金子厚武のプレイヤー分析
downy 秋山タカヒコのミュージシャンシップの高さ ドラム生演奏の限界に挑む技術力
2000年前後のオルタナ/ハードコア界隈からは、現在の日本のバンドシーンに欠かすことのできないドラマーが数多く輩出されている。例えば、木村カエラのバンドやthe HIATUSのメンバーとしても活躍するtoeの柏倉隆史、54-71でキャリアをスタートさせ、現在はくるり、MIYAVI、TK form 凛として時雨、フジファブリックなどで幅広く活躍するBOBO、また、mouse on the keysの川崎昭はRADWIMPSの野田洋次郎のソロプロジェクトillionのサポートメンバーとして活動するなどしている。そして、もう一人が本稿の主役、新作『第六作品集『無題』』を発売したばかりのdownyのドラマーで、BUCK-TICKの櫻井敦司率いるTHE MORTALでも活躍している、秋山タカヒコである。
downyにおける秋山のドラムといえば、複雑な変拍子を手数多く、アグレッシブに叩きこなすハードコアな側面もあるが、彼はもともと主に80年代に活躍し、今も活動を続けるフュージョンバンド、ナニワエキスプレスのドラマーである東原力哉に師事していたこともあり、ベースになっているのはジャズドラム。downyと並行して活動し、秋山がリーダーを務めるfresh!については、自身のホームページで「ハイスパート・ジャズロック・クインテット」と紹介されていて、「勢いのある激しいジャズをロックバンドとして鳴らす」という大本のコンセプトを持っているように、彼のプレイとジャズは切り離せないのだ。
そんな中、現在ジャズの世界ではヒップホップをはじめとした広義のクラブミュージックから影響を受けて育った世代のドラマーが大きな注目を集めている。彼らは「ただ打ち込みを生で再現するのではなく、その感覚を内包した上で、それを生演奏でどう超えるか」という命題に向き合い、リズムを細かく割ったり、エフェクターで様々な音色を作り出すなどしているが、青木ロビンの打ち込みのトラックを生に変換していくdownyの楽曲は、この問いに対する日本からのひとつの解答だと言えよう。
そもそも、00年代初頭のdownyは、ハードコアを出発点としながらも、ヒップホップやエレクトロニカのようなループミュージックを生演奏で再現することを目指していた。ドラムには三点+ライドシンバルという制限を設けて、シンバルを派手に打ち鳴らすことなく、ストイックに抑制を効かせながら、その上でダイナミックなグルーヴを生み出すことにチャレンジし続けてきたのだ。9年ぶりの復活作となった前作に関しては、ライブを行わない状態で制作が行われた分、downyとしてはややゴージャスな、異色の作品になったが、その後のライブ活動と並行して制作が行われた新作は、かつてのdownyらしさが戻り、再びヒップホップ的な色合いを強めたのが、結果的に時代にもマッチしたと言えそうだ。