スペースシャワーTV主催『TOKYO MUSIC ODYSSEY』レポート
映像、アート、テクノロジー……音楽との刺激的なコラボ見せた『TOKYO MUSIC ODYSSEY』レポ
『NEW FORCE』(3月5日)
3月5日に行われた『NEW FORCE』にはニューカマーアーティストが揃った。一番手のFor Tracy Hydeは、昨年12月にリリースした1stアルバム『Film Bleu』の楽曲を中心に披露。轟音ギターと歪んだノイズ、そしてeurekaの儚く透明感のあるボーカルと、ギターポップ〜シューゲイザーをルーツに持ちながらも、ジャンルを越えて普遍的に届くポップセンスが光るパフォーマンスを見せた。続いて向井太一がステージに立つと、会場のムードは一転。洗練されたエレクトロニックR&Bで音と音の「間」を巧みに使い、心地よいグルーヴを生み出す。生のドラムやサンプラーを取り入れ、ハンドマイクで歌う向井太一の立ち姿は、これからシーンの中で存在感を増していくことを期待させるものだった。
また、The Wisely Brothersは3ピースのガールズバンドだ。3月29日発売の『HEMMING EP』は、GREAT3の片寄明人をプロデューサーに迎え制作。ネオアコやオルタナ、USインディなどのエッセンスを取り入れながらも、それらをクロスオーバーさせることで、等身大の自分を歌った、遊び心あるポップスとして昇華している。また、女性シンガーのiriは、ヒップホップ的な矢継ぎ早のリリックを歌い上げる。スモーキーかつパワフルな歌声や、堂々とした佇まい、そして、現代社会に対しての思いを率直に歌うメッセージ性のある歌詞からは、ディーバとしての魅力を感じさせた。
そして、この日のトリはドミコが務めた。ギターとドラムの二人編成で、昨年11月に発売した『soo coo?』の楽曲を中心に、キャッチーなメロディや唐突に加速するリフ、転調を繰り返しクセになるグルーヴを練り上げた。アンコールでは「マイララバイ」を演奏し、分厚いサウンドを轟音で鳴らし終えると、フロアから拍手と歓声が沸き起こった。
この日登場した5組は、同世代でありながらも、編成やジャンルは様々。今の音楽シーンを象徴するような多様性を感じるライブだった。『NEW FORCE』の出演者は、ここから一年間スペースシャワーTVの一押しアーティストとして各所で活動するというが、ぜひ音楽シーンに新たな風を吹かせる存在として活躍してほしい。
『SHIBUYA POP UP STUDIO』(3月4日〜6日)
また同じく3月4日から6日にかけては、渋谷スペイン坂のGALLERY X BY PARCOにて『SHIBUYA POP UP STUDIO』が開催され、ミュージシャン、クリエイターによるトークセッションが行われた。
『クリエイティブ × 2020 ~世界を魅了する、メイドインジャパンのクリエイション~』に登壇したのは、“チームPerfume”としても活躍するメディアアーティストの真鍋大度と、演出振付家のMIKIKO。リオ五輪閉会式『トーキョーショー』の裏側や作品の作り方をテーマにトークを繰り広げた。MIKIKOは、『トーキョーショー』に関して、「(自分が)一番かっこいいものだと信じることのできる演出を考えました。結果、多くの人に誇りに思ってもらうことができ、迎合せずに自分なりの表現を追求していいという自信になった」と話した。真鍋とMIKIKOがそれぞれ所属するRhizomatiks ResearchとELEVENPLAYは、4月にオープンするGallery AaMoのこけら落としのために新しい作品を発表することも決まっている。 テクノロジーと身体表現という異種のものが組み合わせることで、両者はこれからどんな新たなアート、そしてエンターテインメントが生みだし、我々を楽しませてくれるのだろうか。
また、『音楽 × 東京 ~クロスオーバーするTOKYOカルチャー~』にはZeebra×オカモトレイジ(OKAMOTO’S)が登場。ヒップホップシーンの変化や風営法改正といったナイトカルチャーの重要性について熱い議論を交わした。Zeebraは、アーティスト活動以外にも、プロデューサーやアンバサダーといった裏方業にも積極的で、風営法改正にも働きかけた、東京の音楽カルチャーの重要人物の一人。一方オカモトレイジは、国外でもライブを重ねてきた経験をもとに、日本、そして渋谷の街の音楽事情について明かした。ふたりのトークからは、音楽カルチャーを動かすためには、アーティストの表現活動はもちろん、音楽が広がる“場所”をしっかりと残していくことが重要であると実感させられた。
そして、『気鋭の映像クリエイターが映し出す、都市と音楽の未来』に登場した映像作家dutch_tokyo(山田健人/yahyel)は、映像制作を志すようになった経緯や、自身の今後の展望について語った。学生時代はアメフトに熱中し、そこから友人の誘いをきっかけに映像に携わるように。今では、Suchmosやyahyel、米津玄師といった同世代のアーティスト、そして宇多田ヒカルとKOHHが共演した「忘却」のMVも制作している。一切の妥協を許さないストイックな精神と、過去のあらゆる経験をもとに、純度の高い作品を制作していく姿勢には、今後さらに大きな存在感を発揮するアーティストになるのではないかという予感を抱いた。
トークショーに参加したミュージシャン、クリエイターが放つメッセージはどれもポジティブで、これから訪れる「都市と音楽の未来」が楽しみになる話を聞くことができた。