの31歳のおっさんなわけですよ。どうやって一般リスナーの心を掴むかって言ったら、音楽を作るしかないじゃないですか。音楽を作りまくってやりますよ。オリジナルの音源を作ったり、カバーしたり、いろんなことをやりたいと思います。というか、それしかない。やることはシンプルに、曲を作ります。実際にそれで勝ち取ったものがあるわけだから、自分を信じてやっていくだけです。

――インターネットでは大半が可視化されているので、どれだけバズったかが分かります。

SUKISHA:でも、TwitterのRTとかいいねってタダじゃないですか。だから、あまり期待もできないなって思ってます。いいねをされたからといって、その人が自分のファンというわけではないですし、可視化されることで安心できるし、みんなが評価してくれているのが分かるけど、それが確実ではないなとは思っています。

――先ほど「4分半のマジック」は、「世の中の好きなものに寄せて作った」とおっしゃっていましたが、トレンドに関してはどう捉えていますか?

SUKISHA:基本的には他人に興味があるので、Twitter上でMVが流れてきたら絶対見るし、話題に上がっているのが、どんなものなのかは見に行きます。でも、自分のやりたいことだけをやっていても、ファンがついてきてくれない場合も多いですし、自分を見てくれている人間を的確に刺す必要があって。それには歩み寄りや分析が大事だと思いますね。以前、シンガーソングライターとSUKISHAの活動の間で、アニソンカバーをしていた時期があって、『けものフレンズ』の「ぼくのフレンド」はニコニコ動画で15万回再生されて、めちゃくちゃバズったんですよ。その頃の曲を今のSUKISHAのアカウントで上げても、そんなに反応はなくて。やはり、自分やコンテンツを見ているターゲットは何者なのかっていうのを想定して投げないとダメなんですよね。きっと、そこを考えるのがトレンド作りなんだろうなと思っています。

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