坂本龍一が「電子音楽」の歴史を紐解く――「テルミンやシンセはテクノロジーの側から与えられた」
世界的音楽家・坂本龍一を講師に迎え、音楽の真実を時に学究的に、時に体感的に伝えようという「スコラ 坂本龍一 音楽の学校」(NHK Eテレ)。2010年のシーズン1からこれまで3シーズンが放送され、大きな反響を得たこの番組の第4シーズンが2014年1月から放送決定。その第1回が2014年1月9日に放送された。
1月期のテーマは「電子音楽」ということで、ゲスト講師に川崎弘二、小沼純一、三輪眞弘の3名を迎えて講義はスタート。そもそも「電子音楽」という言葉自体が非常に曖昧、と前置きをした坂本が電子音楽とは何かを尋ねると「物凄い広い意味で捉えれば、電子機器を使って作られた音楽の全ては電子音楽」と定義した川崎。もっと狭い意味で捉えると、1950年代にドイツで作曲家のシュトックハウゼンが始めた「エレクトロニッシュ・ムジーク(北西ドイツ放送のスタジオで1951年から制作が始まった、発振器やテープレコーダーなど放送用の機器を利用した音楽)」なのだという。大きな特徴はそこで電子音を使ったということ。電子音を使えば、何ヘルツで、何秒持続する、何デシベルの音というように、音を構成する要素を完璧に数字で表現することでき、その数字で表現した音をまた数学的に構成していくことが出来るのだ。川崎は「『電子音楽』というジャンルがある訳ではなく、20世紀というテクノロジーに覆い尽くされた世界で、我々の生活に音楽はとても敏感に反応してきた。なので“20世紀音楽史”をテクノロジーという視点から眺めるというのが今回のスコラのテーマになり得ると思う」と話し、坂本もそれに賛同した。
“20世紀音楽”の特徴として、「音響・音色の拡大を目指す」が挙げられるという坂本。19世紀の音楽は楽器で演奏するものの内で音楽が作られ、打楽器のようなピッチ(音の高さ)のないものは排除されていたという。それが20世紀に入ると、そういったものがどんどん音楽に取り入れられてきた。小沼はこれを“音楽の都市化”とし、馬車や電車によってサウンドスケープ(カナダの作曲家マリー・シェーファーによって提唱された概念で「音風景」、「音景」などと訳される)が変わってきたことで、耳が順応していったのだと語る。科学技術の進歩に伴い街には騒音が溢れるようになるが、音色の拡大という概念から、その騒音も音楽に取り入れようという動きになってきたのだ。騒音そのものを音楽とするという発想は音楽界に大きな衝撃を与え、その後の電子音楽にも大きな影響を与えた。20世紀前半、街が近代化してきたことで“力”や“スピード”に対する賞賛が高まってきたことや、これから始まる科学技術の時代に対する期待が高まっていたことも、音楽に強い影響を与えたと坂本は語る。
そして科学技術の進歩に伴い通信の手段もそれまでのモールス信号から近代化し、音声を電気信号に変えて送ることが可能になる。この技術を応用して、電気信号を使った楽器を作ろうとする技師や科学者が現れた。そうして生まれたのが世界初の電子楽器、テルミンである。テルミンとは、電波が出ているアンテナに手を近づけたり遠ざけたりして電気の状態を変えることで、テルミンの内部の発振器に作用し、音の高さと大きさをそれぞれ変えることが出来る楽器。スタジオでは坂本とピアノなどのアコースティック楽器を普段学ぶ学生たちが、日本のテルミンの演奏の第一人者、竹内正実の指導でテルミンの演奏を体験した。