デザイナー・安村俊介が語る、「ツール」を起点に始まるクリエイティブ しぐれういライブ演出の裏側と「ネオクロ」の衝撃

しぐれういライブ、映像演出の裏側

ツールドリブンで動き出すクリエイティブ

——先日、安村さんが手がけたしぐれういさんのライブ映像が話題になっていましたね。様々な映像を手がける中で、ジェネラリストであることと、制作に向き合う時のメソッドがあることは矛盾しないと思うんです。「このジャンルだったらこう設計する」というものはありますか。

安村:おっしゃっていただいた通り、“クセ”は出てしまっているかもしれませんが、アウトプットには作風は設けないように頑張っていて。むしろ制作手法のほうに作風を持っていくようにしているんです。

 これはたぶん研究者としての考え方が出ている部分なんですけど、デザインより先にツールを考える、というのを意識していて、どんなに些細な機能でもいいので、初めて触るツールを絶対どこかで導入するようにしています。

 それも、すでに存在していて触ったことがないソフトウェアを使うという意味ではなくて、例えばAfter Effectsであれば拡張プラグインを自分で作ったり、スクリプトを作ったり。『Adobe Illustrator』の拡張機能を作ったり、Processingという言語でソフトを書いたり、Webツールを作ったり……とにかく“まったく新しいもの”を使うようにしていて。そうしたツールたちと対話しながら出てくるアイデアでデザインを考えるようにしています。

——しぐれういさんのライブ映像でも、アドビが開発した新作フォントの「ネオクロ」を先行利用していたそうですね。

安村:その話にも関わってくるんですけど、お仕事をいただく際って、クライアントさんも「こういうものを作りたい」というのを、ある程度イメージを持った状態で声をかけてきてくださるんですね。でも、そのまま直訳して作っていくだけだと、「どこかで見た」デザインになってしまうことが多くて。

 しぐれういさんのバースデーライブの演出、特に「粛聖!! ロリ神レクイエム☆」みたいな、有名なMVがあって、それのライブ用映像を作るうえでは、何か新しいことを加えないといけない。だから、制作を始めるときには、むしろ完成形が分かっていないほうがいいなと思っています。もちろん、全く未知の状態でやると仕事にならないので、ツールを手がかりにして「こういうツールがあったら、こういう表現がしやすいんじゃないか」というアタリをつけながら作っています。

——「ネオクロ」を使われたのも、新しいツールや要素を一つ加えることの一環だったのでしょうか。

安村:そうですね。演出ディレクションをしていただいた株式会社RICOLさんからのメインオーダーは「粛聖!! ロリ神レクイエム☆」のMVの雰囲気を引き継ぐことだったんですけど、今回の映像演出では、それにくわえて「体験を通じてファンが一体になれること」を強く意識していました。みんなが知っているしぐれういさんの代表曲のひとつですし、MVが頭に焼き付いている人も多い。そのうえで「ライブならではの体験」の価値を高めるのであれば、コール&レスポンスを全力でできることが大事だと考えて、制作を進めていきました。

 全体の色や動き方、モチーフはMVをリファレンスにしているんですが、コール&レスポンスをするパートでは文字の出し方・動かし方が大事になってくるんです。なので、ご相談をいただいたときに真っ先に考えたのが「どうやって文字を出していこうか」ということでした。結論としては、リリックを“やかましく”するべきだと思ったんです。しぐれういさんの優しい印象と、それでいてインパクトが強いところ。そして、あの曲のダンスはすごく動きが激しいので、文字がめちゃくちゃ動くこと。これが「やかましさ」の条件だなと。

 これにマッチするツールを4月の頭くらいに考えていて、ちょうど4月10日の「フォントの日」に発表された「ネオクロ」を見て衝撃を受けて。まさに求めていた「優しい印象なのにインパクトが強い」フォントでした。柔らかく丸みのある書体だけど、アドビのフォントで一番太い。しかも、「ネオクロ」はバリアブルフォント(※)なので、『After Effects』との相性が良く、動かしやすいんです。

(※バリアブルフォント:文字の太さや横幅など形状を可変可能なフォントデータのこと)

 ちょうど知り合いのモーションデザイナーさんと作業通話をしていた直後だったので、彼に「ネオクロ見た?」「ヤバくない? これ良くない?」みたいにメッセージを送ったら、フォントを作ったアドビの吉田大成さんと知り合いだよ、と。すぐに「相談できないですか」と繋いでもらって、「ネオクロ」を使わせてほしいとお願いしたんです。

——それで使わせてもらえたと。

安村:はい。運も良くて、アドビがユーザーにフォントを先行で使わせてくれること自体はあるのですが、イベントで大々的に成果物を公開するケースは珍しかったみたいです。

洗練されていながら視覚的に「やかましい」映像の作り方

——具体的に、今回の制作において強みになった部分を教えてもらえますか?

