ニューアルバム『ウインカー』インタビュー

特撮、メンバー全員が語るバンドの成熟「みんなで音を出せば、ちゃんと特撮の音になる」

 NARASAKI(ギター)、ARIMATSU(ドラム)、三柴理(ピアノ)ーー楽曲提供やプロデュースやサポートなど、各方面で大活躍中のメンバーが、音楽的方向性もジャンルも本当に多岐にわたる曲を持ち寄り、ジャムセッションで仕上げ、それを大槻ケンヂ(ボーカル) が「人の人生や世界の動きは、クルマのウインカーを指2本で動かす程度の、ほんのちょっとした力で変わってしまう」というコンセプトでまとめた特撮のニューアルバム『ウインカー』。「今の時代に即した新しい音でラウド&ヘヴィなロックをやる」という目的(だったように当時は見えた)で結成してから16年、活動休止を経て再始動してから5年。他に類を見ない、自由で、ユニークで、しかし難解とは逆でロック好きのツボを突きまくる音楽集団、特撮は作品を重ねるごとに、どんどんそんなワン&オンリーな方向へと進んでいる。(兵庫慎司)

「経験を積めば積むほど、基本に戻る」(ARIMATSU)

ARIMATSU

ーー「今回はこういうアルバムにしよう」というような話し合いはーー。

ARIMATSU:もちろんありましたよ。

大槻ケンヂ(以下、大槻):集まってミーティングみたいなの、したよね?

三柴理(以下、三柴):やったやった。

NARASAKI:まず、自分の場合、曲作りがすっごい難航してて。全然出てこなくなっちゃってて……コンセプトが定まってなかったので。ロックを作る上で、体幹的なものが重要だなあと思って、メンバーに集まってもらって、ジャムる形でその場でリフを作ったりして。

ーージャムで曲を作るというのはーー。

NARASAKI:ほぼ今回初めてですね。

ARIMATSU:今回みたいに、ゼロからみんなでスタジオに入って、っていうのは。

三柴:それはそうかもしれない。

NARASAKI:コンセプトを探してたというか、これだ!というアルバムにするためのものがほしかったんですけど、それが自分の中になくて。でも、実際に集まってみんなで音を出したら、「ああ、みんなで音を出せば、ちゃんと特撮の音になるんだな」ということがわかって、安心しました。

ARIMATSU:まあ時代が時代なんで、だんだんそういう作り方ってしなくなっていくものなのかもしれないけど。でも、逆にキャリアを積めば積むほど、そういうところに帰っていくのかなという気も、今回、したというか。まっさらな状態でスタジオに入って、リフを弾いて、そこにリズムをつけて曲を構築していくのって、バンドの基本なので。経験を積めば積むほど、そういう基本に戻るのかな、という気はしましたね。

ーー大槻さんは?

大槻:僕はね、詞を書いて歌いに行くだけだから、録音の過程においてはわからないことが多くて。でも、それがいいと自分では思っていて、あの、バンドによっては曲を作らないボーカルの人があれこれ言うバンドもあるのかもしれないけど、僕は基本的に「どうぞどうぞ。ここだけやらしてよ」というタイプだから。その方がミュージシャンは、自由にできると思ってるんですよ。だから、ある程度の曲ができるまでは、何も言わないです。

ーーその場にはいるんですか?

大槻:いたりいなかったり。

ーー筋肉少女帯の時と同じ感じなんですね。

大槻:何をやっても僕、そうです。電車っていうバンドもやってるけど、そこでもそうだし。特撮の場合も、楽曲がある程度できあがるのを待って、トータルでどういうふうになるかなというのを想像しながら、たまに「ナッキー(NARASAKI)、もうちょっと明るい曲も1曲ちょうだいよ」とか「この曲は保留で次のアルバムにしとこうよ」なんてことを、時々言う感じですかね。だから、サウンドがある程度作られたところから歌詞のコンセプトを作っていって、それを投げて、また作ってもらって……っていう順番ですね。


ーー今回そのある程度できたサウンドを最初に聴いた時、びっくりしなかったですか?

大槻:あのね、最初に届いたのが「荒井田メルの上昇」と「富津へ」と「ハザード」だったの。あともう1曲、保留になった曲で……アンビエントっていうの?ムーディーっていうの?

三柴:ボサノバでしょ?

大槻:ボサノバだったね。だから全然ラウド・ロックじゃなかったので、「うわ、すごい方向に行ったなあ」と思ったんだけど、そのあとアーリー(ARIMATSU)が持ってきた曲が、ハードロック2曲だったので。で、エディ(三柴)の「ハンマーはトントン」と「旅の理由」というクラシカルな曲があって。「愛のプリズン」は最初から入れようと言っていたからーーあれはハードな曲だから、それでなんとなく「ああ、これはいい感じのバランスのアルバムになるな」と思いました。だから、ボサノバの曲を保留にしたのは、英断だったでしょうね。あれが入っていたらまた違う感じになったと思うな、曲として強かったから。
 僕はね、今回、どれもこれも曲がいいと思ったの、最初に。これはおもしろくなると思いましたね。あと、なんとしてでもノセようっていうんじゃない感じじゃない曲調っていうのかな、そういうのが、成熟したリスナーを対象にできる気がしましたね。

NARASAKI:まあ、今回は自分の気持ち的には、まず最初に、大槻さんの見せ方として、メロがはっきりとしていて、あんまり声を張らずに歌える曲っていうのが、今の大槻さんの魅力を引き出せるものなんじゃないかな、というふうに考えて。それで、いわゆるラウド系じゃない曲から作り始めた、っていうのはありますけど。

大槻:以前の特撮と比較して、もし変わっているところがあるとしたら、やっぱりみんな年齢的に成熟したところがあって、音も成熟した部分があると思うのね。個人的に「あ、こう考えるとわかりやすいかな」と思ったのは、たとえば今回「アリス」という曲があって。重いヘヴィ・ロックなんだけれども。かつて「殺神」という曲が……3枚目のアルバムかな(『Agitator』、2001年リリース)。それもヘヴィな曲なんだけれども、今回の方が洗練された感じがあるなあと思って。あと、その3枚目に「人間以外の俺になれ」っていう、ブギーみたいな曲があって。今回も「人間蒸発」っていう、ブギーで始まるモーターヘッド的な曲があるんだけれども、どっちかというと昔の方が作りこんでるんだよね。今回はもっとバンドっぽくバーンとやっちゃってる。その荒々しさが逆にバンドとしての成熟なんではないか、というような気がしましたね。

大槻ケンヂ

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