2016年は“誰も予想していなかった”ヒット曲が生まれた? 「前前前世」「恋」「PPAP」から考察

 また、「恋」は、テレビを出発点としてブームになった曲だ。その理由は、テレビとネットの共存にあるという。

「人々の趣味嗜好がバラバラになったことで、話題を共有するためのアーキテクチャとしてのテレビの強さが改めて示された一年でした。特にTwitterを始めとしたリアルタイムで話題を共有するサービスと、テレビの相性はとてもいい。Twitterのトレンドにも、テレビ番組関連のハッシュタグがたびたび登場します。10年前は『ネットがテレビを駆逐する』と言われていましたが、今はテレビとスマートフォンが共存する視聴環境となり、ウェブメディアもテレビの話題を追いかけるようなニュースを多く配信するようになってきた。テレビを出発点としたヒット曲が多いのも、テレビとネットの関係性が変化したことの一つの表れかもしれません」

 スマートフォンの普及率の上昇が、テレビの見方、そしてヒット曲のあり方にも変化を及ぼしているようだ。最後に、同氏は2016年のJ-POPシーンを振り返ってこう総括した。

「今年のJ-POPシーンはとても面白かったと思います。5年前は『音楽が売れない』『アーティストはどうやって生き残るか』などのようなネガティブなことばかりが言われ、シーンに閉塞感があった。しかし、今年のムードはそうではなかったと思います。一年を通して、何が起こるか予測のつかないワクワク感があった。『ヒットの方程式』みたいな言葉もありますが、そもそも何が“当たる”のかが方程式のように事前にわかったら面白くない。今はヒットが“当たるも八卦、当たらぬも八卦”の世界に戻ってきたような気がしています。『PPAP』はその象徴ですし、『前前前世』と『恋』も、これほどの社会現象になるとは予想していなかった。つまり、“誰も思っていなかった”ことが起きたことが、今年のヒット曲のキーワードだったと思います」

 音楽、映画、ドラマ、お笑い、テレビ、ネット。それぞれが垣根を超え、クロスオーバーすることでヒット曲が生まれた2016年。さて、来る2017年はどうだろうか。予想できるものでは決してないが、今年を上回る勢いで様々なところで音楽が話題にのぼり、音楽やそれを取り囲むカルチャーが多くの人々をエンターテインさせてくれる、そんな一年であってほしいと思う。

(取材・文=若田悠希)

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