『With You ~10年、20年経っても~ / KINGPIN』インタビュー

AK-69が明かす、“ホンモノ”へのこだわりと覚悟「リアルなヒストリーこそがヒップホップ」

「何がホンモノで何がニセモノか、ハッキリ打ち立てていきたい」

――ヒップホップには、怒りを歌にしなければいけないようなムードがありますね。

AK-69:たしかに俺もそういう歌はいっぱいある。「With You ~10年、20年経っても~」のような曲は引き出しのひとつとしてあるだけなんです。これは俺の何百曲あるうちの1曲。あくまでも全部できてこれをやってるだけ。あんまり人の音楽を1曲とってどうのこうのって評論するのは面白いことではないんじゃないかなと思いますね。もう1曲の収録曲「KINGPIN」でも言ってますけど、音楽の好き嫌いはしょうがないと思っていて。でもやってきたこと、俺が大事にしているアティチュード、ヒップホップに対する思い……この成り上がり方は、誰も文句はつけられない。それが一番大事だと思うんです。その人が歌っていれば、何でもヒップホップなんだっていう。「音楽プラス生き様」っていう生き方が、自分でもカッコいいと思えるというか。だから俺も自分の生き方がカッコいいと思えるように頑張ってるんですけどね。自分をごまかしちゃったら歌もごまかすことになっちゃうので、嘘は一切つきたくない。ごまかそうとしたとき、多分俺の刀はサビつくんだろうなと思ってますね。

――いまお話にも出てきた「KINGPIN」にはどのような思いをこめたのでしょう。

AK-69:「KINGPIN」で言いたかったのは、俺がキングとかボスということじゃなくて、そうやって呼ばれるようになった自分が、以前はどういうヤツだったのかということをもう1回みんなに言いたかった。成功して、ロールスロイスに乗って、ものすごいジュエリーつけて、ライブもいっぱい人が入って、スタッフ引き連れて。同業者の若い子もお客さんも、どこかで俺のことをすこし遠い感じに思っている気がしたんですよ。自分とは違うと思っている人も今は昔よりも増えたと思うし。でも、そうじゃねえんだよって。俺は間違いなくお前らと一緒のところから来てるし、今は成功してここに立ってるけど、お前らと一緒だったということを伝えたかったんです。どうしようもないヤツだった俺が、ヒップホップに出会って、変えてもらって、助けられた。そのどうしようもねえヤツでも、ひとつのことを思い続けてやり続ける。大変だけど、やり続けることによって絶対何か形になるってことを俺が証明したい。かつての自分と同じような境遇にいる子たちに希望をもってほしい。それが自分が音楽をやっている意味のなかにあって、それをこの曲でも伝えたかったんです。

――曲中には、ヒップホップシーンに対しての提言ともとれる表現も多く見受けられます。

AK-69:俺が海外のヒップホップにホレたのは、すさんだ生活で生まれるメッセージが称賛される音楽だということに衝撃を受けたというのがあって。リリックの和訳を見て、ほんとすげえ音楽だなと。それがそもそもの始まりだという要素を入れたかったんですね。アングラぶってるヤツらにとっては耳が痛いラインも入ってますけど、それはdisりたいわけじゃなく、人のことをどうこう言ってる前に自分のカッコいいストーリーを見せろと。お前こそ、俺こそがヒップホップ、お前だってヒップホップなんだろうっていうメッセージです。人のことをどうこう言ってるカッコいいヒップホップなんてないから、そんなことよりもっとみんな自分のカッコよさに気づいたら? ってことですね。

――なるほど。結構踏み込んだ歌詞ですね。ヒップホップシーンには、いつでも対立軸があったように思います。90年代あたりからはマス対コアの対立軸が長らく語られていた。それが2000年代ぐらいになると、地方対東京へと移り変わっていきました。

AK-69:地方のヒップホップにシーンが移り変わった時代から、今また東京にシーンを持ってこようとしている流れは感じますけどね。東京にスターを作ろうとしてる感はすごいある。まあ、スターが不在すぎたっていうのもあると思いますけど。でもそれはいいことだと思う。地方の人たちもそれを見てまた盛りあがって、東京に飽きてきたらまた地方にメディアが目を向ける。ずっと同じことを繰り返すのだと。ほんとに今『フリースタイルダンジョン』含め、ヒップホップの認知度や取り扱われ方がすごい良くなってきてるんで、このままこの火を消さずに、さらにこの火をもっと拡大させるべきだなと思ってます。

