『夢の果てまで』リリースインタビュー

早見沙織が語る、竹内まりや提供『劇場版 はいからさんが通る』主題歌での成長

「キャッチーさを削って挑戦していく」

ーー早見さんの楽曲制作におけるインスピレーションは、どんな時に生まれることが多いんでしょうか。

早見:日々生活していくなかで、一つの物語というより、映画の場面写真、画像のスクリーンショットみたいな形で頭に浮かぶ風景があって、それを曲にしていくという感覚です。例えば「雨の水平線」だと、防波堤で雨が振っていて、ギリギリのところまで水が来ている……みたいな。「SIDE SEAT TRAVEL」も、車に乗っていて、バックミラーに映るあの人の笑った目が三日月みたい……というイメージでした。

ーー作曲については、前回「機材は猫足の茶色いアップライトピアノと電子ピアノ」で作っていると話していただいてたのですが、「SIDE SEAT TRAVEL」は明らかに電子ピアノで作った形跡の見える楽曲ですね。

早見:そうですね。ピアノを触っていたときに、2つコードの繋がりができて「おっ!」と思ったんです。そこから膨らませていって、一番最後のウーアーコーラス部分ができました。

ーーそこから作っていったんですね。

早見:元々この部分は1番のサビに入れる予定だったんです。そのあとはふんわり重ねる感じにしたいなと思って音を重ねていったら、「これ、私の好きなやつじゃないか!」とテンションが上がって(笑)。そこからはどんどん好きな方向に走って、Aメロまで作り上げていったという感じです。

 ウーアーコーラスの部分については、アレンジのときに増田さんと「冗長になるかも」と話しあって、一番最後の部分に変えたんです。その際に間奏のアプローチも合わせて提案していただいたのですが、それが物凄く良かったので、そのまま入れていただきました。

ーー間奏でギアがもう一段階入るようになっている箇所は、その後の歌詞と合わせて聴くと、視点がかわるような構成になっていますよね。

早見:そうなんです。アレンジが歌詞に影響している部分はすごく大きくて。Aメロの<微笑むなら三日月>の箇所やBメロの<背中の嘘~>の部分はピアノを弾きながら考えていて、あとはアレンジの雰囲気に触発されて、スラスラと書けました。

ーーアレンジといえば、表題曲と同じく編曲には増田さんがクレジットされていますが、どのようにやり取りをして作っていったのか気になります。

早見:一番最初に増田さんから上げていただいたアレンジは、何かのアニメのOPになりそうなくらいポップなものだったんです。「何かあったら気軽に言ってくださいね」と言ってくださったので、お言葉に甘えて「今のも好きなんですけど、もう少しトロっとした感じにしたい」とお願いして、リズムもBPM0.5違いくらいで遅いものと早いものを作ってもらったことで、今の完成形が見えてきました。それでも、私が「この曲くらい!」と言ったものよりは早いくらいです。

ーーでは、もっとメロウなものを想定していたということですね。

早見:そうなんです。キリンジさんの「まぶしがりや」とか「代官山エレジー」みたいな。

ーー『OMUNIBUS』時代のキリンジですか! それはまたセンスの良いチョイスですね。

早見:でも、「SIDE SEAT TRAVEL」はサビとAメロで感じが変わるので、Aメロはもっとアーバンにしなきゃと思って。松任谷由実さんの「12月の雨」みたいな空気の時代感が合うかなと考えて、それらをリファレンスとして増田さんにお渡ししました。

ーー増田さんとはそんなやり取りがあったんですね。

早見:増田さんもAORやソウルミュージックがお好きだったようで、ともすれば地味にもなりうるところでの、細かいマニアックさを追求できたのは良かったです。たとえば、アニメタイアップや主題歌だとキャッチーさやポップさ、キメの多さを重視するじゃないですか。この曲の最初のアレンジも、キメが多かったんですけど、私から無くしてくださいとお願いしたんです。曲としてお互いにキャッチーさを削って、音楽的に挑戦していくのは、すごく刺激的な作業でした。作り終わったあとに増田さんと話したら「『やって良いんだ』と驚きました。こういう曲ができてよかった」と言ってくださったのが印象に残っています。

ーーアレンジャーが同じというのも大きいと思うんですけど、結果的にすごくシナジーがあるシングルになりましたね。竹内まりやさんも含め、スマイルカンパニー節が効いた作品になったというか。

早見:確かに、そういう意味では結果的にすごくまとまりのあるシングルになったと思います。

ーーそんな2曲に共通するのは、早見さんの歌唱表現における艶っぽさの進化だと思います。声の持つ雰囲気がこれまでとはまた違うものになっているというか。

早見:言葉や曲の持つ空気感に引っ張られた結果、そういう歌い方になったのかもしれません。「SIDE SEAT TRAVEL」はプリプロで歌ったときに「少し子供っぽいかな」と思って、大人っぽい歌い方を意識した部分は間違いなくありますね。

