ギター1本で世界92カ国を回った男ーーシンガーソングライター・迫水秀樹が見た風景
旅には出会いが付き物である。現地の人の優しさ、同じ音楽を志す者、ジャンルは違えど、同じように夢を追い求めて世界を旅する者……、様々な人々と出会い、助けられてきた。彼がひとつの街に滞在するのは、2〜3日。しかし、人との出会いでそれが1週間になったこともあった。そんな数えきれない出会いのエピソードは彼のブログに書きつづられているので、ぜひ覗いてみて欲しい。そんな中から、いかにも海外ならでは素敵なエピソードを話してくれた。
「ロンドンで路上ライブ中、突然女性に声を掛けられたんです。話を聞くと、姉が結婚するのでサプライズギフトを贈りたいと。そのアイデアというのが、空港からの電車内に突然僕が現れて、新郎とお姉さんに歌を贈ってくれないかというもの。もちろん面識はありません。でも『面白いことになりそう』と思ったので、迷うことなく引き受けることにしました。それで二人の名前を歌詞に入れ、自分の自己紹介を交えた曲を作ったんです。サプライズは大成功で、すごく喜んでもらって。その1ヶ月後の祝賀パーティーにも招いてもらい、改めて歌を贈りました」
「世界中の人たちは優しい。愛情に溢れてます。そして国が違えど、みんな同じようなことを考えていて、同じような悩みを抱えてる」当初懸念したいたような人種差別的なこともなかったという。大きなトラブル、危険な目に遭うこともなく、旅は進んでいく……はずだった。しかし今年の夏、訪れたタンザニアで強盗に襲われた。
「ダルエスサラームというタンザニア最大の都市で、自称ミュージシャンを名乗る男に声を掛けられ、車に乗ってしまいました。旅で出会ったミュージシャンたちは本当にいい人たちばかりだったので、そこで油断してしまったんですよね。手持ちの現金すべてと、脅され連れていかれた銀行から、今まで稼いできたたくさんのお金を引き落とされてしまいました…。ただ、幸いなことに自分の命とギターは守り切りました。本当はあと1ヶ月ほどアフリカを旅する気でいましたが、急遽予定を変更して、日本に帰国することにしました。今思っても複雑なんですけど…。でも、3年目で良かったなとも思ってます。はじめにこんなことに遭っていたら、ここまで旅を続けられなかったと思うので」
レーベルにもマネジメントにも頼ることなく、自分の力だけで歩いてきた。それはインディーズ活動の極地でもある。それを身を持って経験し、世界中を見てきた彼には今の音楽シーン、アーティストが活動していく場としての日本という国は、どう映っているのだろうか。
「日本のライブハウスに出演する際の、出るほうが『演らせてくれありがとうございます』という関係性って、やっぱりおかしいなと思いますね。向こうだと、出演者が負担することなんて、基本あり得ないですから。日本はミュージシャンへのリスペクトがないんですよね。本来そこはプロもアマチュアも関係ないところですから。レストランで『歌わせてくれ』と当日にいきなり乗り込んでも、最大のサポートをしてくれます。でも、日本のそういうところは批判するだけじゃなくて、僕らミュージシャン側から変えられる、変えるべきところでもあると思います。“交渉”することも可能だろうし、もっとうまいやり方を考えていかなければならないと思いますね」
訪れた国々で耳にする日本のアーティスト名やアニメのタイトル、そこから海外における日本への関心度の高さを実感。そして、“Made in Japan”への信頼性や「勤勉」「努力家」といった尊敬的なイメージを持たれていることもあるという。「日本人って、好かれるんですよ」客観的に日本を見ることができ、“誇り”を感じるようになったという。
「英詞で歌う日本のアーティストに違和感を感じるようになりました。自分も昔は『英語で歌うのがカッコイイ』といった認識もありましたけど、今は完全に価値観が変わりました。日本人なんだから日本語で歌うほうが絶対カッコイイんですよ。アメリカのカントリー、アルゼンチンのタンゴ、メキシコだったらマリアッチ、といった国ごとの音楽を彼らは誇りを持ってやってるんですよね。でも自分はブルースっぽい、ジャズっぽい歌も歌ってる。じゃあ、日本らしい音楽、和のメロディーとはなんなのか? それを歌いたいのか? というとそういうわけでもない、というジレンマはあります。でもそこをうまく融合して“迫水秀樹”の音楽をやりたいと思っています」
長旅を終えた迫水は、しばらく日本に腰を据えた活動を考えている。旅で出会った友人や仲間たち、世界の人たちへ日本という国から発信できることを模索していきたいと。また海外へ行くのか?との問いには「行きますね」と即答した。ただ、それがいつになるのか、どんな旅をするのかはまだ解らないという。
「もし、僕みたいに『歌で世界を旅したい』という変わり者がいるのなら、どのくらい貯金を貯めておけばいいのか?とかいろいろ考えると思うんです。でも極論、準備期間を持たずに今すぐ飛び出したほうがいい。『行ってから考えろ』ってことです。無謀ですかね?(笑)。でも『歌で世界を旅する』なんて、僕も正直無理だと思ってましたから。でもやってみるものですね、やってみたら可能だった(笑)。この先の夢は、グラストンベリー・フェスティバルとか、海外の大きなフェスに出たいです。大きなステージで、日本語で大声で歌いたい」
そんな迫水秀樹は、10月31日(土)に行われる<東京デザインウィーク>に出演する。謎のピアニスト・出会ユキとの共演ライブ&映像トークが披露され、彼の音楽と人間に魅せられたという作家・松村美香がMCを務める。
■冬将軍
音楽専門学校での新人開発、音楽事務所で制作ディレクター、A&R、マネジメント、レーベル運営などを経る。ブログ/twitter
■イベント情報
2015/10/31(SAT)東京デザインウィーク
『世界を語ろう歌う道』
スペシャルゲスト:ピアニスト・出会ユキ&作家・松村美香
時間:16:30~18:00
場所:TOKYO DESIGN WEEK 中央会場ソクラテスカフェステージ
住所:〒160-0013 東京都新宿区霞ヶ丘町2-3
参加料金:4,500円(デザインウィーク入場料込)
http://tokyodesignweek.jp/2015/tokyo/
■Hideki Sakomizu Official Web Site
http://hidekisakomizu.com/
■Hideki Sakomizu Blog「My Wonder Story」
http://sakomizuneko.blog.fc2.com