ぼくりり、ミセス、井上苑子、シンリズム……音楽シーンで10代アーティストが台頭する背景とは?

 ここ数年の音楽シーンでは10代の歌手・ミュージシャンの台頭が目立っている。シンガーソングライターのシンリズムや井上苑子、ラッパー/ボーカリストのぼくのりりっくのぼうよみ、5人組バンドのMrs. GREEN APPLEなどだ。現役高校生も含む彼らは、どのような経緯で作品を世に送り、注目を集めるようになったのか。その背景について、音楽ジャーナリストの柴那典氏はこう説明する。

「ここ数年目立つのは、多様なネットサービスをうまく活用し、自身のパーソナリティや音楽をオープンに共有する10代のアーティストたちです。かつてはニコニコ動画などの匿名性の高い場所で“正体不明の新人”として頭角を表すケースが多かったのですが、最近の10代は、たとえば職人気質で上の世代へ音楽を届けたいアーティストはSound CloudやBandcampを、若者をターゲットにタレント的なブレイクを狙っている場合は動画メディアを使う、といった具合です。もちろん、ライブハウスで人気を博して知名度を上げていくケースもありますが、ネットの活用が10代アーティスト増加の背景にあるのは間違いないでしょう」

 ぼくのりりっくのぼうよみ(通称:ぼくりり)は、1997年生まれ、横浜在住のラッパー/ボーカリスト。彼は『ニコニコ動画』への動画投稿から活動をはじめ、10代限定オーディション『閃光ライオット』出場・ファイナリスト選出などを経て、2015年12月にメジャーデビューを果たした。

「ぼくりりは、ニコニコ動画『歌ってみた』シーンを出自にはしていますが、そこで人気を獲得して支持を広げたタイプではありません。SEKAI NO OWARIのFukase、松井玲奈、映像監督の東市篤憲など、文化的にアンテナを張っているタイプのクリエイターや芸能人が、ネット上で彼の音楽と出会い、絶賛したことをきっかけとし、現在のブレイクに繋がっています。彼は詩人のような雰囲気があり、ネット上に漂う不穏な空気を肌感覚で捉えて、文学的に表現できるアーティストですね」

 ぼくりりと同じ年齢のシンリズムは、キュレーションマガジン『antenna』CMソングで注目された神戸在住のシンガーソングライター。作詞・作曲・編曲はもちろん、さまざまな楽器を自ら演奏し、プログラミングまでをひとりでこなすマルチプレーヤーだ。彼の音楽にまず反応したのは、早耳のインディーリスナーやアーティストなど、彼より年上の音楽ファンだったと柴氏は説明する。

「シンリズムに関しては、ミュージシャン同士がフォローし合ってリポストすることで音源が広まることが多いSoundCroudを活用したことが大きかったのでは。すでに彼は“ミュージシャンズミュージシャン”の印象があり、The Birthdayのフジイケンジ、NONA REEVESの小松シゲル、高野勲らベテランアーティストとセッションするなど、楽曲とルックスから想起させるポップ・マエストロのイメージだけではなく、マルチプレイヤーとして優れた音楽的身体能力を持っています」

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