柴那典・森朋之・杉山仁が紐解く、2017年上半期チャート

2017年上半期チャートに見るJ-POPの現状とは? 有識者3人の座談会

「どれだけ遠くにいる人と関われるかが、新たなものを作るうえでのキーワード」(森)

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ーー音楽リスナーにとってアルバムは作品として楽しむものですが、そうではないライトな層からは、プレイリストのように受け止められているのかもしれません。話題を変えて、バンドたちの状況がこれらのチャートでどうなっているかということに触れたいのですが、各指標でTOP10に入っているバンドを挙げると、WANIMA、back number、ONE OK ROCK、Mr.Children、Suchmos、SHISHAMO、RADWIMPSというラインナップになります。

森:Suchmosの健闘がすごいですね。ハイレゾでも多く聴かれているというのも興味深いです。音楽的なことも沢山語られていますが、まず40代の方に多く聴かれているというのも大きいですよね。アシッドジャズのカルチャーを通った人への刺さり方も強烈なものがあったと思いますし、横山剣(クレイジーケンバンド)さんはクローズドなライブで「STAY TUNE」をカバーして、ライブ自体もメチャクチャ盛り上がっているらしいですよ。

杉山:一方でライブに行くと10代や20代といった若いお客さんが多いんですよね。

柴:1年前は、Suchmosだけがここまで飛び抜けた存在になるとは想像出来ませんでした。

杉山:水曜日のカンパネラのコムアイさんも、取材をさせてもらった際に「Suchmosが売れたから日本はいい国」と言っていました(笑)。

ーーちなみに、お三方が上半期のMVPを挙げるとしたら?

杉山:個人的に、今の10~20代のミュージシャン、とくに20代前半以下の世代って、HIPHOPを自然に聴きすぎて、メロディが変わってきている気がするんですよ。解像度が上がっているというか。HIPHOPには五線譜に書けないような音が沢山ありますけど、それが自然と歌に出てくるアーティストが多くなっている。ラップじゃないけどラップっぽい、“新しいうた”としか言いようのないものも増えていて、ぼくのりりっくのぼうよみやDAOKOもその一人だと思います。それを踏まえて、個人的なMVPは水曜日のカンパネラですね。カンパネラはボーカルだけでなく音楽的にも世界的なクラブ・ミュージックの最先端を絶妙な形で取り入れていますし、コムアイさんはシーンのアイコンになる気概のある人でもあって、チャンス・ザ・ラッパー的なアーティストスタンスも持ち合わせていますから。

柴:僕は、蔦谷好位置さんを挙げたいです。特にここ最近のゆずに衝撃を受けたので。

森:「カナリア」はMOROHAのUKさん(Gt)が参加していますよね。彼のギターが本当にすごい。

柴:この曲の何がすごいかというと、彼らはMOROHAを起用することで、エド・シーラン『÷』がなぜヒットしたのかということをJ-POP風に解釈して、彼らなりの回答を提示してみせたと言えると思うんです。「愛こそ」もそうで、トロピカルハウス以降のボイスエフェクトやマレット系の音色を使ったポップスを提示してみせた。これは共同プロデュースを手掛けた蔦谷好位置さんのセンスゆえだと思いますが、ゆずにとっても大きな挑戦だったでしょうし、そこに踏み出した2人もスタッフも凄いなと思います。とはいえ冒険するだけではなく、ベスト盤もしっかり売っているのもまた面白い。

森:先日2人に取材したのですが、「できるだけ遠いところにいる人と合わさるのが楽しい」というスタンスのようですね。そう考えるとMOROHAを聴いて「このギターに自分たちのメロディを乗せてみたい」と思ったのも納得できるし、そこに蔦谷さんが参加しているのも興味深い。どれだけ遠くにいる人と関われるかが、新たなものを作るうえでのキーワードと言えそうですね。

ーー蔦谷さんに関しては、『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日系)への出演で一層その評価を高め、ラジオなど含めて世界的に最先端の音楽を取り入れながら、自身のプロデュースワークの質もどんどんグローバルなものになっているような気がします。

柴:彼はいま、ここ10年くらい続いてきたJ-POPの景色を変えようとしているのかもしれません。日本独自の良い意味でガラパゴス的な進化を遂げてきたゼロ年代〜2010年代のJ-POPからモードが変わって、同時代の海外の潮流をしっかり取り入れた上で再解釈するという90年代的なJ-POPに近い動きが生まれている。それを引っ張る役割を蔦谷さんがどんどんやっているような気がします。現在橘慶太(w-inds)とSKY-HIと動かしているというプロジェクトも進んでいたりして。個人的にはカルヴィン・ハリスの新作をどう解釈してJ-POPに昇華するかも楽しみです。

杉山:実際、J-POPでオリコンTOP10に入ってくるような曲も、トラップ・フューチャーベース、トロピカルハウスを取り入れているものも増えてくるなど、洋楽サウンドのJ-POP的再解釈はどんどん洗練されているような気がします。

ーー森さんは上半期のMVPに何を選びますか?

