連載:クリエイティブの方舟(第11回)
水溜りボンド・カンタ×あぃりDX対談 プレイヤー兼プロデューサーの2人が共鳴した“創作スタンス”とは?
水溜りボンド・カンタによる連載「クリエイティブの方舟」。第一線で活躍するクリエイターをゲストに招き、その思考法や制作の裏側に迫る本企画。今回のゲストは、竹下☆ぱらだいすのリーダー&プロデューサーであり、しなこのアーティスト活動のプロデュースやキッズグループ「MADAMADA」を手掛けるあぃりDXを迎えた。
ともに動画クリエイターでありながら、プロデューサーや裏方の仕事もする似たもの同士の2人。ただ、世代が違うことがあり、これまで直接話すことはなかったという。今回はそんな2人を引き合わせ、近しくもありながら少しだけ異なる、お互いのクリエイター論・プロデューサー論を語り合ってもらった。(編集部)
「この無限のパワーを自分がプロデュースしたら……」 あぃりDXが語る「MADAMADA」結成秘話
ーー今回は少し趣向を変えて、お互い初対面での対談となります。とはいえコムドットのやまとさんなど、間接的な知人は多いそうですね。
カンタ:そうなんですよ! やっとお会いできて嬉しいです。
あぃりDX:私もこの連載を読んでいたので、いつかお会いできたらと思っていました! やまとさんもそうですが、伊吹(伊吹とよへ)もカンタさんと仲がいいですよね。彼からもカンタさんのお話は何度も聞いていました。
カンタ:大丈夫? 悪口とか言ってない?
あぃりDX:大丈夫です(笑)。「カンタさんはすごいクリエイターだ」って言ってましたよ。
カンタ:よかった(笑)。
ーーコムドットといえば、先日東京ドームで開催された『CDF(Creator Dream Fes)』にもあぃりさんは竹下⭐︎ぱらだいすとして出演されていましたよね。東京ドームのステージに立ってみて、いかがでしたか?
あぃりDX:ドームはやはり別格でした。緊張から、普段なら絶対に失敗しない「3点倒立」を失敗してしまったんです。悔しくて泣きそうでしたけど、本番中にどうにか気持ちを切り替えて最後までやり切りました。
カンタ:東京ドームはすごいな……。あぃりさんは自身がプレイヤーとしてステージに立ちつつ、裏ではプロデューサーとして様々なプロジェクトを引っ張っているんですよね?
あぃりDX:竹下☆ぱらだいすではリーダー兼プロデューサーを務めていますし、しなこちゃんのプロデュース・楽曲制作も手掛けています。最近だと小学生グループ「MADAMADA」のプロデューサーとして、オーディションから命名、メンバー選定まですべて自分でやりました。
ーー直近では日曜朝8時からテレビ朝日系で『よ〜い!スターと!トビダスクール』という番組も始まりましたよね。
カンタ:日曜朝8時!? すごい! 子どもたちがみんな見るような時間帯じゃないですか! あぃりさん自身は数年前からこういう未来を描いていたんですか?
あぃりDX:活動を始めた当初は全く考えていませんでした(笑)。最初は看護学生の動画クリエイターとして、必死に「看護学生あるある」の動画を作っていたら、たまたま「好きなTikTokランキング」10代部門で1位をいただいて、何かの間違いで『踊る!さんま御殿!!』に出たんです。ただ、緊張で全然喋れなくて……帰り道に泣いてましたから。
カンタ:僕も間違えて出ちゃったことがあるからわかる(笑)。あの番組は本当に緊張しますよね……。あと、キャリアの初期はあるある系の動画だったんですね。
あぃりDX:はい。TikTokの前身といえる『Musical.ly』の時代から投稿していて、日本代表のクリエイターにも選ばれたことがあります。なので、実は結構キャリアが長いんですよ。ちなみに伊吹くんとは、TikTok初期に出逢ってるので、かなり長い付き合いです。
カンタ:でも、あるある系の動画クリエイターで終わらず、プロデューサーとして活躍しているのは本当にすごい。そっちの道が自分に向いていると思ったきっかけは?
