『Free Soul』シリーズ20周年 主宰者インタビュー(前編)

『Free Soul』橋本徹が語る、名物コンピの20年「僕たちの時代のスタンダードを提示したかった」

――ところで『Free Soul』シリーズに収録するか否かの基準というものはあるのでしょうか? ジャンルも多岐に及び、メロウなものもダンサブルなものもありますよね?

橋本:自分の好きな曲、という部分が大前提になっています。言葉にすることは難しいのですが、あまり厳格に決めなくても感覚的に判断できるんです。イベントがスタートする前に選曲した最初の4枚のコンピは、よりドライブ・ミュージック的というか、昼間の世界観が強いような気がします。それ以降は、DJパーティの盛り上がりがフィードバックされていったので、ちょっと盛り上がりすぎだろ、と今聴き返すと思うほど「ああ、テンション高かったな」って感じることもありますね(笑)。

――当初はオムニバスがほとんどだった『Free Soul』シリーズも、途中から単独アーティストに絞った作品や、レーベルで括ったベスト盤的な作品など、様々な形態のものがリリースされていきましたよね。

橋本:当初はオムニバスでやったほうが、CDとしての魅力や吸引力は高いと感じていたんですが、あまりにもパーティ・オリエンテッドになったこと、またレア盤熱の加速も含め、冷静になる部分が出てきたんです。「例えば、この人(リスナー)たちはたくさんのレア盤を知っているのに、カーティス・メイフィールドを全部聴いてないんだ……?」といった経験を頻繁にするようになったんです。それからはアーティスト単体のコンピ、レーベル単位で再編成していくことが増えましたね。

 昔から偉大なアーティストのベストアルバムはあり、僕は大学時代に聴いていろいろ学び楽しんだわけですけど、それを僕たちの時代で解釈したベスト盤(コンピ)を作ろうと思ったんです。「時代に応じて、一般教養を書き換える」というように言っていますが、価値観を更新する感覚で自分たちの時代ならではのアーティスト像を再構築する、ということです。

 例えば、これまでのジャクソン5のベストアルバムには「It's Great To Be Here」が収録されていませんでしたが、僕ら世代の価値観であれば、必ず収録する、といった具合に。そういったアップデートする感覚で、「僕たちの時代ならではのスタンダードを提示できたら」という気持ちがありました。

――先ほど“レア盤”の話が出ましたが、その加速に『Free Soul』や『Suburbia Suite』も一役買っていたと思いますが、そのへんはどうお考えですか?

橋本:『Suburbia Suite』や『Free Soul』で紹介した曲というのは、実際にはレア盤はほとんどなかったんです。でも、ムーヴメントとして機能すると、紹介・収録した楽曲のアナログが高騰化したこともありました。それによって、中古レコードショップ側が、僕が買った値段からは考えられないような値付けをすることもあったりして。読者やリスナーに対し、聴きたいと思ってもらえるような編集や執筆、選曲を心がけていましたから、誰よりも早くアナログを入手して聴きたい、プレイしたい、という気持ちもわかりますが、あまり賢い音楽の消費の仕方ではなかったと思います。

 なぜなら『Suburbia Suite』『Free Soul』シリーズで紹介した作品の9割方は、その後CD化されていますからね。何年かのタームで見れば、好きな曲を手軽に聴けるようになってほしいという僕の目的は、かなえられたと感じています。

「FREE SOUL」20周年記念!第1弾アルバム紹介

――橋本さん自身、ここまで“フリー・ソウル”という言葉や概念が浸透すると考えていましたか?

橋本:始めた当初は思っていませんでした。『Suburbia Suite』ブームの時もそうでしたが、ありがたいことにたくさんの反響をいただくことができたので、シリーズを始めた数ヵ月後、消費のスピードが早くなりすぎないよう一度ブレーキをかけるべきかな、と考えたことはあります。

 今こうして20年目の節目を迎えることができましたが、緩やかな右肩上がりで、これからも続けていけたらと思っていますね。(後編「橋本徹が語る『Free Soul』の現在地、そして2010年代のアーバン・メロウ」に続く)

(取材・文=橋本 修)

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