4thアルバム『地球』インタビュー

摩天楼オペラ 苑&彩雨が語る、ヴィジュアル系の矜持「僕達は“入り口”になる」

 摩天楼オペラが、1月20日に4thアルバム『地球』をリリースした。今作は、これまでの多くの作品にみられた非日常な世界観とは違い、人間味のある歌詞で壮大な"地球"というコンセプトを音楽で表現した作品。2015年にリリースした五大要素の楽曲、「ether」「君と見る風の行方」「青く透明なこの神秘の海へ」「讃えよう 母なる地で」「BURNING SOUL」も収録された全12曲(※初回限定盤のみBonus Track「嘘のない私で」が収録)となっている。今回は、苑(Vo)と彩雨(Key)にインタビューを実施。作品のコンセプトからビジュアル系論についてまでじっくり語ってもらった。(編集部)

「自分たち目線で地球に立ってる曲を作った」(苑)

苑(Vo)

ーー1月20日にリリースされたアルバム『地球』ですが、タイトルがストレートですよね。

苑:最初から"地球"をコンセプトに作っていたアルバムだったんです。『EARTH』という案もあったんですが、それだと「大地」という意味も含まれているし、『GAIA』だと今度は僕達の日常よりも少し空想的なイメージがあるじゃないですか。それならストレートに『地球』の方が伝わるし、逆にカッコいいかな、と思ってこのタイトルにしました。

ーー『地球』を上から俯瞰してるような世界観ではなくて、地に足の着いた日常を歌うような曲が多いですよね。近年の摩天楼オペラのアルバムは、前々作『喝采と激情のグロリア』、前作『AVALON』と、最初にSEが入って最後は壮大な終わり方をする作品が続いていたので、意外でした。1年半振りのリリースということもあり、変化があったのでしょうか。

彩雨:今回は突然始まって、ふっと消えていくように終わりますね。今までは世界観を最初から最後までがっちり作り込んで壮大に締めるような見せ方をしてたんですけど、特に今回の『地球』はあまりにもテーマが壮大だから曲も壮大になりすぎると、ファイナルファンタジーやドラクエみたいな「違う世界の話」みたいな感じになるじゃないですか。そうじゃなくて、この地球、この空間を音楽で表現したかったんです。だからいつもと違う見せ方で、この壮大さを表現したのかもしれません。

ーー摩天楼オペラのルーツにはアニメやゲームミュージックもありますよね。完成された非日常的な世界観や自分の日常のことから離れた楽曲も多い印象があったんです。

苑:昔は主人公を立てて、その人の気持ちに寄り添って書いていたようなところもありましたね。でも去年一昨年あたりから、自分の今思っている感情だったり、日々思っていることを歌詞にして行くほうが説得力があるなと思って。そのほうが聴いている人に伝わりやすいし。なので今回のアルバムではそういう人間味のある歌詞が増えてるのかな。

ーーこれまでは個人的なことを書いた歌詞でも、1stフルアルバムの『Justice』くらいの頃は、何かに憤ってるような内容の歌詞も多かったように感じす。今作ではそれが落ち着いたというか。

彩雨:たしかに今回怒ってる曲は無いよね、悩んでる曲はあるけど。

苑:今回は怒ってリスナーを鼓舞するよりは寄り添いたかったし、リスナーの心を少し軽くさせたかったんです。日々の生活の中で、この曲を聴いたら少し元気になって学校や会社に行ける、みたいな。それで、「よし一緒に頑張るぜ!」というよりは「頑張ろうね?」みたいな。文字でニュアンス、伝わりますかね(笑)。

彩雨:たとえば「BURNING SOUL」のようなハードな曲だと、昔だったら怒りを表現していたかもしれないね。

ーー前作『AVALON』はタイトルからして神話的というか。『地球』というタイトルだからかもしれないけど、地に足がついている。そこがおもしろいなと感じました。

苑:最初は壮大に作るつもりでいたんですけどね。去年リリースした五大要素の曲(「ether」「君と見る風の行方」「青く透明なこの神秘の海へ」「讃えよう 母なる地で」「BURNING SOUL」)を作ったらもう結構壮大な地球像が出来てしまって。そこから自分たち目線で地球に立ってる曲を自然と作っていった感じがします。

Anzi(Gt)

