2ndアルバム『Noah’s Ark』インタビュー

ぼくのりりっくのぼうよみが語る、現代版“ノアの方舟”の行方「テクノロジーを使った上で、意志の問題を考えたい」

テクノロジーは良い悪いとかじゃない

ーー今回の作品で言うと、世界中の全員で同じ意志をもって方舟に乗っていくのか、それとも、ある程度コミュニケーションできてわかり合える人たちと方舟に乗っていくのか。

ぼくりり:今ある問題に対しての答えは1つじゃないと思いますし、今僕がやっていることが正解かどうかすらもわからないですよね。なので、「これが正解だ」みたいなのではなくて、「僕はこう思うんですけど、どうなんですかね?」みたいな感じで、みんなに「これはそう思います」とか「違うと思います」とむしろ教えてほしいーーくらいな感じでやっています。

ーー「これだけが答えじゃない」って、『hollow world』の頃から一貫していますよね。

ぼくりり:単純に人に強制するのが嫌いというか苦手なので。

ーーそこをどんな音楽に乗せていくか、どんな音楽として表現していくか。今作では、先日のクアトロライブにも出ていた、におさんがキーマンになっていて。

ぼくりり:今回はにおさん、雲のすみかさん、と本当にジャンルが違う曲が大量に入っています。例えば「Be Noble」ってジャンルは何になるんだろう? ドラムンベースかな。「在り処」はレゲエぽい感じがあるーーそういういろんなジャンルが入っている。これは裏テーマであるんですけど、ノアの方舟のエピソードって、いろんな動物のつがいを入れてたってあるじゃないですか。犬とか羊とかうさぎとか。このアルバムも、ノアの方舟にいろんな種類の生き物を1種類ずつ乗せて保存したっていうのと一緒でいろんなジャンルの曲が一つずつ入っているんです。

ーーなるほど。今作は言葉だけ取り出してみると「出口なし」みたいなギリギリの感じなのですがーー。

ぼくりり:終焉! 終わり!

ーー歌詞の世界をダイレクトに音楽にしたら、『ギギギ、ガガガ』っていうノイズ的表現になるかもしれない。でも、今作のサウンドはあくまでも心地よくて、楽しいものでもある。

ぼくりり:音楽には2つの役割があると思っていて。メッセージを伝えるための媒体、メガホンの役割もありつつ、単純に「音としていいぞ」とか「気持ちいいぞ」「聴きたいな」って思わせるっていう部分も大きいと思うんです。繰り返し聴かせることで、刷り込みが何回もできるっていうのも音楽の強いところ。なので、音だけで、例えば歌詞が全部「あー」とか「いー」とか、母音だけになったとしても成立するような感じでは作っていますね。

ーーもう一つ、音楽ってある意味で感情に作用するものでしょう? その中で、例えば音楽を通して意志を表現したりすることって、どういうふうに捉えているのかなと。

ぼくりり:音は感情を表し、意志は歌詞に全部委ねられる、というふうに役割分担が明確にされていると思っています。もちろん歌詞がもつメロディっていうのもあって、言葉自体にも音としての気持ちよさが宿っていると思うんですけど。そこの部分はありつつ、意味を伝えて思考を共有するのは言葉。曲の中ではどちらの部分も共有しつつやっているなっていう感じです。

ーー言葉といえば、「liar」では本格的にラップをやってますね。

ぼくりり:「やっとラップ始めたんだ、この人」みたいな(笑)。これは自分になぞらえて作った曲でもあって。例えば<気を許せばmonthlyで終わる泡沫>とか、わりと音楽業界に歌っている感もありますし、僕自身、「このまま全然売れなくて路頭に迷うんじゃないか」って思う時期もあって、そのときのネガティブな感情もガッツリ出ているような気はします。周りが全員敵に見えてくるんですよ。でも「なんで自分は疑っちゃうんだろう」って思ったら、自分がないから他人が怖くなるんだなって。

ーー<恐れは全部自分に起因する>というフレーズもありますね。

ぼくりり:『賭博黙示録カイジ』の心理バトルの中で、主人公のカイジが相手を騙すというより、相手を騙したフリをして勝つ、というエピソードがあるんです。ズルしているように見せて、実はズルしていない。相手からしたら「この場面で自分は絶対ズルするから、相手も絶対してるだろう」と考えるから、その逆をつく。「(人を疑う)蛇でいてくれてありがとう」みたいなセリフがあって、熱いなと。

ーー人は相手に自分の感情を投影しがちだと。

ぼくりり:自分以外を疑って、ずっと負のループを漂い続ける感じですね。自分のことを他人のせいにし続けて、どんどん勝手に沈んでいくっていうのが、すごくカルマぽいなっていう感じがしていて。

ーーそして、洪水を表現した9曲目の「Noah’s Ark」につながっていくんですね。

ぼくりり:第2部が。大洪水が来ちゃったよ、みたいな。

ーー<ゾンビの群れ 眠れ>というフレーズから始まって。

ぼくりり:「眠れ」っていうのは、要は自分の意思を眠らせること。何も見ないことにして、感情に全部委ねちゃうみたいな。これは本当に映画みたいな曲を作ろうと思って。洪水が来て、ノアの方舟もきていてるのに救われない。「舟だ、舟だ、舟だ、やったー!」と思ったら扉が閉まった、みたいな。すごく残酷な1シーンなんですけど。

ーー「after that」は、大洪水以降っていうことですね。このトラックを作ったのは、ジャズ系音楽家のニコラ・コンテで。

ぼくりり:YouTubeで聴いていいなと思って、スタッフに聞いてみたら「来日公演もやるらしいよ」って。そこに行かせてもらって、直接ライブ見た後に「アイラブユアミュージック!」「やってくれよ」みたいな。

ーーこの曲はラテン・ジャズ的なサウンドで、どこか楽園的でもあります。

ぼくりり:最初はもっとガッツリ暗い曲やろうと思っていたんですけど。送ってくれたデモがめっちゃよかったんです。アルバムの構成は最初の段階で考えていたので、トラックをもらったときに「これは『after that』だな」と決めました。

ーーある種の楽園的な世界で、人々の意志というのはどういうふうに働くのでしょう?

ぼくりり:ファーストの「sub/objective」のカウンターになるというか。「sub/objective」は「ガッツリ人の目を気にして生きているぞ」っていう曲なので、セカンドの終わりでは「失敗したところで、もう誰も気にしなくなったぞ」みたいな。そうした変化後の世界を描いている感じはありますね。

ーーやり直せる、というメッセージもありそうです。

ぼくりり:そうですね。テクノロジーを含めて、目まぐるしく変わっていく世界でどうやって生きていったらいいのか。それに対して、自分が思うことを書いてみた感じです。

ーーテクノロジーを人間の意志を奪うものと捉える立場もありますよね。それについてはどう思いますか?

ぼくりり:AIが仕事を奪う、とかね。曲にも書いているんですけど、テクノロジーは良い悪いとかじゃなくて、ただ便利なほうに進化していくだけ。それに対して文句言っていても止められないじゃないですか。当たり前のように僕たちの生活にシュッて入ってきて、いつのまにか支配しているものなので、それはもう便利に使うしかない。その上で意志の問題を考えたいんですよね。

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