兵庫慎司「ロックの余談Z」 第1回

なぜ人はイベントをやるのか? 音楽ライター・兵庫慎司が考える

 

 なぜ人はイベントをやりたがるのだろう。

 ということが、昔から不思議だった。どれくらい昔からかというと、自分が学生時代、京都でぱっとしないアマチュアバンドをやっていた頃だから、25年くらい前(バンドブーム絶頂期です)から、ということになる。あ、この場合の「イベント」というのは、ライヴハウスで、ワンマンとか2バンドとかじゃなくて、5~6のバンドが出演して行われるような、いわゆるライヴイベントのことを指しています。フェスとかのでっかいイベントも、イベントといえばイベントですが。

 ライヴハウスに出入りしている、でも自分はバンドをやっているわけではない子(多くの場合女の子)が仕切って、ハコを押さえてバンドを集めてイベントをやる。自分も出してもらっていたので文句をつける立場ではないし、文句を言いたい気持ちもなかったが、ただ単に、不思議だった。

 この子たちはなぜイベントをやるんだろう? 自分がステージに立てるわけではない。もちろんカネが儲かるわけでもない。ブッキングとかチケットさばいたりとか、大変なことだらけなのに、それに値するような見返りなど、ない。でも、リスクはある(客が入らないとか、ノルマ払わないバンドが出るとか)。イベントをやることによって、彼女たちはいったい何を得ているんだろう?

 わからないまま90年代になり、バンドをやめて東京に出てきてロッキング・オンという音楽雑誌の会社に入り、渋谷や新宿や下北沢のライヴハウスを回るのが仕事のひとつになった僕は、東京でも同様のことが行われているのを知ることになる。いや、同様じゃない。もっと熱心に、もっと激しくだ。

 バンドが仕切る、いわゆる「××(バンド名)企画」とは別。アマチュアのイベンターみたいな人が何人もいて、いろんなライヴハウスでイベントをやっている。当然みんなそれで食っているわけではない(のちに『SET YOU FREE』の千葉さんのように、それで食えるくらいイベントを成功させる人も出てくるが)。

 ただ、人気バンドのマネージャーの中には、昔そうやってライヴハウスでイベントをやっていて、バンドとつながりができて、バンドと共にプロの道へ……という人が少なからずいることも、知ったりする。でも、最初からそれを目的にしてイベントをやっているわけではないだろう。だったらマネージメント・オフィスのバイトかなんかに応募したほうがよっぽど早いし。

 そして。ここまではアマチュアやインディの話だが、プロの世界でも同じようにイベントが行われていることに気づく。90年代はまだ数が限られており、有名どころでいうと新宿日清パワーステーションの『SATURDAY NIGHT ROCKN’ROLL SHOW』くらいしか思い出せないが、00年代に入ると一気に増える。

 雑誌やラジオ、テレビなどのメディアが企画制作するイベント。いわゆるライヴを生業とするイベンターが行うイベント。ファッションブランドやショップによるイベント。ライヴハウスが主催者であるイベント。などなど。と、他人事のように書いているが、僕も2000年代の前半頃は、ロッキング・オンが企画制作して赤坂BLITZやSHIBUYA-AX、のちにはZEPP TOKYOで行っていた「JAPAN CIRCUT」というイベントのブッキングが、仕事のひとつだった。すでにその当時、「AX即完のバンドを3つ集めてもAXは全然埋まらない。ヘタするとそこに武道館即完のバンドが加わっていても満員にはならない」という事実は、ライヴ業界の常識だった。毎月とてもブッキングに苦労し、寝ても覚めても「あの回のブッキングがまだだ」ってことが頭の隅にひっかかっている、重苦しい日々を過ごしていたものです。

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