『TOSHIKI KADOMATSU 35th Anniversary Live~逢えて良かった~』レポート
角松敏生は今も「未来」を見据えているーー35周年ライブを20歳のライターが詳細レポート
休憩を挟んで幕を開けたACT-2では、演奏を最小限に抑えコーラス隊の歌声をフィーチャーした「RAIN MAN」、20分にも渡るフュージョン組曲「The Moment of 4.6 Billion Years」を自身が編集したという映像と共に披露、続けて「RAMP IN」「DESIRE」バラード2曲を歌った。バラードを聴くと顕著に感じられたのが、年齢を重ねても歌声が一向に衰える気配がないことだ。デビュー時からの奥行きのある歌声は、歳を重ねるにつれてその艶を増していく感じがした。
途中MCで「ポンタさんと言えば、80年台後半にギターをフューチャーしたインストゥルメンタルシリーズを制作しました。今日は久々に、あの楽曲を、若いドラマー二人(玉田豊夢、山本真央樹)と演奏したいと思います」と、アルバム『SEA IS A LADY』から「OSHI-TAO-SHITAI」を演奏。ドラマー3人のソロ回しに加え、各パートのソロも存分に披露され、観客からは拍手が起こった。
その後、ゲストの吉沢梨絵、コーラスで参加しているMAY’Sの片桐舞子、千秋、凡子、都志見久美子らとそれぞれデュエット曲を熱唱。バラードからポップスと様々だったが、一人一人タイプの違う彼女達の魅力を引き出そうと丁寧に歌う角松の姿には、シンガーとしての矜持を感じさせられる。続いて『THE MOMENT』リリースツアーで出会ったという全国各地のシンガー達で編成された98人のクワイヤーが登場。迫力のあるコーラスをバックに「Get Back to the Love」を披露した。
この時点で開演から4時間以上が経過していたが、角松にも観客にも疲れは見えない。「ここから最後の上り坂」と語ると、「After 5 Crash」「RUSH HOUR」「Tokyo Tower」「Girl in the Box」と、往年のアーバンファンクを続けてプレイ。大所帯だからこその音の厚みとグルーヴ感はディスコ調の楽曲群に見事にハマり、この日一番の盛り上がりを見せて本編を終えた。
アンコールでは、長万部太郎名義で作詞作曲を手掛けた「ILE AIYE~WAになっておどろう」や、ファンが紙飛行機を飛ばすことが恒例となっている「Take You To The Sky High」など、ライブでの定番曲を惜しみなく披露。その後のダブルアンコールに応えて再び会場中央のリフターに立ち、アコースティックギターを手に、夏の代表曲の一つ「No End Summer」を歌い上げ、「また5年後!」と言い残してステージを去った。
シンガー、ミュージシャンとしての力量は音源からだけでも読み取ることができるが、実際にライブを観て思い知らされたのは、エンターテイナーとしての彼の実力であった。前述の登場時のパフォーマンスはもちろん、MC中のファンの声にも軽妙に応えるなど、ファンサービスにも気を回す。そしていざ演奏が始まると、慣れた様子で、微妙なジェスチャーでバックバンドを自在に操る。あの堂々とした余裕の佇まいは、決して一朝一夕で身につくものではなく、35年間の数多のステージが彼に与えたものだろう。
さらに特筆すべきことは、6時間強に渡る長時間のライブに関わらず、途中で締まりがなくなることが全くなかったということだ。というのは、ライブの構成が非常に巧みで、セットリスト自体に絶妙な押しと引きがある。ファンの求める曲とアーティストの好む曲は必ずしも一致しないが、角松はファンの要求に応えつつ、自分の聴いてほしい曲を聴かせる流れを作るのが非常に上手かった。強い思い入れのある曲を持たない私にとってもそれは非常に心地良いもので、周年ライブの度に多くのファンが駆けつけるのも納得だった。
40周年となる5年後にまたこの会場でライブを行うことも示唆した、今年56歳の角松敏生。時代によって様々な音楽を自らの中に取り込んできた彼は、クリエイターとしての作品へのこだわりはよく知られているが、その音楽への姿勢を若いミュージシャン達に伝えたいとも語っている。その入り口の一つとして『SEA BREEZE 2016』のリリースがあったと考えることもできるだろう。その思いと共鳴するかのように、ここ数年東京インディーズシーンを中心に進む70~80年代シティポップの再評価があった。そこに参照元を求めるアーティストも数多く登場しており、その評価も得た角松は、ここへ来てより広い層を捉えることに成功している。
2016年、角松はただ過去の清算をしているのではない。彼は常に現在の自分と向き合っており、同時に未来/次世代の音楽シーンをも見据え、その上で活動している。そんな彼の思想が体現された、今後を楽しみにさせてくれるライブだった。
(文=渡邊魁)