新作『DEVASTATION IN THE VOID』インタビュー

伝説のハードコア・パンク・バンド、SLANGが語る結成27年目のバンドヒストリーと復興支援

SLANGのメンバー。左から、KO-HEY(Dr)、SAKUMA(Ba)、KO(Vo)、KIYO(Gt)。

 80年代の後半から活動を続ける札幌のハードコア・パンク・バンド、SLANGが8月6日に新作アルバム『DEVASTATION IN THE VOID』をPIZZA OF DEATH RECORDSよりリリースした。東日本大震災の被災者支援プロジェクト「NBC作戦」の発起人であり、バンドの中心人物であるKOは、“空虚の荒廃”と名付けられた新作にどのような想いを込めたのか。そして、20年以上に渡ってバンド活動を続けてきた理由とは。バンド結成から現メンバーが揃うまでのいきさつ、今作のコンセプト、そして今の日本について思うことまで、幅広く語ってもらった。聞き手は、FORWARDのボーカリストであり、同バンドとは旧知の仲のISHIYA氏。(編集部)

KO「今の日本を見ると、自分の無力感と向き合わずにはいられない」

ーーSLANGが結成して何年目?

KO:88年なので、今年で27年目に入ったところです。現メンバーになったのは2006年で、それからもう8年くらい経っています。このメンバーでアルバムを出すのは4枚目で、PIZZA OF DEATHからは2枚ですね。

ーーゴリゴリのハードコア・パンクのSLANGが、なぜPIZZA OF DEATHからリリースするようになったの?

KO:Hi-STANDARDがメジャーから独立する時に、とある関係者の人が流通の会社を立ち上げたんですよ。それで、もともと俺のやってるレーベル(STRAIGHT UP RECORDS)もお世話になることになって、その後ぐらいに健ちゃん(Hi-STANDARD)が「他のバンドもやって行くつもりだから、もし良かったらウチから出したら」って誘ってくれたんです。でも、その後にウチのメンバーが辞めちゃって、俺がボーカルになったんだけど、あまりにも自分がダメ過ぎる期間が長くて、これは他人の所で出せないだろうって思って。ちゃんと練習をして、1枚2枚ぐらい自分で出して、そろそろあのときの約束を果たしてもいいかなって思って出したのが、2012年の『Glory Outshines Doom』。気付けば10年ぐらいかかってしまった。

ーーそんなに前から話があったとは。PIZZAとハードコアのファン層って全然違うと思うんだけど、その辺はどう思っていた?

KO:確かにファン層は違いますね。ただ、その分ハードコアのお客さんが聴いても納得してくれるというか、どこからリリースしていようが関係ないっていうクオリティに仕上げなければいけない緊張感があって、そういうことが良い感じに働いたとは思います。

ーー新しいアルバムのタイトル“DEVASTATION IN THE VOID=空虚の荒廃”っていうのは、どんな意味合い?

KO:俺は結構、物事や世界を悲観的に見ているところがあって、今の日本はこのままじゃ絶対マズイだろうって感じている。札幌にいて今の日本を見るとすごいギャップを感じるというか、自分の無力感みたいなものに向き合わずにはいられない。そういう思いを込めてこのタイトルにしました。放射能汚染とか、目に見えないけど恐ろしいものが蔓延しているでしょう。インナーにある挿絵は、そういう思いから昔のペストが流行した時の風刺画からヒントを得て描いてもらっています。

ーー1曲目の「Scum」の歌詞には、反原発の運動をしている戸沢淳の名前が出てくるね。

KO: 北海道庁前の反原発の抗議には戸沢達がつけた「デストロイ・ニュークリア・バビロン」っていうスローガンがあるんですよ。サビを考えた時にそれが出てきて、道庁前のことを書くなら戸沢の名前を出さないとなって。それに、歌詞に友達の名前を出すって新しいでしょ(笑)。

SLANG -Scum(Official Live Music Video)

ーー「The End Of Nuclear Era」の歌詞で「負け犬に生まれても飼い犬にはならない」ってかっこいいよね。

KO:あれは、レミー・キルミスター(モーターヘッド)の影響ですね(笑)。

ーーあぁ、なるほど。いいよねこの歌詞、すごく伝わるよ。こういう言い回しはPIZZAにはいないタイプだと思う。「Vicious”Nuclear Fuel”Cycle」も原発の歌だよね?

KO:核燃料サイクルの事ですね。核燃料サイクルについてすごくハマって勉強したんですよ。河野太郎の動画とかも観まくった。あの人は再稼働反対とかじゃなくて、既存の原発は使えるものは最後まで無駄無く使って行こうっていう意見だと思うんですけど、俺はこれ以上動かさない方がいいと思ってる。サイクルの一つに原発が組み込まれている所もあるということは理解している。だから、その理論には納得するところもあるんですけどね。

SAKUMA「先輩にハイスタを観に行くと言ったら『SLANGに殴られるぞ』って(笑)」

ーー曲はKOちゃんが作ってるの?

KO:前作まではほぼ俺でしたけど、今回はメンバーと半々ぐらいです。

ーーこの前ライブ観た時に感じたんだけど、KO-HEYとSAKUMAは最初の頃よりすごく良くなっているよね。相当練習した?

