現実から仮想まで。建築家・水谷元と巡る建築探訪記(第8回)

『ドラゴンクエストX』好きの建築家が「港町レンドア」に付いて考察してみた

 現実、仮想を問わず建造物という存在は空間を構成する大きな要素となっている。例えば現実における「駅」や「ビル」はランドマークともなり、そこを起点とした人々の営みなども生じ、都市空間を彩ってくれる。ゲームやアニメ、映画でも建築物がストーリーを語る上で、あるいはプレイヤーが没入するのになくてはならない要素となる。現役建築家が現実、仮想の建造物や都市空間について語っていく本連載。今回も『ドラゴンクエストX』の建築物や世界を解き明かしていこう。

 今回はバージョン1から訪れることのできる「港町レンドア」を紹介する。「港町レンドア」は、序盤のメインストーリーを進めて「大陸間鉄道パス」を獲得したタイミングで、各大陸の駅から電車に乗って移動できるようになる序盤の町だ。2026年8月に14周年を迎えた『ドラゴンクエストX』はすでにバージョン8まで発売され、様々な大陸や世界や時代に行き来できるようになった。しかし、バージョン1から存在する大陸や島には、初心者から上級者まで利用する様々な町が点在している。特に「港町レンドア」は、公式イベントが頻繁に開催されるなど訪れる機会が多い。

 これまでは『ドラゴンクエストX』の特徴である五種族の特徴を生かした町などを紹介してきた。「港町レンドア」は人間の町であり、あえて紹介する必要もないかと思っていたのだが、あらためて町歩きしてみると「港町レンドア」のおもしろさに気付くことができる。

 「港町レンドア」は、半円の「港町レンドア北」と「港町レンドア南」が「港町レンドア駅」を中心に囲むように配置されており、3つのマップに分かれている珍しい町だ。駅舎を大陸間鉄道の高架で南北に分けられた街区のメインストリートがぐるりと囲むように計画された町だということがわかる。マップが分断されていることから、それぞれに宿屋や教会など重複する施設が位置し、序盤の中でもかなり大きな町であることがわかる。「『ドラゴンクエストX』好きの建築家が、開発者に「アストルティア」の都市と建築について本気で考察をぶつけてみた」で開発者のお二人に解説してもらった「王都カミハルムイ」のように、公式イベントの多い町ではマップを分けることによりサーバーの負担を減らす工夫なのかもしれない。

 まずは「港町レンドア北」から街並みを見ていこう。駅の扉から外に出ると教会が目の前にそびえ立つ。バージョン1の世界で訪れる教会の中ではもっとも大きい教会のひとつで、シンボリックな建築である。外観とマップでも確認できる通り、現実世界に存在する教会や聖堂と同じく、中央の「身廊(しんろう)」と左右に突き出る「翼廊(よくろう)」が交差して十字架の形の建築形式だ。

 内部に入ると高い天井とステンドグラスで、荘厳な空間となっている。これだけの教会なのに、なぜか中央正面に立っているのはシスター……神父はどこに行ったのだろう。チャーチ・ベンチが少ないのも少し気になるが、教会の規模に対して信者が少ないのだろうか。

 次は北西に位置する「モコモコハウス」に行ってみよう。レンドアはバージョン1から存在している町なので建物の作り込みは比較的シンプルなのだが、「モコモコハウス」が誕生したのはバージョン5から。装飾や素材の表現が細かく、周りと比べると明らかに豪華な作りになっている。正面から見て屋根の左には風車が周り、動きのある表情を演出している。

 エントランスの扉も大きくて背の高い豪華な作りになっているが、下には小さな扉が設置されている。現実世界でも猫や犬用に小さな扉が設けられることがあるが、冒険者のお世話にしてくれる「ロンデ」と「ロスター」専用の扉なのかな。筆者プクリポにとっても、中を覗くのにちょうど良いのだけど……。

