成馬零一『ワンダフルワールドエンド』映画評

大森靖子の世界観はどう映画化された? 橋本愛&蒼波純主演『ワンダフルワールドエンド』を観る

『ワンダフルワールドエンド』予告編

 もちろん主演の二人が魅力的なのは言うまでもない。

 橋本愛は、中島哲也監督の『告白』で注目されて以降、数々の映画で圧倒的な存在感を見せてきた。そして、連続テレビ小説『あまちゃん』(NHK)でアイドルに憧れる田舎の女子高生・足立ユイを演じたことで演技の幅を大きく広げ、本作では大森靖子が乗り移ったかのような激しい演技も披露している。また、東京で売れないモデルをやっているという詩織の設定は、「もしも、ユイちゃんが東京に来ていたらどうなっていたのか?」という物語のようにも見える。

 新人の蒼波純も、橋本愛にリードされる形で素晴らしい演技を見せている。蒼波純は講談社が主催する「ミスiD2014」のグランプリを受賞したアイドル。ネット上では、毎日のようにツイッターから投稿される彼女の写真爆撃に注目が集まっていた。

 とは言え、“凄く新しい何か”が彼女にあると思いつつも、どのように彼女を使えばいいのかと戸惑っていたクリエイターも多かったのではないかと思う。そんな中、本作は、「蒼波純の女優としての可能性」を理想的な形で引き出している。台詞は決して多くはないが、憂いのある表情が実に素晴らしく、表情を見ているだけで胸がいっぱいになる。

 本作と『世界の終わりのいずこねこ』が上映された後は、蒼波純を撮りたいというオファーが殺到することだろう。

 大森靖子の世界を忠実に映像化し、橋本愛と蒼波純が魅力的に撮れているだけでも、超えるべきハードルは完璧に超えた映像作品だと言える。

 もちろん魅力はそれだけではない。

 作中では売れないモデルの撮影会や、ツイキャスやLINEといったネットを通じて10代の少女が自分の動画を配信したり、コメントをくれたファンと簡単に出会えてしまう姿が、当たり前のものとして描かれている。これはネットやアイドルに馴染みがない人から見たら、不可解な世界に映るかもしれない。

 しかし、かつてはネットで知り合った人と恋人になるなんて理解できないという風潮だったが、今では、普通のこととなっている。

 「ミッドナイト清純異性交遊」に「アンダーグラウンドから君の指まで遠くはないのさ」という歌詞があるが、この歌は、人と人がSNSや動画配信でつながってしまう情報環境を、その危なっかしさも含めて祝福している曲だと思う。詩織と亜弓がスマホでお互いを撮影する場面の美しさは、それをもっとも表現している。

 また、「さよなら、男ども。」というキャッチコピーも強烈である。

 大森靖子は、アイドルについて饒舌に語るのだが、それはかわいい女の子が大好きだからだというのはもちろんだが、アイドルの向こう側に見える若い女の子たちを乱暴に消費して使い捨てにする社会に対して彼女が自覚的だからだろう。

 これは女だけの問題ではない。本当は男も同じ問題を抱えている。しかし、女と較べて社会制度に守られている男たちは、消費されていることに対し、あまりにも無頓着である。そんな“男ども”が、どのように描かれているのかも注目だ。

 劇場公開は来年1月17日と、しばらく間が空くが、彼女たちのワールドエンドを見届けてほしい。

(文=成馬零一)

■映画情報
『ワンダフルワールドエンド』
1月17日より、新宿武蔵野館ほか全国順次公開。
前売鑑賞券では、特製ステッカー(数量限定)付。
(C)2014 avex music creative inc.

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