「田中秀臣の創造的破壊」第8回

TWICE、MOMOLANDらK-POPガールズグループ日本進出の背景 “物語性”と“著作権”から考察

 現在のK-POPの女性アイドルグループの日本における強みとはなんだろうか? 過去の少女時代やKARAらがけん引した10年代初めのブームに比べると、今回の最大の特徴は2点に集約される。ひとつはコアなファン層が、10代、20代の若い女性層だということ、さらにネットでのコンテンツ消費が極めて強いことがあげられるだろう。

『Wake Me Up』(通常盤)

 日本のアイドルの特徴は、未完成なアイドルが成長していく物語消費である。それに対して、K-POPの女性アイドルグループは物語消費を採用していない。もっと消費の在り方は直接的だ。10代、20代の同世代のファッションやダンスなどの「理想形」として多くのファンを一気に引き込んでいく。髪型やメイクなどが同世代に流行として普及していき、ファンの中で模倣されていく。今回のブームは昨年のTWICEの日本デビューが大きなきっかけだった。

 TWICEの日本でのブレイクをきっかけにして、BLACK PINK、MOMOLAND、Red Velvet、EXIDらが続々と日本での本格デビューを果たしている。しかもライブをやればその会場では、10代、20代の女性ファンが驚くほど多い。これは日本の代表的なアイドルグループである乃木坂46、欅坂46、AKB48グループなどと比べるとかなり異なる印象をもつ。日本の女性アイドルの多くが、いままで男性の中高年を中心にしてけん引されてきたことを考えると、その違いは顕著ですらある。

 もちろん多くの女性誌にモデルとしても人材を輩出している乃木坂46の健闘もあるが、やはり韓国の女性アイドルグループに占める10代、20代の女性ファンの層の厚さは別格とみたほうがいい。TWICE後のアイドルグループとして、最近日本デビューしたMOMOLANDも女性ファンを多く惹きつけているようだ。日本型のアイドルの物語消費には、最小限の共感のベースになる「経験」を消費する側に要求する。アイドルの歴史や由来を知っていた方が「面白い」と思わせる仕組みである。しかしMOMOLANDの「BBoom BBoom」の日本版MVで強調されているのは、彼女たちのかっこよさ、ダンスパフォーマンスのキレ、そして最近の韓国アイドルグループが積極的に吸収しだした日本的な「かわいらしさ」のミックスした商品性である。なんの予備知識がなくともその世界に即座にひたれることができる。

 例えば、前田敦子がなぜAKB48のセンターに君臨したのかを理解するには、数年前に評論家の濱野智史氏が彼女を「キリストを超える存在」として描いたように、キリストの受難の物語と同じかそれ以上(?)の「物語性」を必要とした。その「物語性」で補完しないかぎり、「なぜ前田敦子にカリスマ的な人気が出たのか?」を理解することは非常に難しいだろう(濱野智史『前田敦子はキリストを超えた』(ちくま新書))。この物語消費は強烈な磁場をもっている。ただしそのためには、ローカルルール(個々のアイドルのファンに共有されている知識)に近いものを理解していないと無理ではないだろうか?

 それに対して現在の韓国の女性アイドルグループは、BLACKPINKでもTWICEでも解説はほぼ不要である。単純に「見た目」での魅力が断然に優先された世界を構築している。実にわかりやすく参入しやすい。しかも同世代の女性へのメッセージ性も秘めている。それは一言で言えば、「自分のやり方を通す」とでもいうべきものだ。TWICEの最新曲「Dance The Night Away」はその意味で興味深い。どことも知れない南の離島でいきなり目覚めた彼女たちは、そこで自分達なりの世界を構築していく。夜を通して踊りあかして、明け方、迎えの豪華クルーザーがきても彼女たちは乗ろうとはしない。また夜を通してその島で踊りあかすことを彼女たちは選んだのだろう。女の子たちだけの独立したユートピアをイメージしているともいえ、その訴求力は抜群である。

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