ニューアルバム『Fancy』インタビュー

Curly Giraffeが語る、楽しみながら曲を作る方法「音楽が好きというエネルギーが今も動機に」

 

「脳内にあるイメージをどんどんリアルにカタチにして表現できるようになってきた」

――「Not in a Million Million Years」はドゥー・ワップの要素が軸ですね。

高桑:そうですそうです。あの曲はですね、たまたまキャロル・キングの伝記本を読んでいた時に作ったんです。キャロル・キングがごく初期にドゥー・ワップの曲を作っていた、という部分が出てきて、“あ、そういえば、Curly Giraffeにドゥー・ワップの曲ってないなあ…”って思ったのがきっかけでした(笑)。それで作ってみようって。ただ、そういう場合って、普通はドゥー・ワップを徹底的に研究したりするもんじゃないですか? でも、僕はイメージだけで曲を作っちゃうんです。グルメ番組を見て想像で自分でも料理を作っちゃうような、言ってみればそんな感じですよ(笑)。

――レシピを見ずに作っちゃう。

高桑:そうそう。雰囲気で(笑)。

――いいな、作ってみよう、よし出来た、美味しい!みたいな。

高桑:(笑)まあ、そうですね。

――Curly Giraffeではそういうソングライティングが中心ですか?

高桑:そういうのばっかです(笑)。「People are Strangled」は、リンダ・マッカートニーのソロの曲「Seaside Woman」(『Wide Prairie』収録)みたいな曲書いてよって堀江くんに言われて。あの曲ってカリブっぽいというかダブっぽい曲なんですけど、そういえばそういう曲って作ったことないな、じゃあ、作ってみようかなって、ほんとそんな感じですよ。

――(笑)。それでもちゃんとドゥー・ワップならドゥー・ワップ風の曲、カリブ風ならカリブ風になってしまう。

高桑:それはやっぱりこれまでの経験がモノを言っているんでしょうね。作り手としての経験とリスナーとしての経験と。でも、20代の頃だったら、絶対にこういう作品は作れなかったと思いますよ。

――今まで以上に1曲ごとのカラーが明確で、無邪気に好きなことをやろうという気持ちがストレートに出るようになった印象もあるのですが、それも経験の積み重ねだと感じますか?

高桑:あ、それはあるかもしれないですね。もちろん、その1曲1曲を作る前後はかなり集中してその曲の世界に入っていますし、夢中になっているから決して適当じゃないんです。ただ、そこに辿り着くまでが異常に早いんですよね。曲を作っている時に悩むことはないんですよ。単純に音楽が好きだから…でしょうね。今回は特に楽しんで作った実感もありますしね。脳内にあるイメージをどんどんリアルにカタチにして表現できるようになってきた感じがありますね、ファーストの頃に比べると。そのまま自分の脳みそをコンピュータにつないだら音になる、みたいな風になるのが目標ですね(笑)。ただ、今回のアルバムはこれまでとちょっとだけプロセスが違って、少し時間をかけているんです。今までだと1日か2日でオケを録音しちゃっていたんですけど、今回は先に骨組みだけ作って、後から肉付けを時間をかけてやりました。

――1曲を仕上げるために時間を少し置くようにしたということですね。なぜそうしようと?

高桑:やっぱり1日2日で作ってしまうと、その時だけのアイデアが反映されちゃう。それもいいんだけど、もうちょっと一回俯瞰で見て、アルバム全体のイメージを考えながら作ってみようかなと思って。

――言わば“寝かせる”作業ですね。

高桑:そうですそうです。実は今回初めてそういうことをしてみました(笑)。一週間くらい置くと、違うアイデアが出てくるじゃないですか。考えてみたら、そうやって寝かせることも今まであんまりやってこなかったなあって思って(笑)。まあ、今までは他の仕事とか作業に追われて、その日のうちに曲を仕上げないと間に合わなかったりもしたんで…。ただね、実は今回、前作からは確かに2年半ですけど、途中で少し迷ったりした時期もあったんです。ソロだし一人で作ってるし、当たり前なんですけど、表現に制限がなくて、打ち込みだろうがなんだろうが、自分がやりたいことをやればいいっていう自由であるがゆえに、完全に落としどころを見失った時期があって。しばらくわかんなくなっちゃったんです。実は去年9月にソロのワンマンライブをやってるんですけど、それは本来ならレコ発ライブの予定だったんですよ(笑)。でも、全然アルバムが仕上がってなくて、ただのワンマンライブになっちゃった。まあ、それはそれでよかったんですけど、結局、今回のアルバムに入っている曲はその後…もっと言ってしまえば、今年に入ってから作ったものばかりなんです。

――もしかすると一度作ったものをお蔵入りにしたのですか?

高桑:いや、素材はいっぱいあったんですけど、あまりに方向性が違い過ぎて収集がつかなくなっていたんです。実際、打ち込みの曲も作っていたんですよ。去年はブラッド・オレンジとかをよく聴いていたので、ああいう80年代のプリンスみたいなのっていいなと思って自分でも試してみたり…。自由過ぎるのもナンだなあって(笑)。

――あ、でも、ブラッド・オレンジって高桑さんの在り方、指向、ソングライティングに実際近いですよね。

高桑:そうですね。メロディそのものに郷愁感あるところとかね。でも、あの人(ブラッド・オレンジ=デヴ・ハインズ)も一人でやるでしょ? じゃあっていうんで僕も打ち込みを使って曲作りをしてみたんだけど、どうもしっくりこなかった。で、結局ボツにして。まあ、そういう断片、メモみたいなものも含めるとストックは何百曲とあるんですけど、今回はそういうメモとか断片も結局一切使わずに最後は一気に今年に入ってから作りましたね。ホント、当初はゴールが見えなくてどうしようかって思ったりもしたんですけど、去年夏にマウイにプライベートで遊びに行った時に撮影した写真がインスピレーションになって作業が進むようになって。それが今回のジャケットで使っている写真なんですよ。

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