「Warriors」から「Know My Name」まで――12年の時を越え、初めて“チャンピオン”が歌う『Worlds』アンセムの歴史

『リーグ・オブ・レジェンド』(League of Legends 以下、LoL)のプロシーンは、世界最大規模のeスポーツだ。その頂点に立つのが「League of Legends World Championship」、通称『Worlds』。日本のチームも所属するアジア太平洋リーグ・LCPをはじめ、韓国のLCK、中国のLPLなど世界各地のプロリーグで1年を戦い抜いたチームが、唯一のトロフィー“サモナーズカップ”を懸けて激突する。昨年、中国・成都での決勝ではT1がKTとのフルセットを制し、前人未到の3連覇を達成。最終第5ゲームの最高同時視聴者数は、中国のプラットフォームを除いても約670万人に達した。
この巨大な舞台には、毎年ひとつの歌が寄り添ってきた。大会公式テーマソング、通称“Worlds Anthem”だ。開幕映像に、選手のハイライトに、決勝直前のオープニングセレモニーに。決定的な瞬間ごとに流れるこの曲は、その年の『Worlds』の“顔”と言っていい。Imagine Dragons、Zedd、Lil Nas X、NewJeans、Linkin Park――歴代の顔ぶれを見れば、誰が今年のアンセムを歌うのかが対戦カードと並ぶ話題になるのも頷ける。
アメリカで開催される2026年大会のアンセムは、True Damageの「Know My Name」。True Damageは、ゲームのキャラクター=チャンピオンたちが結成したバーチャルヒップホップクルーだ。K/DAやTrue Damage、HEARTSTEELといった『LoL』のバーチャルグループはこれまでも決勝オープニングセレモニーを彩ってきたが、大会のメインテーマであるアンセムを担うのはアンセム13年目(13曲目)にして初めてのことだ。
その年の『Worlds』を刻む歌
アンセムは大会開幕の直前に音源とMVで公開され、約1カ月の大会期間を通して流れ、決勝オープニングセレモニーのライブで頂点を迎える。開幕を告げる出陣の歌であり、大団円を飾る音楽でもある。だからファンは、『Worlds』を“「Legends Never Die」の年”“「GODS」の年”と歌で記憶する。『LoL』の開発元Riot Games(以下、Riot)で音楽部門を統括するマリア・イーガン(Maria Egan)が、アンセムを「『LoL』プレイヤーが毎年最も心待ちにする音楽の瞬間」、そして各大会を刻む「記憶の器(a memory, a container)」と呼ぶのもそのためだ。
その歌は、しばしばゲームの枠を越える。Riotによれば、歴代アンセムの累計ストリーミング数は100億回を突破。2017年のアンセムを歌ったAgainst The Currentのクリッシー・コスタンザは「『Legends Never Die』は知っていても、『LoL』は知らない友人がいる」と語る。ファンにとっては一年の記憶であり、ゲームの外の人々にとっては『LoL』への入口。アンセムは、もはや単なるテーマソングではない。
ワールドカップの競技場に響いた“戦場の雄叫び”
始まりは2014年のソウル。決勝の舞台は、2002年日韓ワールドカップの開幕戦が行われたソウルワールドカップ競技場だった。約4万人の観客の前に立ったのは、同年初めに「Radioactive」でグラミー賞を獲得し、人気の絶頂にあったImagine Dragons。披露された「Warriors」は、彼らが“一番好きなゲーム”と語る『LoL』のために書き下ろした新曲だった。Riotが掲げた目標は、誰もがともに叫べる“戦場の雄叫び(war cry)”。韓国の伝統太鼓で幕を開けたこの日のライブは、今なお歴代屈指のオープニングとして語り継がれている。
