5thアルバム『オトノエ』 インタビュー
和楽器バンド 鈴華ゆう子が語る、アルバム『オトノエ』で描いたバンドの新境地
昨年末にベストアルバム『軌跡 BEST COLLECTION+』を発表し、売上12万枚突破という快挙を成し遂げた和楽器バンドが、早くも通算5枚目のアルバム『オトノエ』をリリースした。
オリジナルアルバムとしては、『四季彩-shikisai-』からおよそ1年ぶりとなる本作は、これまで以上にバラエティに富んだ内容。例えば「これぞ和楽器バンド!」という曲がある一方で、彼らのトレードマークともいえる鈴華ゆう子(Vo)の「節調(せっちょう)」(詩吟独特の歌い回し)を封印した曲もある。90年代Jポップへのオマージュや、町屋(gt)の故郷である北海道の大自然を思わせる雄大な楽曲、さらにはダークアンビエントまで、もはや「和楽器+ロック」というカテゴリーでは括り切れないほど、その音楽性は拡張し続けているのだ。
こうした進化は一体どのようにして訪れたのだろうか。バンドのリーダーであり、町屋とともにメインコンポーザーも務める鈴華に話を聞いた。(黒田隆憲)
「とにかくいい曲を、自由に書いてみようって」
ーー『オトノエ』を作り終えて今、率直にどんな心境ですか?
鈴華:時間がない中、今までで一番やりたいことを、自由にできたアルバムだと思っています。2013年にデビューしてからの私たちは、とにかくずっと走り続けているような感じだったんですよね。例えば「アルバムを出そう」となった時に、すでにタイアップされたシングルが沢山リリースされていて、マストで入れなきゃならない曲がアルバムの大半を占めている。そんな中で、アルバムとしてのテーマを後付けのように考えなければならなくて。
ーー贅沢といえば、贅沢な状況ですよね(笑)。
鈴華:そうなんです。なので、昨年11月に『軌跡 BEST COLLECTION+』というベストアルバムを出して、そこには新曲を3曲入れたのですが、そこからあまりインターバルを空けずにコンセプチュアルなアルバムを出そうと決めていました。入れるべき曲は「雪影ぼうし」だけだったので、それ以外は自由に選曲ができる状態。その上でメンバーで集まり、コンセプトを考える話し合いを何度も持つことができました。
ーー8人もメンバーがいると、意見の衝突などはないんですか?
鈴華:私たちはみんな、今までもバンドを組んで、くっついたり離れたりを経験しながら色んなことを乗り越えてきたんですよね(笑)。その上で集まった8人だから、自分のことよりまず和楽器バンドだからできることというのを一番に考えていて。意見も「衝突する」というよりは、違う意見でもお互いを尊重し合いながらスムーズに話し合いができるんですよね。ちゃんと落としどころを考えられるというか。おっしゃるように、こんなに沢山メンバーがいて不思議だなあと思うこともあるんですけど。
ーー「この8人だからこそ、うまくいってる」ともいえそうですね。
鈴華:和楽器バンドって大所帯の上に曲を書くメンバーも沢山いて、しかもルーツはバラバラだから、自分たちのことを「ロックバンド」とは名乗っているけど、「和楽器バンドはこうじゃなきゃいけない」というふうに自分たちを縛るのは、違和感があるんですよね。「ジャンルは“和楽器バンド”」っていうふうに考えてもいいんじゃないかと、話し合いを経て辿り着いたんです。とにかくいい曲を、自由に書いてみようって。その上で今作のテーマを考えたときに、例えば「命」や「愛」みたいな、すごく大きなことを歌うのはまだ早いぞ、と(笑)。今のタイミングだったら、「ミュージアム」がいいんじゃない? ってなりました。
ーーというのは?
