電気グルーヴやケミカルを彷彿とさせる? ピノキオピーのライブ盤が示す、ボカロの新たな可能性
インパクトのあるマスク姿で知られるピノキオピーが発売した初のライブ盤『祭りだヘイカモン』は、「ライブの時代にボカロPがどう向き合うか」という命題に対し、新たな形の解答を提示する作品である。なぜなら、これまで彼が同人~メジャーで発表してきた作品の多くはジャケットを初音ミクや彼がデザインしたキャラクターが飾ってきたが、今回のジャケットには映画看板の職人によって描かれたピノキオピー自身(と、ライブでのサポートを務めるピノキオピーMK-2)が堂々登場しているのだ。画面の背後にいるボカロPから、表に出て行く一アーティストへ。本作からはそんな意気込みが感じられる。
2009年より活動を開始し、ニコニコ動画では3曲が100万回再生を突破と、人気ボカロPの地位を確立したピノキオピーは、昨年からライブ活動を本格化。当初はシンプルにラップトップから楽曲を流すスタイルだったが、ライブ感を求めて徐々にピノキオピー自身もボカロに合わせて歌うようになり、昨年12月からはピノキオピーMK-2とのユニット体制を確立。今年に入ってからもコンスタントにライブを繰り返し、10月に渋谷のclub asiaで開催した初のワンマンライブの模様を収録したのが、『祭りだヘイカモン』という作品なのである。
現在のライブの特徴はトラックと人力の融合で、ピノキオピーは歌うのみならず、サンプラーを叩き、ボーカルにエフェクトをかけ、MK-2はスクラッチを絡めるなど、その場の状況に応じたリアルタイムのレスポンスによって、さらなるライブ感を獲得。ピノキオピーは曲によってステージ前方まで出て行ってオーディエンスを煽り、MK-2は盆踊りのようなダンスを披露するなど、かなりフィジカルなステージを展開している。
そんなライブの様子からまず連想されるのは、ピノキオピーがリスペクトを捧げる電気グルーヴ。そもそも彼は有頂天、筋肉少女帯、電気グルーヴの前身である人生などを輩出したナゴムレコードをフェイバリットに挙げていて、マスク姿は人生時代の白塗りだった石野卓球を彷彿とさせるし、キモカワなオリジナルキャラクターからも、かつてのナゴムのようなサブカル臭が漂ってくる。ただ、彼の作品はナゴムの精神性に影響を受けた人生哲学を、あくまでポップなダンストラックに乗せるというのが持ち味であり、完成度を高めつつあるユニット体制のライブは、ケミカル・ブラザーズ、アンダーワールド、ベースメント・ジャックスなど、日本でも人気の海外のダンスユニットたちをも連想させる。マニア心をくすぐりつつも、表現はちゃんと開かれている。そこがピノキオピーの大きな魅力なのだ。