ーーたとえば「YOU&I」では〈街が違う 市が違う 県が違う 国が違う 共通点探すほうが - 難題でしょう –〉とありますが、おっしゃるような「自分たち目線」を感じます。

苑:彩雨の持ってきたメロディラインにハマるタイトルはないかなと思った時に、お客さんのことを思って歌詞を書きたいなと思った時にこのタイトルが出てきて。ツアーで色々な所に行ってると、もちろん街も違うじゃないですか。そんな中でも僕達は同じ音楽が好きでこのライブハウスに集まってるんだ、ということが伝われば嬉しいです。

ーー「Good Bye My World」もジャズっぽいというか大人っぽい印象を受けました。

彩雨:逆にこの曲の時は高校生みたいな気持ちになって書いた曲なんです。

苑:初心に帰ろうみたいなね。

彩雨:インディーズ時代に帰るじゃないけど、当時は無茶な曲の作り方をしたんです。急に曲調を変えたり、音の使い方も、あえて濁る音を入れたりとか。昔はそういうことを気にせずやってたんですけど、やっぱり色々出来るようになると気にしちゃうんですよ。「気にする」というのは制限がかかるということだから、音楽的な成長は逆説的に音楽的な妨げになることと同一ではないかと。出来ることが増えると出来ないことも一つ増えてしまう。なのであえて馬鹿になってみて、あえて高校生が作るような楽曲を作りたかったんです。

ーーなるほど。

彩雨:出来ることが増えると、選択肢が一つ増えるというのが、去年までの曲の作り方でした。なので、違う考え方で曲を作ろうかなと思って。アルバムを制作するときに「もっと劇的で、今までにないアプローチを」と、苑から提案があったんですよ。なのでこの曲は一番最初に作ったと思うんですよね。その提案が頭に引っかかってて、自分なりにいつもの自分を全部捨てて、もう一回高校生になったつもりで作った気がします。「普通じゃない曲」というか。

ーー「青く透明なこの神秘の海へ」は苑さん作曲ですよね。こちらの曲の展開も変わってますね

苑:これもさっき彩雨が言っていた「普通じゃない曲」を意識して、作った曲です。

彩雨:現代的なJ-POPのセオリーというか、Aメロ→Bメロ→サビっていう構成があるじゃないですか。僕らも普段はそれに則って作っているんですけど、この曲は何がAメロだとかまず考えないようにして。メロ1、メロ2みたいな作り方をしたんです。普段ホワイトボードに描いて作曲してるんですけど、この曲に関しては「メロ1」「メロ2」みたいな書き方をしたんです。他の曲は全部AメロBメロって書いているんですけど。最初からこの曲のアプローチは、いつもと違う構成になるような道ができていたのかなと思いましたね。

ーーすみません、ホワイトボードで、とは?

彩雨:東急ハンズで買ったホワイトボードをいつも車に積んであるんですよ。

苑:僕がパソコンで音楽を作らずに、ギターやピアノを弾いてメンバーに伝えるので、メンバーはホワイトボードがなかったら頭で記憶するしかないんですよ。

ーーそれはなかなかアナログですね。

彩雨:そこでコード進行などを書いて、写真を撮ってネットにあげて共有するんで、そこだけはデジタルです。アナログとデジタルの融合……(笑)。

ーー昔からその手法でやっているんですか。

苑:パソコンで作る場合は、自分で音色を選んでいかないといけないじゃないですか。その時点で例えばストリングスを入れると「ここはストリングスがいいんだろうなあ」とか、相手のイメージが限定されてしまうので、それを避けたいというのもあります。

燿(Ba)

ーーあえて余白を作りたかったと。

苑:ソロじゃなくてバンドの曲ですし。

ーー摩天楼オペラ楽曲は精密で、緻密に作られているイメージがあったので、意外に感じました。

彩雨:曲によりますけどね。例えば「FANTASIA」はギターのAnziが構成も含めてすべてやって、細かいところは僕と二人で色々話し合いながら作ってましたけど、9割9分Anziですね。「讃えよう 母なる地で」もほぼ100%僕が構成を指定していたので。構築美を追求するのか、そうじゃないのか、みたいな。だから作曲者に寄るところはありますね。「SILENT SCREAM」も構築美ですね。

苑:そう考えると作曲者によるね。

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