1stミニアルバム『東京におけるセックスフレンドや恋人のなにがし(またはそれに似た情事)について聞いて書いた。』インタビュー

白神真志朗が語る、“リアル過ぎるラブソング”への挑戦「描写されない恋愛の瞬間を拾う」

「どこまでポップに突き抜けられるか」

ーー今回の白神さんの作品も、ひとつひとつ音楽的なアイデアや影響源を紐解いていってもらうことはできますか? たとえば1曲目の「バイバイ」は、サウンドだけ聴くとシンセ・リフを中心に据えた洋楽志向のエレクトロ・ポップになっていますね。加えて、ビートは四つ打ちで、トロピカル・ハウス的な要素も感じられます。

白神:これはもともとまったく違う雰囲気の曲だったんですけど、アレンジのいいリファレンスを探していたときに、The Weekndの(ポップに突き抜けた新作収録曲)「I Feel It Coming ft. Daft Punk」を聴いて、その質感を参考にしました。というのも、これまでは自分自身では無から生み出したと思う曲を作ってきたんですけど、今回はむしろ、どこまでポップに突き抜けられるかということを考えていて。それもあって、US/UKのヒット・チャートの曲を意識的に聴いていました。そこで(トロピカル・ハウス的な要素を取り入れた)ジャスティン・ビーバーの新曲も参考にして。あとは単純に、僕はもともとクラブに行くのも好きなので、その雰囲気を出してみようと思いました。

ーー続いて、MVとコーラスで『ミスiD2016』のグランプリになった保紫萌香さんが参加した2曲目の「共犯者」は、都会の夜を連想させる曲になっています。

白神:この曲は僕の楽曲では初の外部アレンジャーとして、origami PRODUCTIONSのShingo Suzukiさんが参加してくださいました。でも最初は、「Gorillazと平井堅さんの合いの子」のようなアレンジの曲だったんです。当初はイントロをわざと大仰なものにしていて、全然違う雰囲気でした。最終的なアレンジは、僕はロック畑の人間でR&Bやヒップホップの黒さを持っている人間ではないので、そういう人にやっていただいたらどうなるか、ということを追究していった形ですね。

ーーその結果、最終的に収録されているアレンジでは90年代の古内東子さんの楽曲にも通じる、大人のビターなソウル/シティ・ポップスのような雰囲気を感じました。

白神:僕はこれまで、自分にとって古いと感じられる音は基本的にNGにしてきました。でも、この曲は、意図的に少し懐かしい雰囲気にしようと思ったんですよ。たとえば僕には、昭和歌謡はすごく古臭い音楽に聞こえる。でも一方で、同じ昔の音楽でもエリック・クラプトンの曲は古いとは感じない。これは自分の好みに合うか合わないかだけの話だとも思いますけど、この作品では自分が今聴いても古いと感じられない昔の要素を取り入れようと思いました。保紫さんの参加はレコーディングの直前に決まったんですが、演技をする方なので、声に表情をつけるのも上手かったですね。そもそも今回の楽曲は、「私」「あなた」という一人称/二人称は登場しますけど、「彼」「彼女」という三人称は登場しないので、女性目線であることは明確には示していない。でも、どこか女性目線の曲なんだろうなということは匂わせていて。保紫さんはそこを補足してくれる役割も担ってくれたと思います。

白神真志朗 『共犯者』

ーー次の「擦れ違い」は、よりEDM的な要素を取り入れたイメージですか?

白神:僕は昔、海外のアーティストとのコライト(共作)・キャンプに参加していたことがあって、そのときEDM系の作家が沢山来ていて。ちょうどスクリレックスやゼッド、アヴィーチーたちが出てきたときで、僕も「かっこいいな」と思って色々聴いていました。でも、今自分の作品で露骨にEDMやダブステップをやるのは流石に新しくないなと思って、そこにポストロック的なギターのエッセンスを加えて2つを上手く合わせようと思いました。途中に出てくるシンセのアタックとキックを軸にして、そこにギターのエッセンスを入れるバランスを調整していった感じですね。

ーー 一方、4曲目の「スガタミ」は生音のバンド・サウンドで、ゲスト・ミュージシャンとしてグシミヤギヒデユキさん(ギター)とゆーまおさん(ドラム)が参加しています。この曲はどんなアイディアで生まれたものだったんですか?

白神:これはColdplayとかをイメージしながら、「バラードを作ろう」と思って取り掛かった曲ですね。僕はこういう曲は生楽器にしたいんですけど、ヒトリエのゆーまおは日本国内で一緒に演奏したことのあるドラマーの中で、僕が一番好きなプレイヤー。彼も僕が作る音楽を聴いていてくれて、「何か機会があれば叩きたい」とずっと言ってくれていて。今回も呼ぼうということで参加してもらいました。グシミヤギくんは今一緒にバンドをはじめたところで(じん、GARNiDELiAのメイリア、伊吹文裕と結成したGOUACHE)、技術もあるけど、それよりも表現力を重視するタイプのギタリスト。「スガタミ」は曲にストリングスを使っていることもあって、ギタリストとしてはかなりフレーズに制約のある曲でした。しかも、それに加えてアコギのマイクのセッティングなどにも時間がかかったりして、明け方に「まだギター・ソロが残ってる」という状態になってしまって。それでソロを弾いてもらったらめちゃくちゃ感情的でいいギターを弾いてくれて、ワンテイクでOKを出しました。僕がこれまで録ってきた中で、最高のギター・ソロだったと思います。

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