安村:「粛聖!! ロリ神レクイエム☆」で使わせていただいたときの感想なんですけど、やっぱりやかましくしたかったので、インターネットっぽい“半角ひらがな”を取り入れたかったんです。コール&レスポンスはひらがなのコールが結構多いんですよ。で、これが簡単に使えるのはバリアブルフォントならではですね。

 もう一つ、これはバリアブル全般ですが、バリアブルフォントは“ぬるぬる動かせる”ということ。あともう一つ、これはデザインフォント全般に言えることですが、ユニバーサルな可読性を目指しているフォントではないので、逆にエンタメで使ったときにはグラフィックっぽいリズムが作りやすいのも良いところです。

——文字が太いので、陰影をつけたり柄を入れたりしても負けないというか、沈まないところは「ネオクロ」ならではの強みに見えます。

安村:おっしゃる通りだと思います。細いと、文字の形自体に加工をかけるのは結構難しくて、かすれさせるくらいしかできない。「ネオクロ」は強いボールドなので文字のなかに「面」があるんですよね。そのおかげで、あまり見たことのないルック、見たことのない仕上がりにしやすい、というのがあります。特に、ライブというものは情報量がすごいので、その中でも目立てるというのは強みですね。

——いろんな加工ができる分、幅広いシーンに対応できるし、「同じフォントしか使っていないな」という感じを出さないようにしつつ、まとまりを感じられますね。

安村:特にネオクロは正方形ベースで、ひらがなは50%まで縮められる。かつ文字が太いので、正方形にしたときの充填率がめちゃくちゃ高いんですよ。特に漢字はみちみちで、ほぼ正方形なので、引いて見たときにグラフィック的に組み合わせられる。大きく使うと画面をジャックできるし、小さくすると図形に見えるので、ミニマルなデザインにも使える。ここを行ったり来たりできるのがかなり強みだなと思っていますね。

——ひらがなをぎゅっと詰めると、一行の情報量が増えて早口っぽい印象を受けますね。

安村:まさにそういう印象ですね。「やかましさ」を紐解いていくときにも、大声っぽい、早口っぽいという印象がありました。

——フォントの利用自体とは別に、何か異なるツールを活用されたりもしていますか?

安村:バリアブルフォント全般にいえることですが、『After Effects』の外部プラグインと組み合わせると、一画一画のパスをバラして使うこともできるので、それぞれに動きを付けられて、幅広い表現が可能になります。今回の映像演出でも、一画一画を縁取ってキラキラするようなルックを入れていますね。

 それと、「新しいツール」のひとつとして「ネオクロ」を使いつつ、「ネオクロ」用のツールも作っていました。スクリプトと自作のプラグインを組み合わせて、ワンクリックでバラして、ルックをつけて、自動でモーションをつけることができる、「ネオクロ」専用のモーションツールです。

——ロゴデザインだったら全部パスにしてしまって、いくらでもいじれると思うんですけど、映像制作だと、それを一個一個やっていくわけにはいかないですもんね。

安村:そうですね。特に、ライブはMVと違っていろんな曲が連続していくので、1曲の中での統一感やシンプルさはMVよりも重要になります。作字やタイポグラフィで歌詞、リリックを一個一個作ることもできますが、そうすると統一感を出すのが難しい。統一感を維持しながら、幅広いルックにできる点でも、条件に合致しました。

——今回ポストされていたライブ映像を拝見して思ったんですが、元のMVのフォントとは違うはずなのに、「粛聖!! ロリ神レクイエム☆」らしさをすごく感じられました。ライブを見に行った方やファンの方は、よりそう感じたんじゃないかなと思います。公開された後の周囲やファンからの反響、ご自身の手応えについてもぜひ教えてください。

安村:ありがとうございます。先ほどもお話しした通り、今回のお仕事は「同じ物語を見ていると実感してもらう」のが重要なミッションだと思っていて、ライブの映像演出は直接それに関わる担当領域だと思うんです。

 なので、アドビのフォントを先行使用させていただいたということ自体が話題になったことも相まって自分のSNS投稿の映像をいろんな方に見ていただけて。ライブの振り返りというか、ファンの皆さんが余韻を楽しむ一助になれたのかなと。ある意味では、狙い通りの嬉しさがありました。あとは、やっぱりアドビさんの名前が出たので、同業からの反応も多かったですね。

——最後に安村さんの今後についても聞かせてください。すでに制作系のクリエイターとしてガッツリ活動されていて、研究もやられているわけじゃないですか。今後どういう形で何をしていくのか、今現在のお考えを教えてください。

安村:「どういうツールがあったらどういう表現が可能になるのか」ということ自体を提案するデザインワークは、実は自分が研究していることと近いんですよね。どういう物理現象のハックをしたら、どういう可能性が思いつくようになるのか。引用して論文を読んだ人が何を思いつくのか、みたいなことをずっと考えているので。

 今日は結構映像の話が多かったんですけど、それこそ『Xross Stars』の印刷加工みたいな別領域のお仕事でも、専用ツールを作っているんですよ。なので、制作手法自体の探求をメインにしつつ、それを実践するために引き受けられる依頼の領域を広く持っておくこと。それが現在意識していることですね。

——どの道に進んだとしても、制作と研究がセットになっていくんですね。

安村:そうですね。全然違う領域で考えたツールや表現の知見を、また別のお仕事に当てて、新しいことが生まれないかなと模索する。そういう提案を意識した制作をしていきたいなと思っています。そして、これは同業者に対する提案でもあり、仕事の面白がり方だと思うんです。

 たとえば、飲食店のデザインとなると、また考えることがだいぶ変わってくると思うんです。でも、そこでも何かしらのツールを導入することはできるはずで、そういう「ジャンルを変えないと思いつけないこと」をたくさん知見として貯めて、それを元いた領域や、異なる領域に還元するサイクルを作っていけたらいいですね。

■関連リンク

安村俊介 公式X:https://x.com/Syun_blocks
安村俊介 WORKS:https://syunsukeyasumura.works/

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