eスポーツへの偏見がまだ根強かった時代。ワールドカップの競技場、世界的ロックバンド、そしてアンセムという組み合わせは、eスポーツも他のグローバルスポーツと肩を並べうるという宣言だった。Riot Games Musicを率いたトーア・ダン(Toa Dunn)は、この曲が「音楽によってeスポーツを巨大なスケールの現実にした」と振り返る。実際に同曲は翌年のFIFA女子ワールドカップ公式アンセムにも起用され、アメリカだけでダブル・プラチナを記録し、ゲームの外へと響き渡った。
Riot、自ら“アンセムの文法”を綴る
「Warriors」がスターの力で扉を開いたとすれば、その後はRiotが自らの声を探す過程だった。ニッキー・タイラーが歌った2015年の「Worlds Collide」を書いたのは、Riotの社内作曲家のクリスチャン・リンケとセバスチャン・ナジャンド。リンケはのちに『LoL』の世界を舞台にしたNetflixアニメ『Arcane』を生み出し、ナジャンドは以後10年以上にわたり数々のアンセムを手がけていく。翌年、EDMブームの渦中にいたZeddを起用した「Ignite」でも、オーケストラアレンジはナジャンドが担った。
その試みが結実したのが、2017年の「Legends Never Die」だ。ナジャンドとアレックス・シーバー(Mako)を中心とするRiotの音楽チームが曲を書き、頭角を現しつつあったロックバンドのAgainst The Currentが歌った。静かに始まり爆発するサビ、オーケストラとエレクトロニック、ロックドラムが幾重にも重なる荘厳なサウンド、スタジアム全体で歌えるフック。いま私たちが思い浮かべるアンセムの文法は、この曲で確立された。2008年北京オリンピックのメインスタジアムで行われた同年の決勝オープニングでは、この曲のパフォーマンス中にゲーム内のモンスター“エルダードラゴン”がARで舞い降り、Riotはこの演出でeスポーツ初のスポーツ・エミー賞を受賞している。
以降、エレクトロニックロックの「RISE」(2018年)、メタルコアとポップを融合し、Henryの中国語パートを加えた「Take Over」(2020年)、PVRISによるダークなオルタナティブロック「Burn It All Down」(2021年)と、ジャンルは変われどプロセスは同じだった。Riotの音楽チームが曲を書き、その年のサウンドにふさわしい声を招く。アンセムの基本形が定まったのだ。
選手のドラマ、チャンピオンのステージ
形が整うと、アンセムは物語をまといはじめる。「Legends Never Die」までMVの主役はゲーム内のチャンピオンだったが、2018年の「RISE」は実在のプロ選手を主人公に据えた。前年王者Samsung GalaxyのAmbitionが、長い無冠の時を経てポジション転向の末に頂点へたどり着いた道のりを、当時のスターと対峙する姿で描いたのだ。翌年の「Phoenix」は実際の選手の姿をアニメーションに重ね、Faker、Rookie、Capsがプレッシャーや誹謗中傷と向き合う内面にまで迫った。アンセムは盛り上げのための歌を超え、選手たちの軌跡を描く叙事詩となった。この流れは、2022年王者Deftの半生を描いた「GODS」、Fakerを“王座を守る王”として描いた「Heavy Is The Crown」へと続いていく。
選手がアンセムの主役となったその年、決勝のステージにはチャンピオンたちが主役として躍り出た。2018年、仁川での決勝オープニングで、(G)I-DLE(現・i-dle)のMIYEONとSOYEON、Madison Beer、Jaira Burnsがそれぞれアーリ、アカリ、イブリン、カイサに扮したバーチャルガールズグループ・K/DAが、「POP/STARS」を初披露したのだ。チャンピオンが実在の歌手と並んで踊るAR演出を用いたステージは、まさに衝撃だった。翌年のパリではヒップホップクルー・True Damageがホログラム演出で「GIANTS」を披露し、2020年の上海ではK/DAがバーチャルシンガーのSeraphineとともに「MORE」で帰還。2023年のソウルでは、EXOのBAEKHYUNが参加したボーイズグループ・HEARTSTEELが登場した。アンセムがMVで選手のドラマを描く一方、バーチャルグループは選手たちが戦うその舞台に、チャンピオンたちを呼び出してきた。ただ、バーチャルグループがアンセムそのものを歌うことは、まだなかった。
