兵庫慎司の「ロックの余談Z」 第12回
ライブハウス・バンドが行う「全都道府県ツアー」の実態ーー兵庫慎司がフラカンを例に考える
あともうひとつ。フラカンに限った話ではなく、そもそも「なんで“全都道府県ツアー”というお題目が必要なの?」という疑問の立て方もある。これは、「対バンツアー」「○周年ツアー」などのバリエーションのひとつとして「全都道府県ツアー」もある、ということだ。
世の中全体にCDが売れなくなり、バンドの活動の軸がライブに移っていく前の時代、ツアーというのはほとんどの場合、リリースに紐付けされて行われるものだった。アルバムを出してそれを携えて全国を回るのがツアーだったが、アルバム・リリース時だけのツアーでは足りない、年に2回ぐらいはツアーしたい、仮にアルバムのリリースが年に1枚なくてもツアーはやりたい、みたいなことに現状はなっている。ただ、そうなっても、さすがに「ただなんとなくツアー」というわけにはいかない。とんでもなく人気のあるバンドならそれも通用するのかもしれないが、やはり多くの場合、ツアーにはなんらかのテーマが必要だ。じゃないとお客さんも「じゃあ行こうかな」というモチベーションを持ちづらいだろう。
というわけで、「対バンを招きながら回ります」とか「○周年なのでツアーします」とか「武道館に日本中から集まってくれたお礼にこちらから全都道府県を回ります」とかいうようなテーマを設定するわけだ。中には「新メンバー加入したのでお披露目ツアー」とか「メンバーが脱退するのでお別れツアー」というケースすらある。
というようなことなんだろうなあ、と、以前から思っていたのだが、この間ミュージシャン本人が、それを裏付ける発言をしていて「へえー!」と思った。
くるりのベーシストであり所属事務所ノイズ・マッカートニーの代表取締役である佐藤征史とcakesの加藤代表の「社長対談」が、連載形式でcakesにアップされているのだが、その中で佐藤が『NOW AND THEN』ツアーをやっている理由について話している。
『NOW AND THEN』というのは、数年前からくるりが行っている「過去のアルバムを再現します」というコンセプトのツアーである。『Vol.1』はファーストアルバム『さよならストレンジャー』とセカンドアルバム『図鑑』、『Vol.2』はサード『TEAM ROCK』と4枚目『THE WORLD IS MINE』の再現ツアーとして行い、今年5月『Vol.3』は5枚目『アンテナ』1枚と最近の曲など、という内容だった。
この『NOW AND THEN』を始めた理由を、佐藤は「お客さんに年に2回、くるりのライブに足を運んでもらいたいなと思っていて、そのためには何かコンセプトが必要で」と話しているのだ。くるりに限らず、過去のアルバムを再現するツアーを行うバンドは最近だんだん増えている、というか、そもそもは海外で始まって日本でも実行するバンドが現れ始めた、という順番だったと思うが、それも含めて「ああ、なるほどー」と納得した。
ちなみに『Vol.3』、僕も観に行ったが、『アンテナ』の再現がすばらしかった上に、リリース前だったニューシングル『琥珀色の街、上海蟹の朝』を初めて本格的に披露するツアーとしての役割も果たしていて、大充実の内容だった。
あとひとつ余談。
これ、全都道府県ライブハウス・ツアーみたいな草の根的な活動をしているバンドの共通項では必ずしもないのかもしれないが、でも関係あるんじゃないかな、という、フラワーカンパニーズのライブにおける特徴のひとつに、「チケットがギリギリまで売り切れない、でも満員になる」 というのがある。
売り切れたのは1週間前とか、当日券出るというので行ってみたら超満員とか、そういうことが頻繁にあるのだ。特に大都市において。
要はファンがのんきだ、「フラカンは売り切れないから大丈夫だ」という刷り込みがされてしまっている、ということなのだが、昨年12月19日の日本武道館においても、やはりそうだった。
かなり早めにチケットを発売したものの、「ああやっぱり無理だわこれ、売り切れないわこの勢いじゃ」という期間がずーっと続き、しかし迫ってくるにつれてじわじわ売れ始め、客席を調整して追加をだしたりしたものの、開催5日前に完売。キャンセル分を当日券として発売したものの、それも瞬殺で売り切れた。
という事実を経ての、今年2016年の全都道府県ツアーの東京編、7月2日・3日の土日、リキッドルーム2デイズがどうなったか。
変わらなかったのだ。武道館に9000人を集めた直後の東京公演なのに、なんと、売り切れなかったのだ。
初日、バンドのオフィシャルツイッターの「当日券出ます」という告知を見てそのことを知り、「あちゃあ、そうかあ。武道館のリバウンドってことなのかなあ」などと、ちょっとさみしくなりながら足を運んだところ。
大入り満員。当日券も即ソールドアウト。中に入ってみたら、他のバンドだったら関係者用スペースにすることが多い、フロア最後方左端の一段高くなっているスペース、あそこまでぎっちぎちにお客さんを入れた上での「当日券あり」だったことがわかった。翌日も当日券ありだったが、やはり満員。
そのお客さんの「武道館があったのに変わらなさ」に、ちょっと笑ってしまった。で、何が言いたいのかというと、フラカンファンのみなさん、全都道府県ツアーの後半戦、確実に観るために、もうちょっと早くチケットを買ってもいいと思いますよ、ということです。前売りの方が安いし。
(写真=柴田恵理)
■兵庫慎司
1968年生まれ。音楽などのライター。1991年に株式会社ロッキング・オンに入社、音楽雑誌などの編集やライティングに携わる。2015年4月に退社、フリーに。「リアルサウンド」「RO69」「ROCKIN’ON JAPAN」「SPA!」「CREA」などに寄稿中。9割のテキストを手がけたフラワーカンパニーズのヒストリーブック『消えぞこない メンバーチェンジなし! 活動休止なし! ヒット曲なし! のバンドが結成26年で日本武道館ワンマンライブにたどりつく話』(リットーミュージック)が発売中。