森:僕はSuchmosですかね。バンドに対して「頑張って欲しい」という気持ちは常にありますし、いまフェスのメインを張っているような人たちと違う潮流が生まれないと、バンドシーンそのものが頭打ちになると危惧していたころに登場して、再びバンドの価値を高めてみせた。

ーーでは、最後に期待の新人についても教えてください。

森:先程話題にも上がりましたが、神様、僕は気づいてしまったには可能性を感じていますね。バンドというフォーマットを使ってまだ出来ることがあると提示してくれているようなグループで、彼らの活動がSuchmosとは違うベクトルで次の可能性を切り開く気がする。『SUMMER SONIC 2017』での初ライブも楽しみです。

柴:僕は、ライブを観た衝撃度でいうとちゃんみなかもしれません。彼女は世界観を自分で構築して物語を作ってプロデュースする才能に長けていて、パフォーマーというよりも作り手に近い印象を受けました。フロアの観客もかなり若くて、彼女のカリスマ性に惹かれて集まってきているし、ちゃんみな自身もそれを引き受けている。賛否両論はありますが、レディ・ガガをロールモデルにしたような成功を果たす可能性はある。

ーー杉山さんはどうでしょう?

杉山:そうですね……個人的には日本のポップスに影響を与えている「ゲームミュージック」の存在を無視できなくて。そこに大きな影響を受けたり、実際にその分野で活躍している10代のクリエイターも多いですし、クラブミュージック・アニメ・声優のシーンと繋がるプロデューサーも続々と登場しているんです。その代表格として、Snail's HouseとYunomiを挙げたいです。Yunomiはアイドルシーンでの楽曲提供も多いですし、花澤香菜さんのリミックスアルバム『KANAight 〜花澤香菜キャラソン ハイパークロニクルミックス〜』で「恋愛サーキュレーション」のリミックスを担当したりとブレイクの予兆を感じさせます。

ーーアニメの話でいうと、どうぶつビスケッツ×PPPの「ようこそジャパリパークへ」も今年上半期のヒット曲でしたね。

柴:この手のゼロ年代から新たに登場した音楽を僕は「過圧縮ポップ」と呼んでるんですが、それは2017年も機能しているんだと改めて感じました。これを星野源が絶賛したというのもまた面白い。

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ーー星野源はいまやキュレーターのような立ち位置になっていますよね。

柴:星野源って、2010年代後半のJ-POPシーンにおいてヘゲモニーを握っている存在ですから。どんな曲を作るのかだけではなく、何をピックアップするのかにも注目ですね。

森:中学時代からアニソンやB’z、CHAGE and ASKAが好きだった人ですからね。趣味の幅がかなり広い。

柴:僕の中では星野源とジャスティン・ビーバーに重なる部分があると思っていて。2人ともロングセラーのモンスターヒットを続けているアーティストであり、ともに過去の刷新をした作品でその座についたという共通点がある。『Purpose』は過去のジャスティン・ビーバーを完全に塗り替えて、DiploとSkrillexの力を借りて音楽のフォーマットを新しくしたからこそ、耐久性の高いアルバムになっている。星野源は「恋」で “モータウンコア”という新たなスタイルを確立した。共にある種の革新性がポップスターとしての力に結びついているし、何より彼らはキュレーターとしての能力が圧倒的に高い。

杉山:ジャスティン・ビーバーに関しては、ピコ太郎のブレイクにも一役買っていますし、彼の作品によってトロピカルハウスが流行って、日本のJ-POPにもその流れが来ているわけですしね。2人とも本来つながらないものを繋ぐ能力に長けていると言えるし、繋がるはずのなかったものを繋げてこその時代になってきているので、今年の後半以降も楽しみですね。

(取材・文=中村拓海)

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