2022年、アンセムはポップシーンの中心へ
転機は2021年に訪れる。Riotはレーベル・Riot Games Musicを立ち上げ、『Arcane』の主題歌として7年ぶりに『LoL』と再タッグを組んだImagine Dragonsの「Enemy」(with JID)がBillboard Hot 100でトップ10入り。Riotが送り出す音楽が、ゲームの外のチャートでも通用することが証明された。その成功を受け、翌年5月には独立系音楽出版社・PULSE Music Groupのプレジデントとして全米1位曲10曲を積み上げたマリア・イーガンを音楽部門のトップに迎える。アンセムがその重みを保ちながら、さらにスケールを広げはじめたのは、ここからだ。
号砲となったのは、同年のLil Nas X「STAR WALKIN'」。ロックとEDMが中心だったアンセムに初めて本格的なポップラップを持ち込んだこの曲は、Columbia Recordsから正式にリリースされ、Billboard Hot 100で最高32位を記録した。Lil Nas Xは“『LoL』の大統領”という架空の肩書きでゲーム内外のプロモーションを牽引し、サンフランシスコでの決勝ではチャンピオン・クサンテのスキンをまとってステージに立った。開催地アメリカを代表するスターが、アンセムの顔となったのだ。
以降、Riotは毎年、開催地の観客と共鳴する声を探し続ける。韓国開催の2023年はNewJeansが、ナジャンドとSeaverによる「GODS」に透明感あるボーカルを重ね、ゲームファンとK-POPファンが大きく交差する瞬間を生んだ。ヨーロッパ開催の2024年は新ボーカルのエミリー・アームストロングを迎えて復活したLinkin Parkがラップロック「Heavy Is The Crown」を、中国開催の2025年は中華圏のスーパースターG.E.M.がバラード「Sacrifice」を歌った。オープニングセレモニーもポップコンサート級のショーへと成長し、その最高同時視聴者数は2022年以降、年約20%のペースで伸びてきた。ジャンルは毎年異なっても、開催地の観客と響き合い、世界に向けて歌うという原則は揺らいでいない。
すべての流れが出会う場所、「Know My Name」
Riotが築いてきたアンセムの文法、MVが描いてきた選手のドラマ、開催地とともに広がってきたポップシーンとの接点、そしてチャンピオンをステージに呼び出してきたバーチャルグループ。12年のあいだに積み重なったそのすべてが、13作目のアンセム「Know My Name」で交差した。
True Damageのメンバーは、ラッパーのアカリとエコー、ボーカルとラップをこなすキヤナ、ボーカルのセナ、DJ兼プロデューサーのヤスオ。2019年、パリの決勝オープニングでホログラム演出とともに「GIANTS」を披露してデビューした彼らが、7年ぶりに帰ってきた。そしてこの曲が讃えるのは、『LoL』eスポーツ史上最も伝説的な選手、Fakerだ。MVはT1による史上初の3連覇への道のりを追い、勝利と挫折が交錯してきた彼の歩みを振り返る。ゲームの中の“チャンピオン”が、現実の“チャンピオン”を歌うのだ。
プロデューサーは「Worlds Collide」以来アンセムを手がけてきたナジャンドだ。ボーカル陣で2019年から続投したのは、アカリ役のSOYEON(i-dle)ただひとり。K/DAからTrue Damage、そしてアンセムまで、『LoL』のバーチャルグループの歴史とともに歩んできた声だ。セナは2024年グラミー賞受賞のR&BシンガーCoco Jones、キヤナはメキシコ出身のラテンポップシンガーSofía Reyes、エコーはシカゴ出身のラッパーVic Mensaが新たに務める。ラップを含むアンセムはこれまでもあったが、複数のラッパーとボーカリストが英語、韓国語、スペイン語でパートをつなぐヒップホップクルー形式は初めて。メンバーごとに言語とトーンを切り替える構成には、どこかK-POP的な快感もある。
