田幸和歌子のジャニーズ斜め読み
『嵐、ブレイク前夜』は5人の素顔に近づいたか? ドキュメンタリー本として読み解く
本当の「素顔」をファンが知ることは残念ながらできない。彼ら自身の口から語られる言葉ですら、真実かどうかはわからない。それでもファンは少しでも素顔を知りたい・真実に近づきたいと思うものであり、本書もそういったファン一人ひとりが見て、感じて、考えてきた「自分なりの嵐」像と、「身近な人視点の嵐」像との、ひとつの「答え合わせ」として読むことができると思う。
そして、実は本書を読むことで、より多くのことを考え、感じることができるのは、芸能界の頂点にのぼりつめた嵐のファンよりも、むしろ後輩の若手ジャニーズやデビュー前のジャニーズJr.たち、そして彼らのファンたちではないだろうか。
『ミュージックステーション』の出番がいつも最初で、尺が短く、トークもさせてもらえないこと。女性アイドルグループよりも格段に扱いが悪いこと。世間に「売れない」と言われ、叩かれること。そうした状況に本人たちが焦りを感じ、努力していること。そして、そんな彼らの姿に心打たれるファン心理など、若手グループやJr.たち、そのファンにとっては、いまリアルタイムで痛いほどわかる状況が、国民的アイドルグループ・嵐にもかつてあったということを再確認でき、希望が湧いてくる部分も多い。
嵐のブレイクは、マーケティングによるものでも、ノウハウがあるものでもない。だからこそ、将来、嵐のようになれるグループは、もう出てこないかもしれないし、後輩たちが嵐を目標とすること自体、間違いかもしれない。でも、ブレイクまでの嵐メンバーたちの葛藤・努力は実に美しく、キラキラしていて、そうした奇跡の「瞬間」に立ち会いたいという思いが、ファンにとっての大きな原動力になっているのかもしれない。
(文=田幸和歌子)