『PROGRESS』リリースインタビュー

FIRE BALLが語る、“レベルミュージック”の現在「生活の中にも歌うべきテーマはたくさんある」

 FIRE BALLが、7月12日にアルバム『PROGRESS』をリリースした。“進化”や“進歩”という言葉をタイトルに冠した同作は、結成20年を迎えたグループのさらなる躍進を予感させるものだ。リアルサウンドでは今回、CHOZEN LEE、JUN 4 SHOT、TRUTHFUL(a.k.a. STICKO)、SUPER CRISSの4人へインタビューを行ない、彼らだからこそ表現できるレベルミュージックの現在地や、三代目J Soul BrothersのELLYがラッパー・CRAZYBOY名義で参加した楽曲をはじめとした豪華コラボの理由、そして20年目以降の展開などについて、じっくりと話を訊いた。(編集部)

「年を重ねなければわからないことって、間違いなくあるんですよ」(リー)

ーー今回のアルバムタイトルである“PROGRESS”には、“進化”や“進歩”という意味合いがあります。結成20年にしてこのタイトルを付けるのは、かなり挑戦的だと感じました。

CHOZEN LEE(以下、リー):Mighty Crown Familyでは、毎年テーマを決めているんです。たとえば去年なら“ACTION”、その前年は“ONE LINK”という風に。それで、今年はどうしようと話し合っているときに、スティッコから“PROGRESS”というテーマが出てきて。単語として少しわかりにくいという意見もあったけれど、響きも意味合いもかっこいいし、必ずしも意味がわからない人を基準に物事を決めていく必要はないかなと、最終的に“PROGRESS”がテーマになりました。なので、先にタイトルがあって、アルバムを作っていったんです。

JUN 4 SHOT(以下、ジュン):タイトルが付いた時点で、ハードルが高くなってしまいました。常に進化していくって、簡単なことじゃないですから。僕ら自身、20年やってきて、9枚アルバムを作ってきて、リリックを書くにしても何にしても、あらゆるネタをすでにやり尽くしている。でも、そこからさらに殻をぶち破っていかなくてはいけない。だから、何をもって進歩・進化とするのかは、かなり悩みましたね。とはいえ、アルバムを作るときは常に全力で、前作を超えようという意識でやっているので、その基本姿勢は変わりませんでした。まだ作品を客観視することはできないけれど、聴いた人が「あ、進化しているね」と感じてくれたら、すごく嬉しいですね。

JUN 4 SHOT

ーーFIRE BALLは、常に最新のサウンドアプローチに挑戦していて、その中でメッセージや歌声をどう聴かせるかに注力しているので、リスナーとしては毎回、進化し続けている印象です。また、音楽性だけではなく、近年はそのスタンスも変わってきているように感じます。前作『one』に収録された「Wonderful Days」は、横浜髙島屋とのタイアップが実現し、より幅広い人々にFIRE BALLの音楽を届けるきっかけになりました。

TRUTHFUL(a.k.a. STICKO)(以下、スティッコ):ダンスホール・レゲエをやってるちょっと怖い人たちというネガティブなイメージは払拭できたと思います。最初に始めた頃、ダンスホール・レゲエで一気に知られるようになったから、そういうイメージが強かったんだろうね。でも、FIRE BALLはもともとゆったりしたミッドのレゲエの方が得意というか、性に合っている連中だと思います。ジャマイカのレゲエが大好きだし、Mighty Crownの影響も大きいからね。「Wonderful Days」は、そういう僕らの本来のイメージを幅広い方々に伝えることができた一曲で、子どもからお年寄りまで、いろんな人に聴いてもらえたのが嬉しかったし、そういう意味で殻を破ることができたと思います。

SUPER CRISS(以下、クリス):ピースなイメージになってきたのは、自然なことだと思います。もちろん、僕らの音楽にはレベルミュージックとしての側面もあるし、トラックに合わせてイメージを膨らませているので、表現している喜怒哀楽には色んな種類がありますけれど、基本的にはポジティブなマインドでやっていますから。

リー:みんな昔とは状況も変わったしね。家族ができて、子どもができてとなると、感情も変化するし、言葉の選び方も変わってくるから。そういうのが自然とピースなイメージを強くしていったところもあるかもしれない。

ジュン:年相応のものの考え方をするようになると、メッセージの内容にも変化はあります。たとえば、世の中のいろんな物事を見て、それが子どもたちにどんな影響を与えるのかとか、考えるようになるし、その中でレベルミュージックをやろうと思うと、自然と社会的なメッセージも出てくる。レゲエはもともと、ジャマイカの貧困のある中から生まれてきた音楽で、だからこそ強いメッセージ性があるんですけれど、実は僕らの生活の中にも歌うべきテーマはたくさんあるんだなと、最近は改めて思います。

SUPER CRISS

ーー今回のアルバムでいうと、ネット社会への提言などを含む「何がどうしてこうなった?」は、まさに皆さんが今の年齢だからこそ表現できるレベルミュージックだと感じました。

リー:年を重ねなければわからないことって、間違いなくあるんですよ。「何がどうしてこうなった?」もそうですし、「Wonderful Days」も、たぶん若い人には書けない歌詞だと思う。でも逆に、若い人が書いているようなピュアな歌詞は、もう俺たちには書けないのかもしれない。ただ、表現の仕方に変化はあっても、根本的に伝えているメッセージは、昔とそれほど変わっていないと思います。

ジュン:メンバーの歌詞の書き方を見ていると、やっぱり上手くなっているなと感じます。その問題に対して、頭ごなしに「あれはダメだ」って言うんじゃなくて、その問題自体を聞き手に考えさせるような言い回しにしていたりとか。問題提起への持っていきかたが上手いというかね。

TRUTHFUL(a.k.a. STICKO)

ーー世の中になにかしらのメッセージを発信していく上で、大きな転換点となった出来事はありますか?

リー:言いたいことは基本的に変わっていないんですけれど、やっぱり3.11は大きかったと思います。たぶん、俺らだけではなく、日本中のあらゆる人々、あらゆるアーティストにとって一大事だった。3.11以降、なにをどう表現するかはすごく問われましたよね。

CHOZEN LEE

ーー実際、3.11以降に方向性が変化したアーティストも少なくないと感じています。

リー:スタンスは人それぞれで、いろんな意見がありますよね。たとえば3.11に大きく影響を受けて、政治的なメッセージを発信するようになったアーティストと、あえて3.11とは距離を置いて、これまで通り自分の音楽を追求するアーティストがいたとして、僕個人としては、どちらも素直に聴けるかなと。みんな、それぞれに考えた上での意見だろうから、それを尊重して素直に聴きたい。

ジュン:結局のところ、最終的に判断しないといけないのは自分だし。自分がそのメッセージを受けて、どう考えるかが重要ですからね。

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