FEST VAINQUEUR、ザアザア……ジャパニーズメタルやゼロ世代の影響感じる関西V系シーンの今
10-FEET、キュウソネコカミ、tofubeatsなど、関西には、大阪や京都、神戸を活動拠点にしながら、全国区で活躍するアーティストがたくさんいる。ヴィジュアル系も同様に、関西を拠点に活動するバンドは多く、独自のシーンを形成しているが、中でも特に存在感を示しているのが、FEST VAINQUEURとザアザアだ。ヴィジュアル系は多様な音楽性を持つバンドが多いが、この2バンドからは、その多様性の中に、関西から生まれた先人たちの影を強く感じる。そこで、本稿では、FEST VAINQUEURとザアザアから見える、関西出身の先駆者バンドとの関連性にフォーカスし、この2バンドを紹介したい。
大阪レペゼンを貫くFEST VAINQUEUR
FEST VAINQUEURは、2010年に結成されたバンドで、昨年ドラマーが脱退したことにより、現在は4人で活動している。大阪を拠点に活動するインディーズバンドでありながら、8thシングル『GLORIA〜栄光のキズナ〜』(2015年リリース)をオリコンウィークリーチャート8位に送り込むなど、人気も実力もあるバンドだ。また、曲名に“NANIWA”を冠したり、作品リリース時には、関西地区限定で“なにわ盤”を用意するなど、徹底した大阪レペゼンの姿勢を貫く、2010年代の関西ヴィジュアル系シーンを代表するバンドである。
ジャパニーズメタルの血統
彼らの音楽は、曲によっては、レゲエやサンバに挑戦する遊び心や、エレクトロニカを取り入れるなど、雑多ではあるが、主軸にあるのは、EARTHSHAKERや44MAGNUM、LOUDNESSらを彷彿とさせる、ハードロックやヘヴィメタルだ。そして、それらのジャパニーズメタルバンドこそ、1970年代後半に関西で誕生したミュージシャンたちであり、さらに言えば、彼らから影響を受けたD'ERLANGER、そのD'ERLANGERから影響を受けたDIR EN GREYというように、今日まで続くヴィジュアル系の源流にもあたる。FEST VAINQUEURは、まさに、ヴィジュアル系のルーツでもある関西発のジャパニーズメタルバンドの系譜を受け継いだバンドと言えるのだ。
関西ヴィジュアル系シーンで最も勢いのあるバンド、ザアザア
2014年に大阪で結成された4人組バンドのザアザアは、短いスパンで作品をどんどんリリースし、結成から1年でキャパ300〜400ほどのOSAKA MUSEでの単独公演もソールドアウトさせた、今最も勢いのあるバンドだ。彼らの楽曲からは、ハードコアやフォークなどの要素も見られるが、目立つのは、J-ROCKのリスナーにも受け入れられそうなキャッチーなギターロックである。「雨に殺される」や「「うそつき」」の、シンコペーションで展開するサビの疾走感や、哀愁の漂うメロディは、とても耳に残る。ところが、曲名からも見て取れるように、歌詞に一癖あるのが、彼らの特徴だ。
関西ゼロ世代を連想させる表現手法
<何もない 何もない 自分には何もないんだ>(「死にたい」)、<ねえ あなたは殺した>(「人殺し」)。思わずギョッとしてしまう曲名と歌詞だが、このような、ドロっとした感情を繕うことなくありのまま吐き出すザアザアの表現手法は、悲しみや痛みなどのネガティブな感情を題材としつつも、それらを美しく昇華させるヴィジュアル系の様式からは、少しはみ出ている。繕わないということは、つまり、感情をより純度の高い言葉で表現しているとも言える。その、純粋すぎるがゆえに浮世離れして見える点は、2000年代に関西から登場した、アバンギャルドな魅力が光る女性2人組の、あふりらんぽや、セーラー服を纏い、衝動のままに叫んでいた後藤まりこを擁したパンクバンド、ミドリなど、関西ゼロ世代の面々と共鳴するように感じる。
FEST VAINQUEURとザアザア、どちらともヴィジュアル系らしい、多様な音楽性を取り入れたバンドだが、その“多様さ”を解きほぐしてみると、ジャパニーズメタルからの系譜や、関西ゼロ世代との共鳴など、関西の先駆者バンドの姿が見えてくる。もちろん、関西にヴィジュアル系文化を根付かせた功労者、KISAKIの存在も大きい。このような先駆者が耕した土壌があるからこそ、FEST VAINQUEURやザアザアのような個性豊かなバンドが、関西で生まれたのではないだろうか。