新海誠作品の劇伴は「環境音による補佐」がポイント? 『言の葉の庭』から読み解く

どの音声を中心に聴かせるか

 また、別の観点で『言の葉の庭』における劇伴及び音声表現の特徴を挙げるとすると、「音楽を主体で聴かせるシーン」「環境音を主体で聴かせるシーン」などが明確になっているということだ。数ある具体的なシーンからいくつか例を挙げると、梅雨が明けてから新学期が始まるまで秋月孝雄と雪野百香里が会えなくなった時期を描いたシーンでは、切ない音楽を主体に聴かせ、生活感溢れる様々な場面を映し出すことにより、2人の距離を感じることができた。さらに、開始4分間などの「映像で自然などを美しく魅せているシーン」では、それに伴い環境音を主体で聴かせているシーンも確認できる。これらは、劇伴が一度使われ始めたら長く使われ、劇伴を使わないシーンではハッキリと使わない時間が長い、ということによるメリハリの明確さが大きく関与しているからこそ、効果的に取り入れることができているのだろう。

 本作品のように環境音を多く取り入れたり、劇伴に環境音を連想させる要素を取り入れることは、映像表現、映像音楽表現において非常に重要な点であり、高い技術を必要とするものだ。そしてこれらは、本作品のように自然風景も含めて細かく美しく表現された映像とのコラボレーションだからこそ、魅力的に響くのだろう。新海氏の得意とする儚さを含んだ映像描写は、RADWIMPSの手によってどのように表現されるのか。『君の名は。』の公開を楽しみに待ちたい。

■高野裕也
作曲家、編曲家。東京音楽大学卒業。
「映像音楽」「広告音楽」の作曲におけるプロフェッショナル。
これまでに様々な作品に携わるほか、各種メディアでも特集が組まれる。
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