楽曲は、パワフルなボーカルとリズミカルなラップ、楽器編成の劇的な変化による緩急で聴かせる。オーケストレーションが重厚さを支える一方、細かく刻まれたビートが曲を重さだけに沈ませない。幕を開けるのは、Coco Jonesの圧倒的なボーカル。壮大なオーケストラとクワイアを背負った歌声は、この曲が歴代アンセムの系譜にあることを一瞬で告げる。だが直後、一転して静まったトラックにSOYEONとVic Mensaのラップが飛び込み、曲はまったく異なるスピード感を帯びる。フックがもう一度炸裂し、ビートがミニマルに沈むと、その空白にアカリさながらの鋭さでSOYEONのラップが切り込む。そこからVic Mensaのヴァース、Coco JonesとSofía Reyesのボーカルへと、曲は着実に高揚していく。Sofía Reyesのスペイン語ボーカルで最小限の音だけを残して息を潜めたかと思えば、すべての楽器が最大限に噴き出す終盤で、Coco JonesとSofía Reyesの歌声が交互に爆発する。この劇的な緩急が、決戦を前にした張り詰めた覚悟とアドレナリンを同時に高めていく。
歌詞もゲームファンを楽しませる。天才発明家エコーのパートには、時間を巻き戻すアルティメットスキルを思わせる〈hit the Z-drive, time travel on 'em when I rewind〉。暗殺者アカリは〈온몸이 찢겨도 또다시 Revive(全身が引き裂かれても、何度でもRevive)〉と鋭さを見せ、王座を狙うキヤナは〈Así es como los líderes nacen(こうしてリーダーは生まれる)〉と歌い上げる。さらに歌詞は、アンセムの歴史もなぞる。〈rise from the ashes〉には「RISE」と「Phoenix」が、〈I got the throne〉には「Heavy Is The Crown」が、〈legends collide〉には「Legends Never Die」と「Worlds Collide」が重なって聴こえる。そしてこれらの言葉は、そのままFakerの物語になる。2016年に3度目の優勝を果たしてから、2017年決勝での敗戦の涙、2022年の準優勝を経た7年。彼の時代は終わったとささやかれるなか、彼は帰還し、3連覇と通算6度目の優勝を成し遂げた。〈Tried to count us out but we back in〉の一行には、その7年が凝縮されている。「Heavy Is The Crown」が王冠の重みに耐える王を描いたとすれば、「Know My Name」はその王冠を守り抜いた王に捧げる歌だ。
ニューヨーク、チャンピオンが名を刻む夜
3つの言語で歌われるこの曲が響くのは、アメリカだ。2026年のアメリカは、巨大な祭典が相次いだ舞台でもあった。2月のスーパーボウル・ハーフタイムショーではバッド・バニーがほぼ全編スペイン語のステージを繰り広げ、7月にはワールドカップ史上初の決勝ハーフタイムショーにマドンナ、BTS、シャキーラ、ジャスティン・ビーバーが並び立った。10月15日にロサンゼルスで開幕する『Worlds』は、その流れを受け継ぐもうひとつの世界的祭典であり、「Know My Name」はそのための歌だ。
11月14日、ニューヨーク・ブルックリンのバークレイズ・センター。True Damageは決勝オープニングセレモニーで「Know My Name」を披露する。7年前にパリをホログラムで揺るがした彼らは、どんなテクノロジーと演出で帰ってくるのか。そして歌が終われば、新たなチャンピオンを決める決勝が始まる。
Riotが育ててきたゲームIPと音楽がひとつになったいま、アンセムがどこまで進化するのか、期待せずにはいられない。“Now you know my name”――世界はもう、その名を知っているはずだ。

























