キンキが“ふたりで歌う”意味の大きさ 『KinKi Kids CONCERT 20.2.21』映像作品を見て
“Everything happens for a reason(すべての出来事には意味がある)”
そうサブタイトルが添えられた『KinKi Kids CONCERT 20.2.21』のDVD・Blu-rayが、7月25日に発売された。このサブタイトルを考えたのは堂本光一だ。「今やれることをやれば、そこから何か生まれることもある」目の前に降りかかる困難や苦悩を受け入れ、そこに意味を持たせることができる人が“表現者“と呼ばれるのだろう。「無理して立ちたい場所、過ごしたい時間がある」と病を押して、できる限りを尽くした堂本剛の姿に、命を燃やすとは何かを感じた。この瞬間も、私たちは命の炎を燃焼し続けている。人生は不可逆な“今”の連続だ。だからこそ、何度でも振り返りたくなる大切な瞬間がある。CDデビュー20周年の集大成となったこのコンサートは、KinKi Kidsとふたりを支えてきたファンやスタッフの20年に大きな意味をくれる時間となった。その瞬間を留めた本作は、まるで太古の時間を閉じ込めた宝石のようにファンの手元で輝き続けることだろう。
20年の歩みを振り返るような名曲揃いのセットリスト。それだけでも心を打つものがあるが、このコンサートを特別なものにしたのは、突発性難聴を発症した剛の体調に配慮した形で進められたという点だろう。耳への負担が少しでも軽減されるようにと取り入れられたオーケストラ演奏。122名にも及ぶ東京ドーム史上稀に見る大編成のオーケストラに、いつもとは違う雰囲気が漂う。ムービングステージなどの大掛かりな仕掛けはなし。観客のペンライトも応援うちわもなし。さらに、剛が歌うことだけに集中できるようにと、ふたりはステージの上から移動せず、極限まで演出を削ぎ落とした。その結果、見えてきたのは“ふたりで歌う“ということの意味の大きさだ。
自分の歌声の行方に集中する剛の表情は、まるで真剣を扱う武士の如く厳しい。その一点を見つめて歌う姿に、決して体調が万全でないことが十分伝わってくる。だが、それでも彼の歌声はドームを響かせ、約6万人の観客を魅了する力を持っていた。自分の声が脳内でハウリングし、周りの音も聞こえにくい中で、あれほどの歌を披露するには、どれほどの精神力を必要とするのか。そのギリギリな状況から放たれる剛の歌声。それに共鳴する光一の歌声にも、一切の遠慮はない。ふたりのエネルギーをまとったハーモニーは、流れ星のように暗い会場を駆け抜け、その尾が煌めくようにオーケストラの音色が広がる。
なんて幻想的なコンサートなのだろう。過酷な現実に向き合ったふたりが、これほどの希望に満ちた空間を生み出すとは。そこに加わるのは、6万人のファンによる「もう君以外愛せない」の大合唱。まるでひとりが歌っているかのように聞こえる、クリアな歌声。それは、ときにKinKi Kidsがレコーディングでひとりの歌声に聞こえるほど、シンクロする様と似ている。東京ドームという空間がファンの母性に近い愛情で包み込まれ、次の20年に向かうKinKi Kidsを育む母胎のように感じた。