『トキノワ』リリース記念インタビュー

パスピエが語るポップミュージックの最適解 「キャッチーと奇をてらう、どちらかに寄りすぎてもダメ」

 

「武道館は両手放しでわーいとは喜べない感じ」(大胡田)

――大胡田さんは作詞の段階で、ポップなものになるようにどう手心を加えますか。

大胡田:中毒性については、私はあまり考えたことがないですけど…。似たようなフレーズでも、始まる音の高さが違ったり、繰り返したりするんですね。そういうところを見つけたら、そこへ似た音や同じ詞を付けて、言葉を繰り返して印象付ける歌詞にしています。大体繰り返しで使った言葉はテーマになるものが多いです。

――歌いまわしなどでの工夫は?

大胡田:曲によりますけれど、繰り返しの箇所ってサビに来ることが多いので、そこを強烈な歌い方で変えてしまうと、逆に言葉の力みたいなのが薄まってしまいます。なので、やりすぎない感じ、加減みたいなことは考えていて、「トキノワ」みたいにポップな曲でしたら、あまりクセのないような歌い方で。サビとかはボーカルを重ねるでしょうから、強烈すぎない、聴きやすい、何度聴いても大丈夫な歌い方にする感じです。

――3曲目に収録しているCORNELIUSのカバー「NEW MUSIC MACHINE」は、これまでシングルで行ってきたカバーシリーズの最新版ですね。選曲の意図を教えてください。

成田:いろいろな周りのアーティスト、バンドが先人の楽曲をカバーするなかで、触れられていない曲をと思いました。それに「パスピエ、次はそうきたか!」と言ってほしいというのも動機として存在します。この曲は『FANTASMA』のなかでも、大胡田が歌っているイメージができたのと、歌詞に未来の年として「2001年」と「2010年」というワードが出てくるんですけど、僕らはもうその年を越してしまったわけで、今、それを歌うことが面白いなと思って。「2020年」とかにするべきなのか迷ったんですけど(笑)。

大胡田:この曲はもう素直にそのまま、というか。今までは割と自分でニュアンスをつけて、自分のなかで一回解釈して外に出すみたいな気持ちでいたんですけど、今回、この『NEW MUSIC MACHINE』は聴いて感じたまま、本当に流れに任せて歌えたっていう感じです。

成田:あと、渋谷系のムーブメントはパスピエのスタンスに繋がる部分は多いと思っていて。

――「渋谷系」や「シティ・ポップ」というキーワードはここ1~2年で頻発していて、書き手も受け手も色々と解釈しているわけですが、成田さんはそこに進んで入っていく感じですか。

成田:いま、渋谷系やシティ・ポップのような音楽がもう一度若手バンドによってリバイバルされてるのって、J−POPというものへのカウンターであり、「もっとこうだったらいいのに」という問題提起なのかもしれないと思っていて。僕は80年代のシティ・ポップと現在の若手バンドがやってるものは違っていて、80年代は当時最先端だった音楽的技術を駆使して色々なエフェクトを使ったりという、未来への憧れのようなものがあったと解釈しています。今はものすごくいろいろなことが満たされているなかで、あえて音像をそちらに近づけているので、スタンスとしてはパンクに近いんじゃないかと思ったり(笑)。だからバンドとしてはニュー・ウェーブという括りの音楽をやっているなかで、今後このジャンルがどうなっていくのかはすごく考えますね。

――冠で「ニュー」って付いているけど全然新しくはないという話になってくるわけですよね(笑)。

成田:ただ、新たにそこにムーブメントが起きて、新たな名前だったり冠がつくっていうことだとしたら、それはそれで面白いとは思うんですけど。「ポスト」自体も、昔からついている冠ではあるので、たとえば「リバイバル・ウェーブ」とか(笑)。

――2015年第1弾となるこの作品はパスピエにとって重要作となるわけですが、現段階で「こうしたい!」という音楽的に明確な指針はあるのでしょうか。

成田:年末の武道館ですね。照準を合わせてそこに向かっていくこと自体、今までなかったことなので。去年に関しては『幕の内ISM』の世界観を引っ張ってツアーを行ったりした印象が大きかったんですけど、今年は一つ一つ山を越えていかないといけないと思っています。

――武道館公演については、まだ先の話ではありますが、決まった直後としての意気込みを聞かせてください。

成田:本当に噛み締めているという感じですね。実際に興奮するのはステージに立ってからだと思うので、まずはいろいろなハードルを超えるための準備を始めていかなきゃなとは思っています。

大胡田:私は「今年に来たか」という感じ。いつかはきっとすると思っていたんですけど、それが今年だったということで…。武道館という場所を使ってパスピエをどういうふうに表現しようか考えていかないといけない。両手放しでわーいとは喜べない感じというか(笑)。

――お二人とも、一度スーッと息を吐いてグッと構える感じですね(笑)。演出面でやってみたいことはありますか。

大胡田:ちょっと長めの映像を入れたいと思っています。そのときに出している作品と絡めたりして、まだはっきりしていないんですけど、絵を含めて視覚効果的に何かをやりたいですね。

成田:具体的じゃないんですけど、パスピエが武道館でやる理由っていうのを示せたらいいなと思います。ビジュアル、イラストは大胡田に託しているので、僕は演奏面で他に武道館でライブを行うアーティストたちと違うことができればと思います。

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