あぃりDX:色々あるんですけど、そのうちの一つは女子プロレスラーの世志琥(よしこ)選手のTikTokアカウントをプロデュースしたことですね。実は父親が元全日本女子プロレスのリングアナウンサーで、団体と繋がりがあったんです。私がコロナ禍で興行を打てなくなったのを聞いて「企画と編集をすべて担当するから、こういうことやりませんか?」と提案したのがきっかけでした。
最初は遊び感覚でしたが、強面の世志琥選手が「わらび餅作っていくぞ、この野郎!」と言いながら可愛いお菓子を完成させて「可愛いだろ、笑え!」と睨む動画を作ったら、1カ月で登録者が20万人増え、私自身も「あれ? これはいけるかも!」と手応えを感じて。ちょうど動画クリエイターとしても「この先、何をしていくか」と悩んでいた時期でもあったので「クリエイター・プロデューサーとして自分の手で作品を創りたい」という活動の指針が定まった出来事でした。
カンタ:そこから、現在の「竹下☆ぱらだいす」の結成にはどのように繋がっていったんですか?
あぃりDX:インスタでたまたま凄く派手な青と黄色の男を見つけて。珍しいポケモンを見つけたような衝撃で、初対面で「一緒にグループやらない?」と誘ったのがメンヘラブルー担当のだーごとキラキライエロー担当のしんぢくんで。そこから竹下☆ぱらだいすが始まりました。
カンタ:その直感と行動に移すスピード感が今のメガヒットに繋がっているのが本当に凄い。僕も水溜りボンドから個人チャンネルの運営や映像制作会社の経営、他者のプロデュース業へと移行して、自分の領域をどんどん広げていく感覚があるので、あぃりさんの活動にはもの凄くシンパシーを感じます。
一つ聞きたいんですけど、あぃりさんは竹下☆ぱらだいすの活動にシフトするなかで、かなりファン層が変わったと思うんですよね。そこに対する怖さはなかったんですか?
あぃりDX:看護学生時代は18歳〜20代後半が視聴者層でしたが、竹下☆ぱらだいすを立ち上げた瞬間、ターゲットが一気に5歳まで下がりましたからね(笑)。親御さんやファミリー層など広い世代を巻き込む可能性を感じて挑戦できました。
カンタ:そこまで一気に振り切れるのは、あぃりさんの中に「人の心を掴む本質」に対する絶対的な自信があるからなのかもしれないですね。でも、自分たちじゃなくてキッズグループをプロデュースするというのは意外で。なぜそうしようと思ったんでしょう?
あぃりDX:実は、元々やりたかったことではあったんです。私の中ではあと5年後くらいかなと思っていた企画だったんですが、事務所から思ってもみないタイミングで「グループのプロデュースをやってみないか」と声をかけていただけて。その時は「高校生〜20代のグループ」を提案されたんですけど「子どもたちをプロデュースしたい」と逆提案して、MADAMADAのオーディションが始まりました。
カンタ:高校生や20代のタレントさんのほうが、元々数字も持っていて、王道のバズを狙えそうですよね。なぜあえてキッズグループを選んだんですか?
あぃりDX:竹下⭐︎ぱらだいすで活動するなかで、コンサートに来てくれる子どもたちの表現力や、大人の想像を超える発言やダンスがとにかく面白いなと思うようになって。この無限のパワーを自分がプロデュースしたら、きっとすごい化学反応が起きるという確信がありました。何より嬉しいのが、子どもたちの「憧れ」の対象が自分たちと同世代のMADAMADAになったこと。「MADAMADAに入りたい!」というDMが毎日全国から届いていて、大きな責任とやりがいを感じています。
「クリエイターとしての承認欲求が強い」2人の共通する創作スタンス
ーーあぃりさんはプレイヤーとプロデューサーという非常に特殊な二つの顔を持つ中で、「頭の切り替え」や「スイッチの入れ方」はどうされているのでしょうか。
あぃりDX:基本的には「誰を対象に、何をするか」で入れるスイッチを完全に変えています。竹下☆ぱらだいすとして立つ時は、歌のお姉さん的なスイッチというか。裏のプロデューサーの自分がプレイヤーの自分に指令を出して憑依させている感覚で、一番「都合の良いコマ」を動かしている感じかもしれないですね。
カンタ:いや、それめちゃくちゃ分かります! 僕も全く同じです。表に出る自分を、制作者としての自分が客観的に動かしているというか、ある種の憑依型ですよね。僕、あぃりさんについて書かれたものを読んだ時に、すごくシンパシーを感じていたんです。あぃりさんは、プレイヤーとしての、いわゆる「私を見て!」という純粋な自己顕示欲や承認欲求って、そんなに強く残っていないんじゃないですか?
