西廣智一がバンドの「本気」を解説

cinema staff、勝負作『blueprint』をどう広めるか? 斬新なプロモーション展開を読む

 さらにcinema staffはその3日後の3月4日、アルバム『blueprint』収録曲の全歌詞を「歌ネット」にて先行公開。三島想平(B)が書く短編小説のような歌詞、そして異色のインスト曲「陸にある海」を耳に目にすることでイマジネーションが掻き立てられたファンは、自分の想像や妄想をTwitter上に吐露していく。リリースまで2カ月近くあるのにすべての楽曲の情報(インスト曲のみ歌詞がないためフル試聴というのも納得がいく話だ)……そう、ここまで中身について情報発信していくのは異例の事態ではないだろうか。こういった情報が揃ったあと、ライブやラジオなどでアルバム収録曲がついに演奏&オンエアされる。歌詞のみで楽曲のイメージを妄想していたファンは、自分の想像に近いものだったか、それともまったく違ったものだったかをここで答え合わせすることになるのだから、思わずニヤリとしてしまうに違いない。

 ここまではあくまでcinema staffのファンを対象としたプロモーション展開だが、彼らの場合はこれだけでは終わらなかった。アルバム発売1カ月前の3月25日には、『blueprint』特設サイトがオープン。このサイトにはメンバー三島による全曲解説コメントや、メンバーと縁のあるアーティスト&スタッフによる「シネマのブルプリ 100人コメント」などが随時公開されており、特に「シネマのブルプリ 100人コメント」では片平里菜や山田義孝(吉田山田)といったレーベルメイトをはじめ、後輩ミュージシャンや同年代のバンドマン、cinema staffがリスペクトする先輩アーティストまでバラエティに富んだ面々からの、愛あるコメントを楽しむことができる。また4月8日からは新コンテンツとしてインタビューも毎週公開。第1弾として三島とLiSAの対談、第2弾には久野洋平(Dr)とKEYTALKの八木優樹(Dr)、第3弾には辻友貴(G)とAV女優の福咲れんとの対談がアップされ、どちらも大きな反響を呼んだ。「メンバー4人それぞれ、今一番会いたい人に会いにいく」というテーマを持つこの対談企画は今後も飯田瑞規(Vo, G)の対談が掲載される予定だ。

 こういったコンテンツを通じて、それまでcinema staffに興味のなかった音楽ファンも「自分の好きな◯◯がオススメするなら聴いてみようかな?」「こんな人と仲良しなんだ! どんなバンドなんだろう?」と多少は興味を持つかもしれない。そういった際に、同じ特設サイト内ではアルバム収録曲「シャドウ」のMVを視聴することができるし、三島のアルバム全曲解説コメントも読むことができるし、「歌ネット」の全歌詞へのリンクも用意されている。さらにスマホ版のみ、「great escape」の360°パノラマライブ映像も視聴可能だ。cinema staffというバンドに少しでも興味を持った人への導線としては文句なしだろう。

 今回のアルバム『blueprint』はcinema staffにとってターニングポイントになる1枚であり、聴き手に対して“開かれた”楽曲の数々はより多くの人のもとに届いてほしいと思うものばかりだ。そのために企てられたこのプロモーションからはアーティストやレーベルサイドの本気が感じられる。アルバムへとつなげようとするこの展開が成功したかどうか、その結果はすぐには出ないかもしれない。しかしバンドが現在の音楽シーンで“長生き”していくために、この展開は後々重要なものになるのではないか……そういう意味でも今後の指針の1つになるはずだ。

■西廣智一(にしびろともかず) Twitter
音楽系ライター。2006年よりライターとしての活動を開始し、「ナタリー」の立ち上げに参加する。2014年12月からフリーランスとなり、WEBや雑誌でインタビューやコラム、ディスクレビューを執筆。乃木坂46からオジー・オズボーンまで、インタビューしたアーティストは多岐にわたる。

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