KO-HEY:2人でスタジオ入る事も多いですね。その時はSAKU君がリフを持ってきてくれる。KOさんとかが曲を考えてきても、ドラムが無かったらイメージが沸かないってこともあるので、2人で先に新曲の基盤作りみたいな感じで練習入ったりしますね。あとライブ前、ちょっと身体動かしておきたいって時に2人で練習します。

ーーいつ頃からそういう事始めたの?

SAKUMA:前のアルバムの時、いざレコーディングって段階になったら何も出来てなくて。ただ覚えるだけで精一杯みたいな感じで、一杯一杯だったんです。それで、レコーディングの3日前ぐらいから、ちょっと2人で練習しようってなって、5~6時間スタジオに入ったりしました。そこから2人でやり始めるようになって、それ以来ずっとやってます。一昨日も2人でスタジオに入りました。

KO-HEY:一夜漬けはやめようって思って(笑)。

ーーその練習の結果みたいなものは今回のアルバムに出ている?

KO-HEY:今回のアルバムは個人的にも考える時間がすごくあって、2人でやりながら色々なところを合わせる事が出来たと思います。

ーーもう8年ぐらいやっているんだよね? それまではなにやっていたの?

KO-HEY:俺は元々やっていたバンドがカウンターアクション(札幌のライブハウス)でライブやっていて、それでKOさんに声かけられました。当時は高校3年生だったんで、18才かな?

KO:SLANGで1回目のライブは高校3年生ですよ。

SAKUMA:その後、KO-HEYが19才の時に、僕とKIYOさんが入りました。

KO:ハルが居なくなって、1998年の暮れぐらいから俺がボーカルになって。その後のメンバーでダラダラ5~6年やってたんですけど、2005年ぐらいに「こりゃダメだ」と思って(笑)。札幌のYUKIGUNIってバンドに曲を憶えて貰って、YUKIGUNIをバックに年に3回か4回ぐらい、イベントの時だけやっていた。その間ずーっとメンバー探していたんですけど、貼紙しても誰も来ない(笑)。待っていてもダメだなって思って、2006年ぐらいに皆に声かけたんですよね。

ーーKIYOさんは元々メタル系だよね? 誘われた時はどんな感じだったのかな?

KIYO:俺は今でもSILVER BACKを続けているんだけど、ちょうど半年ぐらいライブとか全然入れてない時期にKOちゃんから電話がかかってきて「ヒマ? ちょっと手伝ってくれない?」って言われて。まぁ、2~3回ぐらいライブに出ればいいのかなって思って引き受けたら、いきなりひと月ぐらいのツアーが。(全員爆笑)でも、やっていて面白いですよ。昔から知っている仲だし。

KO:メンバー集めがなかなか上手くいかなくて、投げやりになって「もう東京とかから誰か騙して連れてこようか」とか言ってたんですけど(笑)。でもその前に北海道で一番ギター上手いヤツは誰だって話になって、カウンターアクションの事務所で名前を挙げて行ったんですよ。一番上手い人から声かけて行こうって。一番キャリアが長い人はSABER TIGERの木下さんって人なんですけど、彼とは話した事も無い。そうすると、次はもうKIYOさんじゃないですか? それで店の奴に「おい、ちょっとKIYOさんに電話して!」って言って、そのまま決まったんです(笑)。

KIYO:全く知らないバンドだったら考えるところですけど、KOちゃんとは、ね。

KO: 80~90年代当時の札幌は、バンドがいなくてパンクだけではライブが出来なくなっていたんですよ。それでスラッシュ系のバンドとハードコアのバンドがよく一緒にやっていて、みんな友達だったんだよね。

KIYO:ミクスチャーが出てくる前の時ぐらいかな。あの時代ってガッツリやっているバンドが何個かいるんだけど、そのシーンだけで集まって企画を立てるってなかなかできなかった。

KO:ハードコアのバンドが居なかったよね。

ーーKO-HEYとSAKUMAは元々どんなバンドやってたの? 影響受けたりしたバンドとかは?

SAKUMA:僕はセックス・ピストルズとか初期パンクがすごく好きで、SLANGに入るまでそんなにハードコアとか通ってなかったですね。ディスチャージのCDも高校生の時に買っていたんですけど、何がいいのかわからなくてそのまま寝かせていました(笑)。

KO-HEY:僕は元々ギターキッズだったんで、デフ・レパードとかヴァン・ヘイレンとか好きで聞いていて、中学入った時にHi STANNDARDとS.O.Bを同時買いして、それで速いのとかハードコアとか聞くようになりました。僕等は入り口がHi STANDARDだったんです。

SAKUMA:僕は昔、Hi STANDARDのライブを観に行きたかったんですけど、でもチケットがどこで買えるのか全然わからなくて、見つけた時にはもう全部無いって感じで。それで先輩に「Hi STANDARDのチケット買えなかったです」って言ったら「お前ら、絶対ハイスタのライブなんか行くな」って言われて。何故ですか?って聞いたら「SLANGってバンドの奴らスゲェ怖いから、ハイスタなんか行ったらお前ら全員殴られるぞ!」って。それがSLANGとの出会いでした(笑)。

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