柴 那典がサザンオールスターズ新曲を分析

2020年東京五輪にサザン登場!? 現役最強バンドが新曲『東京VICTORY』に込めたメッセージとは

 そして、この曲からはサザンにとっての「東京」という街の位置付けも読み取ることができる。2005年にリリースされた現時点での最新アルバム『キラーストリート』も、そのタイトルはやはりビクタースタジオのある外苑西通り(通称・青山キラー通り)に由来するものだった。サザンの地元が茅ヶ崎であることは周知の事実だが、茅ヶ崎や湘南がいわば「青春の象徴」であるのに対して、ビクタースタジオのある東京には、いわば「ホームグラウンド」とも言うべき場所としての思い入れがあるはずだ。

 それゆえ、どちらも「ふるさと」でありながら、サザンオールスターズの湘南と東京に対しての描き方は、少し異なるセンチメントを持っている。茅ヶ崎や江ノ島や鎌倉の地名が数々の楽曲に散りばめられた湘南には、愛する故郷として「変わらない」ことを求め、活動の本拠地である東京には寂しさを持ちつつも「変わっていく」ことを受け入れる、といった具合だ。それがこの曲の≪時を駆けるよ Time goes round 変わりゆく My hometown 川の流れのように≫という歌詞の一節にも表れている。

 そして、ひょっとすると、この「川の流れのように」という一節は、「TSUNAMI」でレコード大賞を受賞したときに桑田佳祐が「やっと背中が見えた」と語った美空ひばりの名曲を意識したものなのではないだろうか? そこから考えると、その美空ひばりがデビュー当時からカバーしていた笠置シヅ子「東京ブギウギ」(47年)、サザンが80年代にシングルリリースし紅白歌合戦でも披露した「東京シャッフル」(83年)、そして2014年の「東京VICTORY」という一本の線をつなぐことで、変わりゆく街としての東京の姿、それが象徴する日本の戦後史を浮き彫りにすることもできる。

 一方、ここまで大きな役割を引き受けた「東京VICTORY」という曲を作りつつ、カップリングの「天国オン・ザ・ビーチ」では≪割れ目が『ジュン!!』と鳴っちゃった≫など歌いコミカルな「エロ曲」に徹しているのも、サザンらしいところ。こちらは昭和の歌謡曲にオマージュを捧げるようなテイストの曲調で、MVではAKB48やドリカム、奥田民生や斉藤和義など豪華メンツが揃い、ハッピーで賑やかな曲を彩っている。

サザンオールスターズ「天国オン・ザ・ビーチ」MUSIC VIDEO

 すでに「進撃のサザン!2014」と題してこの先の活動予定も発表している彼ら。12月には9年ぶりの年越しライブの開催も決定、オリジナルアルバムも年内の完成を目指して制作が進んでいるようだ。

 そして、その先には、2020年の東京オリンピックが待ち構えている。この「東京VICTORY」を聴くと、彼らがそのモニュメンタルなステージに立ち、音楽シーンの「日本代表」として高らかにアンセムを歌っている姿も思い浮かぶ。実際、JOCが昨年10月に実施した「2020年の東京オリンピック開会式に登場してほしい歌手は?」というアンケートでも、嵐、EXILE、SMAPをおさえてサザンは1位となっていた。(http://www.joc.or.jp/news/detail.html?id=4517

 日本のポップミュージックの「現役最強のレジェンド」たるサザンオールスターズ。彼らがこの先に成し遂げようとしていることを思うと、やはり胸の高鳴りは抑えられない。

■柴 那典
1976年神奈川県生まれ。ライター、編集者。音楽ジャーナリスト。出版社ロッキング・オンを経て独立。ブログ「日々の音色とことば:」Twitter

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