鈴華:私はクラシックから音楽に入ったんですけど、クラシックの中でも印象派が好きなんですね。ドビュッシーとかラヴェルが、同時代の芸術家と影響し合っている時代。そこに影響されているというのをメンバーに言ったら、「和楽器バンドとして、ミュージアム的な要素をライブも含めて打ち出していったら面白いんじゃないか?」という話になったんですよね。もうすぐ始まる『音ノ回廊 -oto no kairou-』と銘打ったツアーも、その一環なんです。
ーーなるほど。そこから曲作りが始まったわけですね。
鈴華:まずは、すでに書き溜めてある100曲近いデモを全て聴き直しました。それと、「ミュージアム」というテーマの中で書き下ろした曲も加えつつ、メンバー全員での会議を重ねていって。「ミュージアム」だから、いくつかコーナーがあるんですね、「ロックのコーナー」や「バラードのコーナー」。そこに入れるとしたら、どの曲が面白いか。選びに選んで、最終的にこの12曲になったんです。
ーーアルバムの作り方も、今までとは違っていたそうですね。
鈴華:今回からは完全に自分たちだけで作ることにしました。例えばアレンジに関しても、今までは各メンバーがデモの段階である程度ざっくりとアレンジをしてきて、それを参考にしながらバンドで詰めていたんですね。デモのアレンジは、人によっては誰か友人に手伝ってもらったり、私の場合はマッチー(町屋)に付けてもらったり、まちまちで。でも今回は、全ての楽曲のアレンジをマッチーが一から作り直すことにしたんです。アレンジもレコーディングのディレクションも、すべてマッチーを中心に進めていきました。
ーー町屋さんがトータルディレクションをしているからか、今作は今までのアルバムよりも各パートのフレーズが整理されている気がします。「ここぞ」と言うところでソロが出てくるなど、アンサンブルに無駄がないというか。
鈴華:それは確かにありますね。初期のゴチャゴチャ感がいいと思う方もいるかもしれないんですけど、音楽的により良いものを作ろうとした時に、それだと限界がくると思うんです。ただ闇雲に弾き倒すのではなく、ちゃんと曲全体を把握しながら、出るところは出て、引くところは引くということができるようになったのは、マッチーのおかげだと思います。
「歌い方が違っても和楽器バンドらしさは出せる」
ーー鈴華さんの歌い方も変わりましたか?
鈴華:コード感が見えやすくなって、格段に歌いやすくなりましたね。正直、このバンドで歌うのってすごく難しいんですよ(笑)。ピッチを取るのもひと苦労だったんですけど、今回のレコーディングはそこが解消されたので快適でした。そのおかげで、歌い方も自由度が増して、かなり好き勝手に歌っています。
ーーそれはすごく感じました。曲によって声色をかなり使い分けていますよね?
鈴華:そうなんです。今までは「まず、和楽器バンドを知ってもらうことが大事だ」と思っていたから、どの曲にも詩吟の要素である「節調(せっちょう) 」を、なるべく入れるようにしていたんです。1stアルバム『ボカロ三昧』の時は全曲入れたから、中にはちょっと強引な曲もあるんですよね。でも今回は、4曲目「君がいない街」から8曲目「パラダイムシフト」まで、節調が入ってないんです。それって、和楽器バンドにしたら画期的なことで。
ーー今まで「和楽器バンドらしさ」と思っていた要素を、自ら削っているわけですからね。
鈴華:はい。でも今回は、「ミュージアム」というコンセプトも先に決めていたし、楽曲が必要とする歌い方を一番に考えたかった。例えば黒流さんの書いた「沈まない太陽」という曲では、自分のことを「ハイトーンボイスで歌い上げる男性ボーカル」というキャラに設定して歌ってます(笑)。そういうことを、かなり楽しみましたね。
ーー「World domination」も、ちょっと萌え声っぽくて驚きました。
鈴華:あははは。そうなんです。ちょっと可愛らしく歌ってみました。
ーー町屋さんがトータルディレクションをしたということも含め、「節調がなくても、歌い方が違っても、和楽器バンドらしさは出せるんだ」と思える自信がついたのかもしれないですね。
鈴華:そう思います。最初に話したように「ジャンルは“和楽器バンド”」と思えるようになったからだと。