あぃりDX:そうなんです! 前に出てチヤホヤされたい欲求はあまりなくて。私自身というより「私が作った作品やコンテンツを届けたい」という、クリエイターとしての承認欲求が強い。ものづくりが好きで、届ける手段として自分がステージに立っている感覚です。
カンタ:僕も全く同じスタンスです。プレイヤーとしての目立ちたさではなく、自分の手がけたクリエイティブを認められたいし、届いてほしいからこそ、自らが広告塔や表現者として表に立つ。これって、非常に現代的というか、令和のクリエイターのスタンスだと思うんですよね。今は全部自分たちで考えて、全部やり切るのが面白い。楽曲のプロデュースもしていますが、そこではどの段階から手掛けているんですか?
あぃりDX:私は曲のコンセプトを立てて、それを別の音楽作家さんに作っていただいて、その後に私が歌詞を書いて、MVの映像構成を考えて、実際に撮影・編集したものを使ってショート動画でのマーケティングを設計するところまでですね。「このフレーズがあれば、TikTokでこういう動画が作れる」と逆算して、作詞や演出、振付に落とし込むこともあります。中途半端に丸投げするのは気持ち悪くてできないんです。
カンタ:そこまで徹底して総合芸術として作り上げているからこそ、あの唯一無二の世界観が生まれるわけですね。
ーーそうして作り上げた作品を、プレイヤー兼プロデューサーとして、自分自身もステージの上に立って、お客さんに見せる。その時に見える景色って、やっぱりプロデューサーだけの視点とは違う、特別なものがあるんじゃないですか?
あぃりDX:それは本当に最高の景色です。手掛けた曲で会場全体がドカンと盛り上がっている熱狂の渦を、客席ではなくステージの上から、自身も作品のピースとして特等席で見ることができる。
ーーバズを狙いに行くマーケティング的な視点と、一つの作品としてのクオリティやメッセージ性を両立させることの難しさについて、お二人はどうお考えですか。
あぃりDX:そこは絶妙なバランスが必要です。単に拡散性だけを狙った薄っぺらい曲はダサいですし、すぐ消費されますから。クオリティや届けたいメッセージを芯に置きつつ、それをどうバズに乗せるかという塩梅には凄くこだわっています。
カンタ:いや、本当に勉強になります。僕なんかは、ものづくりが楽しくなっちゃうと、「別に見られなくてもいいや、これが面白いんだから!」って、完全に振り切っちゃうことがあるんですよ。「これだけクオリティが良いのにバズらない世の中がおかしい!」みたいに拗ねちゃって、失敗することもある(笑)。でも、バズだけを狙うと、さっきあぃりさんが言ったように、誰も記憶に残らない一過性のものになってしまう。そのバランスをどうやって見極めているんですか?
あぃりDX:バズるイメージが見えた時は歌詞も振付も1時間で作れますが、そこまでの構築時間が長いので、その間にバランスが自分のなかでも取れているかもしれませんね。作るときは動画クリエイターの脳で音楽に向き合っていて「ショート動画を30本重ね合わせて1つの楽曲を作っている」感じですね。
カンタ:すごい! 音楽的な創作の原点はどこにあるんですか?
あぃりDX:間違いなく小学生の頃からやっているダンスが影響していますね。昔からぶっ飛んだダンス作品を見るのが好きで、最初はステージを作るダンサーを目指していたんです。ただ、ダンサーって1回ステージを作るとそれっきりで終わってしまって、作品が消耗されていく感覚があって……。でも、そこに自分の楽曲・音楽があれば、その曲が何度も使われて、演出を変えながらどんどん広がっていくわけです。
ーー作品としての耐久度がありますもんね。
あぃりDX:そうですね。私は「動画クリエイター」として先にバズを経験したので、その動画クリエイターとしての脳で、音楽という最強のツールに向き合ってみたらどうなるかと考えたんです。それがたまたま、ショート動画のプラットフォーム(TikTok)の登場と重なり、ものすごく良いタイミングで追い風に乗ることができた、という感じです。
カンタ:あぃりさんはもともと「看護学生あるある」で女子同士のギスギスしたネタをやっていたように、実はすごく尖った、シュールなユーモアセンスを持っていますよね。でも、今は日曜朝の番組をやるなど、子どもたちが観るコンテンツがメインです。その「尖り」と「ポップさ」の折り合いは、どうつけているんですか?
あぃりDX:そこは本当に気をつけることが増えましたね。私の中に「尖ったことをやって暴れたい作り手の自分」と「朝の番組には出せないからやめろと抑えるプロデューサーの自分」が共存しているんです。普段は尖った部分を出さないようにしていますが、その抑え込んだ初期衝動を「歌詞」の中に忍ばせて暴れさせています。
カンタ:へぇ〜! 歌詞に忍ばせているんだ!
