『WHITE』インタビュー

清水翔太が明かす、“ピュアなクリエイティブ”への思い「音楽だけは手を抜きたくない」

 昨年2月、当サイトに掲載した『清水翔太の音楽がドープに深化した理由ーー3人のライター・編集者が語り合う』にて好き放題語ってしまったゆえか、清水翔太本人から「好きなだけ新作を深読みしたインタビューをすればいい」と、ありがたい逆指名を受けて、ニューアルバム『WHITE』の取材を行なってきた。

 彼は、ありきたりの質問に対しても、真摯に回答する。しかし、「このインタビュアーは僕に興味がない」「僕の作品をしっかり聴いてインタビューに臨んでいない」と察知した瞬間、わかりやすく寡黙になる。そして、作品の核心に触れることなく、取材は終了する。さて、今回はどうだろうか。そのジャッジは読み手に委ねるとして、久方ぶりに会った清水翔太に、大きく変化した人間性から音楽性まで、余すところなく聞いてみた。(佐藤公郎)

「自分の内側に向いていく作品が増えた」

ーー最近は「しょん」と呼ばれているそうで。

清水翔太(以下、清水):そもそも親が僕のことを「しょん」って呼ぶんですけど、29歳でキャリアが10年、女の子から「翔太くん」や「翔太さん」と呼ばれ続け、いつまで経っても距離が縮まらないこともあって、もっとかわいく呼んでほしいので「しょん」を解禁しました。ほら、どこかでかわいらしさも出していかないといけないかなって。

ーー大人になったね。

清水:強がる必要もなくなったし、好きな音楽もやれているからね。

ーー「しょん」解禁はTwitter上での出来事だけど、一昔前はあれだけアーティストがSNSをやることに大反対していたのに、まさかのドハマり。

清水:ハマってるのかな? まあ、ハマってるんでしょうね。

ーー去年の10月だったかな、「ちょっと結婚したくなってきた」とツイートしてたけど、「もう実は結婚している」という隠れ蓑のための牽制球かと深読みしたんだけど?

清水:ないから!(笑) 未婚です。

ーー新作の話をしましょう。僕は『WHITE』に対して、どんな感想を抱いたと思う?

清水:斬新な質問だなあ。とはいえ、聴き手に対して、“深読みし甲斐のある作品”にしたつもりです。

ーーその通り。タイトルからして深読みさせる気概が感じられた、素晴らしい作品だと思いました。

清水:感想、言っちゃったじゃん。しかも、至って普通な。

ーーそもそも先行シングル曲「Friday」を聞いたときに脳裏をよぎったのが、『COLORS』(2011年)に収録された「Midnight Flight」だったんですよ。当時の清水翔太は、夜な夜な街に群がる人間たちに対し、〈何故、人々は華やかな場所が好きで/孤独を恐れるの?〉と揶揄していた。つまり、金曜日の夜の街を楽しむことなんて眼中になかった清水翔太が、今は〈0時を過ぎたあたりから本気になる〉なんて歌ってる。こうした変化を先行シングルから見せられたら、アルバムは弥が上にも期待が高まらざるを得ない。

清水:極端に言えば“酸っぱいぶどう”理論なんです。高い木の上になっているぶどうは酸っぱくて食べられない。僕は食べることもしなければ、取ろうともしない。仮に取れたとしても、そのぶどうを食べるつもりもなかった。当時はそんな気持ちがありました。でも、いざ食べられる環境になったら、甘くておいしかった、とは言わないけど、それにはそれなりの味わいがあったという感覚かな。

ーー食すことができる環境下になったということも、人間性における大きな変化だよね。

清水:『PROUD』(2016年)以降、自発的にそうしていこうと思ったんです。外に出たほうがいい。友だちを作ったほうがいい。そして、人とたくさん会おうと。僕の場合、なんでも音楽に影響が出るわけで、善し悪しはさておき、書けなかったことが書けるようになった、作ろうとしていなかったものを作れるようになったという、クリエイティブに大きく還元された部分はあります。

ーーもともと天才肌を包み隠さず露呈してきたわけだけど、過大評価も過小評価も好ましくないという狭間で、人として、アーティストとしても生きてきた印象がある。ただ、そこには無自覚の「悪い人だとは思われたくない」という潜在意識があったのに対し、今は「積極的に自ら人を嫌うことはしないけど、それでも嫌いというのなら、それで構わない」という精神が見える。

清水:好きなことを続けるには、やっぱり犠牲も覚悟しなくちゃいけないことを知ったからでしょうね。「あれは好きだけど、これは嫌い」「だったら、これをやってみたら、あれは嫌いと言われる」ーーなので、もう腹をくくることにしたんです。好きな音楽を継続するためには、人間的にもアーティスト的にも嫌悪感を抱かれるとことをセットで考えなければならない。ただ、「清水翔太はこうだ」と勝手に判断されて、勘違いから嫌悪を抱かれるのは好ましくないですけどね。

ーー聴き手に「この歌は、こういう意味か」と想像させる余白を残すことが、ある種の危険性も伴う、ということですね。

清水:実際、アルバムには収録していないんですけど、ついこないだ同タイトルの「WHITE」という曲をインスタにアップしたんです。そうしたらファンの方から「突き放されたような気がして悲しくなりました」というコメントがあったんです。「おい、ちょっと待ってくれ。そんなこと何も歌っていないんだけど」と。それだけ抽象的でいかようにも受け止められてしまう曲だったのかな? って感じたんです。かといって、毎回アルバムやシングルに対して「この曲は、こういう曲です!」と説明的すぎることも避けたい。

ーーアルバムリリース前にリスナーを傷つかせるなんて、なかなかハードなことだけど、翔太の場合、「こういう曲です」と説明してしまったら、「と、清水翔太は説明してるけど、きっと違うんだろうな」と思われ、負の連鎖が始まることも熟知しているからだろうね。

清水:なので、「Good Life」然り、自分の内側に向いていく作品が増えたのかもしれませんね。

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