 あとは、今こうやってヒップホップが認知されてきたからこそ、世の中の人に何がホンモノで何がニセモノかということをハッキリ打ち立てていきたいという考えをもってますね。業界で作られたストリートヒップホップ、作られたストリートテイストはホンモノとは明らかに違うんで。ホンモノは作れるものじゃない。金で買えるものでもなければ、オーディションで生み出せるものでもない。そこが一番大事なんです。「KINGPIN」の曲のなかでも書いてますが、みんな曲調とかファッション、何となくの雰囲気で、あの人たちはヒップホップとか、あいつはヒップホップじゃねえって言ってますけど、それだったらもうなんとなくの雰囲気でハードなヒップホップを作ることができるってことですよね。でも、そうじゃないじゃないですか。生き様とか、その人についてまわるリアルなヒストリーこそがヒップホップであって。「本当のヒップホップはこっちだから」っていうのは、俺が代表して言い続けないとなと思ってます。

――AKさんのおっしゃる「ホンモノのヒップホップ」というのは、ライフも含めた上で表現だということですよね。

AK-69:そうですね。まあ、ほんとは全て自由なんですけど。オタクの子でもハードなラッパーと戦える、それがフリースタイルの良さだったりもする。何にでもなれるのが音楽の良さではあるんですけどね。こと、俺がこだわってきたこのリアルなストリートのヒップホップでいったら、っていう話なんです。そこはぶらせねえよっていう。若い子たちを勘違いさせたくないというのもありますし、ラッパーだけじゃなくて、ダンサーもDJも。ホンモノはこっち側だよってことは、ハッキリさせたいと思ってますけどね。

――確かにこれまでも“作られた”ヒップホップが流行することが多かったかもしれません。

AK-69:この前、初めてライムスターの宇多丸さんのラジオ番組に呼んでもらったんです。ライムスターさんとは今まであんまり交わったことなかったので、呼んでもらえたことがまず凄い嬉しくて。みんなが行けない境地を切り開いてきた人たちだから、リスペクトはずっとしていました。そこで宇多丸さんが「AKが売れて、メジャーだから、売れてるからポップだとか言ってるヤツがいるかも知んないけど、俺たちはみんな分かってるけど、AKのこのやり方、この成り上がり方で、ここまでこのヒップホップシーンを背負って売れたっていうのは半端じゃないから」って言ってくれたんですよ。自分でずっと言ってきたことではあるけど、自分の成り上がり方の価値を分かってもらえていたんだなと、凄い嬉しかったですね。それこそが、自分が一番大事にしてきたことですから。

――AKさんはセルアウトしてないですもんね。

AK-69:そうなんですよ。みんな売れたらセルアウトって言ってるけど、セルアウトの言葉、ちゃんと調べてきたらと思うんですけどね。アーティスト仲間と喋ってても、よく言うんですよ。「あれ、すげえ俺やりたくなかったんですけど…」とか。やりたくなかったことやってるって、それちょっとおかしくねえかっていう。俺は今やってることをDef Jamからもすごい尊重してもらえてるし。こういうことは歌わないでくれとか、NGワードすら1回も聞いたことがない。それは、たまたま俺が歌ってないだけかもしれないですけど。でも、みんながよく言う、歌の内容を言われるとか、そういうことも全然ない。むしろ、もうちょっと言ってくんねえすか。っていうくらい(笑)。それくらい尊重してもらいながら活動できている。自分たちのインディペンデントを守るってことは、自分たちの城をちゃんと自分たちの思いで動かすっていうことなんじゃないかなと思ってますけどね。

――なるほど。そのブレない姿勢については改めて伝えたほうがいいですね。

AK-69:そうですね。みんな多分、そこがよく分からないと思うんで。

――ちゃんと聴かずに誤解されていることもあると思います。

AK-69:そうですね。俺も歴史が結構長くなってきてるんで、最近知った人はよく分からないかもしれませんね。「『With You』とか歌ってトコナメが悲しんでるぜ」みたいな。いやいや、喜んでるからとか(笑)。「ラブソングなんか歌ってんじゃねえよ、売れようとしてるんじゃねえよ」とか。売れてから歌ってるから、売れるためとかそういうことじゃないんですけど。っていう。まあ、いろいろ思うことはありますけどね。

AK-69「KINGPIN」

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