あぃりDX:竹下☆ぱらだいすの曲はキャッチーですけど、歌詞をよく読むと実は大人向けで、親御さんの心に刺さる言葉を隠し味に入れています。
ーー子どもたちが大きくなって思い返した時に、「実はこんなに深かったんだ」と気づいてもらえる作品にもなっているわけですね。お二人とも非常にハードなスケジュールの中で活動されていると思いますが、プロデューサーとしての直近の悩みや、課題に感じていることはありますか?
あぃりDX:ありがたいことに出演機会が増え、そのぶん制作にあてる時間が短くなっているのが悩みです。活動日以外の休みがすべて歌詞や振付の制作時間になり、バランスが難しいです。
カンタ:それ、めちゃくちゃ分かります! 僕もかつてずっと悩んでいました。ただ、今はキャリアのフェーズを経て「週に1日は絶対に休みを確保する」と決めて実行しています。昨年結婚した際、奥さんにも「ちゃんと休む」と宣言したんです。毎日投稿をやっていた頃は椅子で寝たりして限界突破の日々でしたが、その過酷な経験を経たからこそ、今は「死ぬ気で休む」ことができるようになりました。
ーーその時期を乗り越えたカンタさんから、今のあぃりさんにアドバイスするとしたら?
カンタ:僕は自分のカレンダーを共有して「この日は絶対に休みます」と宣言するようにしました。すると周りも連絡を控えてくれる。連絡が四六時中飛んでくると脳の切り替えに労力を奪わるので、連絡ツールを仕事用とプライベート用に分けたり、「決断する仕事」と「手を動かすクリエイティブな仕事」を分類したりして。月曜日はミーティングを全部固定して、それ以外の日は制作に没頭するようにしたら、自分のなかで劇的に楽になりました。
あぃりDX:すぐにでも取り入れたいです。いつでも返信が返ってくると思われると、パラパラと連絡が来ちゃいますもんね……。
カンタ:出力が落ちて自分が倒れてしまう前に、絶対にそのコントロールは必要です。あぃりさんはそれだけ忙しい日々の中で、体調やメンタルは大丈夫なんですか?
あぃりDX:そこは看護学生の頃の知識が活きていると思います。交感神経と副交感神経の働きを学んだので「今は交感神経が優位になりすぎている」と気づいて自分自身でケアができるんです。『CDF』で東京ドームに立った翌日も、リフレッシュのためによもぎ蒸しに行きました(笑)。
カンタ:そこまで自分を客観視して完璧にプロデュースできているのは、恐るべき自己管理能力ですね。
あぃりDX:あと、メンタルブレイクは絶対に避けたいので、月末にノートに「今月できたことリスト」を書いたりしています。To Doリストだとできなかったことに目がいって落ち込むので、できたことを書いて自分を肯定してあげる。自己肯定感をコントロールするのも大事ですからね。
カンタ:ビジネスパーソン適性が高すぎる(笑)。僕もスタッフ30人弱の会社を経営していますが、インフルエンサーで組織マネジメントをこなせる人は本当に珍しいから、本当にすごいと思います。起業とかも考えていたり……?
あぃりDX:いえ、いまの所属事務所(GROVE)のチームにがっつり入り込んでいて、自分自身でチームを率いているような感じにしてくれているんです。
カンタ:素晴らしいですね。次世代を育てるリーダーとしてのフェーズにも入っている。竹下☆ぱらだいすとしてはどこを目指しているんですか?
あぃりDX:本気で世界を目指しています。世界中でライブをして、世界中の子どもたちに夢を届けるのが目標。大好きな原宿は、世界への入り口になる特別な街だと思っているので、ここを拠点に世界へ飛び出す夢は絶対に諦めないです。あとは他のアーティストの楽曲振付やプロデュースなど、外仕事的なこともやってみたいですね。
カンタ:外仕事、いいですね! 忙しさには気をつけつつ、どんどん仕事の幅を広げることで、いろんな形で世界を舞台に活躍してほしいですし、その広げた幅のなかに僕も入りたいですね。
あぃりDX:ほんとですか! 一緒に何かやりましょう! じゃあ、手始めに一緒にMADAMADAの曲でダンス動画を踊ってもらって……(笑)。
カンタ:さすがのスピード感! いいですよ、撮りましょう!