ーーそんな歌い方が存分に発揮されていたのが、先日東京キネマ倶楽部で行なわれたコンベンションライブでした。

早見:あのときは、会場にインスピレーションをもらったことも大きかったです。当初は大幅なアレンジは「Installation」をバラード風にするくらいだったんですけど、リハをやっていく過程で色んなことを思いついて、バンドの皆さんに「恐縮なんですが、『やさしい希望』のアレンジを変えたいです……」とお願いしました。

ーー「やさしい希望」はボッサ的なアレンジでしたよね。

早見:そうです。ボッサっぽくしようと相談しているなか、増田さんが即興で「ここはミニー・リパートンだな」と彼女の「Lovin' You」を演奏してくれたんですけど、コードも原曲とすごく似ていて、「その感じで行こう!」と満場一致で決まりました。

ーーそうやって、以前の楽曲をジャジーにボッサにとアレンジして披露していった結果として、今回の「夢の果てまで」や「SIDE SEAT TRAVEL」へとスムーズに繋がっている気がします。これが今後のライブにおける指標になるのでは、とワクワクしました。

早見:繋がった結果、今のモードになっているというのは確かにそうかもしれません。ただ、だからといってこの歌い方を固定するわけではなくて、この先すごく可愛らしくなるかもしれません。いずれにせよ、これからも楽曲に引っ張られた歌い方になるんだろうなと思います。

ーーお話を聞いていて、昨年から今年にかけて、歌への向き合い方が変わったように感じています。

早見:あー、そうかもしれません。具体的に一言で表せることではないんですが、広がりを持てるようになってきたというか。生活の中でも音楽や歌のことを考える割合が増えてきて、歌っているときのことだったり、歌を考えていることだったり、濃密に自分の内側で広がりを見せていて。多方面から、音楽について考えることができるようになっているんです。

ーーその変化は面白いですね。そんな早見さんが、今作の先に何を見据えているのか、最後に聞かせてください。

早見:リリースと映画の公開が同じ週なので、映画とともに私の音楽も楽しんでいただけると嬉しいです。あと、来年に向けての動きもスタートしています。ライブも、その先のリリースも目指しているので、自分の中でもどんどん新しいものを生み出していきたいですね。

早見沙織によるルーツ・影響を受けた作品について語るコラムはこちら

(取材・文=中村拓海/撮影=外林健太)

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<応募締切>
11月21日(火)まで

■リリース情報
『夢の果てまで』
発売日:11月8日(水)
価格:アーティスト盤 ¥1,800+税、アニメ盤 ¥1,800+税、通常盤 ¥1,200+税

<CD収録曲>※全商品共通
1. 夢の果てまで
作詞・作曲:竹内まりや 編曲:増田武史
2. SIDE SEAT TRAVEL
作詞・作曲:早見沙織 編曲:増田武史
3. 夢の果てまで(Instrumental)
4. SIDE SEAT TRAVEL(Instrumental)

<アーティスト盤 DVD収録内容>
「夢の果てまで」MUSIC VIDEO

<アニメ盤 DVD収録内容>
劇場版「はいからさんが通る 前編 ~紅緒、花の17歳~」の映像を
使用したMV

■映画情報
劇場版 はいからさんが通る 前編 ~紅緒、花の17歳~
公開日:11月11日(土)
※後編『劇場版 はいからさんが通る 後編 ~花の東京大ロマン~』は2018年公開予定。

<CAST>
花村紅緒:早見沙織
伊集院 忍:宮野真守
青江冬星:櫻井孝宏
鬼島森吾:中井和哉
藤枝蘭丸:梶 裕貴
北小路 環:瀬戸麻沙美
花村少佐:石塚運昇
ばあや:鈴木れい子
牛五郎:三宅健太
吉次:伊藤 静 ほか

<STAFF>
原作:大和和紀「はいからさんが通る」 講談社KCDX デザート
監督(前編)・脚本:古橋一浩
キャラクターデザイン:西位輝実
サブキャラクターデザイン・総作画監督:小池智史
背景デザイン・美術監督:秋山健太郎
色彩設計:辻田邦夫 ※辻は「1点しんにょう」。
撮影監督:荻原猛夫(グラフィニカ)
音響監督:若林和弘
音楽:大島ミチル
主題歌:「夢の果てまで」 早見沙織
作詞・作曲:竹内まりや 編曲:増田武史
アニメーション制作:日本アニメーション
製作:劇場版「はいからさんが通る」製作委員会
配給:ワーナー・ブラザース映画

早見沙織 公式HP

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