 内部に入ってみると、屋根も天井も貼られていない鉄骨フレームで組まれた大断面の開放的な空間が印象に残る。天井の高さを生かして、雲や照明が吊り下げられ、様々な高木も植えられている。四季が表現されたようなオブジェや壁画、まるで工場をリノベーションしたような空間は、現実にも存在するパリのオルセー美術館のように駅舎や工場を再利用した美術館や博物館、植物園、テーマパークのようで冒険者をワクワクさせてくれる。ここはもともと「モコモコパーク」という青空公園で、初級者から上級者まで楽しめるメインコンテンツのひとつである「魔法の迷宮」「コインボス」が便利に利用できる、長くお世話になる場所だった。バージョン5の時代にパークが建物に改修された新築のはずなのだが、建物の作り自体は港町レンドアに昔から存在しているかのように装っている。

 次は「港町レンドア駅」の中に入ってみよう。ドーム状の平面に天井の高さは20mくらいあるだろうか。他の大陸の駅舎に比べてもかなり豪華な作りである。天窓はないものの、日本を代表する建築家 安藤忠雄が改修の設計を手掛けた「ブルス・ドゥ・コメルス」を思い起こす。駅に入って正面から見て3層構造になっていることがわかる。

 1層、2層はかなり広いコンコース。こんなに広いコンコースが設けられている駅は他に見ない。「港町レンドア駅」は、五大陸に移動するためのハブのような役割を担っているのだろうか。賑わいがないと閑散として少し寂しいが、コンコースは行き先の違うたくさん乗客をさばくために設けられるものなので、普段はたくさんの人が行き交うのかもしれない。個人的には比較的低い天井のある落ち着いた空間の2層のベンチがお気に入り。

 駅のホームはどこか19世紀後半から20世紀前半のヨーロッパの駅を思い起こす。高い天井はフラットではなく、ドーム状に設計していれば力を分散できるので、柱は必要なく、無柱空間で実現できたのでは無いかと思うが、街灯や家屋を模した装飾が町並みをイメージさせる。

 「港町レンドア南」に向かってみよう。駅から出ると正面に見える巨大な船はバージョン1の五大陸からバージョン2のレンダーシア大陸を繋ぐ、グランドタイタス号。建物と比べると、その巨大さがよくわかる。「港町レンドア」は、まさにこのグランドタイタス号停泊のために整備された港町と言っても過言ではないだろう。大きく整備された港は公式イベントでも盛り上がる場所だ。空に見えるのはバージョン6の舞台となる「天星郷フォーリオン」。

 船舶管理局を横から眺めてみると、左右で勾配の異なる切妻の作りとなっている。内部に入るとよくわかるのだが、組積造と木造のハイブリッドなのだろうか、もしくは組積造を模した木造なのかもしれない。内部からも外部からも確認できる特徴としては、壁と屋根の間には木造トラスの梁がある。柱の無いより大きな木造空間を作りたい時に採用する構造だが、特に内部空間で空中に設置されている様子はないので、外周部の壁を補強するために採用されているのかもしれない。ちなみに現実世界ではあまり聞いたことのない採用方法だ。仮にそうであったとしても、構造の理と外観の意匠的な美が統合されている点で好きだ。

 港から振り返ると駅舎の巨大さがよくわかる。作中では言及されていなかったと思うが、おそらく灯台としての機能が備わっているのだろう。よく考えると灯台兼駅舎、さらに宿屋や道具鍛冶ギルドまで備わる複合用途施設なんてロマンがある。写真1枚では収まらないので2枚でご紹介。展望台はないのかな?いつかは灯台の上に登り、五大陸を眺めてみたい。

 おまけ 「港町レンドア南」の教会の神父は、なぜか「港町レンドア北」の小さな教会の方にいらっしゃいました。シスターとの交代シフト制なのかもしれません。

 ドラクエ・シリーズではお馴染みの移動魔法「ルーラ」に変わる「ルーラストーン」が使えるようになってからは、「港町レンドア駅」を利用することはほとんどなくなってしまう。しかし、「港町レンドア北」には後述する「モコモコハウス」が位置しているし、「港町レンドア南」は頻繁にイベントが開催されているので、バージョン1から長く利用する町で馴染みが深く、今回紹介することができて良かった。

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