「脱フッ素」は炊飯器をどう変えたのか コレール×ドウシシャが辿り着いた「美味しさ」の話

 PFAS(有機フッ素化合物)を巡る規制強化や健康・環境リスクへの関心が世界的に高まる中、調理器具市場でも「脱フッ素」の流れが静かに広がり始めている。そんな中、コレールブランズとドウシシャが共同開発したPFASフリーの炊飯器とフライパンは、単なる安全性訴求ではなく、「美味しさ」そのものを再定義したアイテムであった。フッ素を使わないという制約が、結果として熱設計や調理構造の見直しに繋がり、米の立ち方や野菜の甘み、素材の香りを引き出す方向へ進化している。今回の発表会から見えてきたのは、脱フッ素時代のキッチンの未来だった。

「DuraNano」という技術が、共同開発の出発点になった

コレールブランズジャパン カントリーマネージャー  水谷 純氏

 今回の共同開発の起点となったのが、コレールブランズの独自技術「DuraNano(デュラナノ)」だ。発表会に登壇したコレールブランズジャパン カントリーマネージャー・水谷 純氏によると、一般的なフライパンはフッ素樹脂をコーティングすることで焦げ付きにくさを実現しているが、DuraNanoはジルコニウム系粉末をレーザーによってステンレス表面へ溶融合金化する独自技術を採用。さらにハスの葉のような微細な凹凸構造を形成することで、水分や汚れを弾き、フッ素を使わずにこびりつきにくさを実現しているという。

 特徴的なのは、その耐久性だ。金属ヘラや金たわしにも対応し、さらに全世界共通で10年間のこびりつき保証を付与している。コレール側は、日本市場参入にあたり20〜30社へアプローチしたというが、多くのキッチン関連企業は新技術に慎重だったという。その中でドウシシャが将来性を高く評価し、今回の共同開発への流れと繋がった。

フッ素を使わないことで、「熱の入り方」を見直した炊飯器

株式会社ドウシシャ 第2事業本部 本部長 井上 大輔氏

 今回、ドウシシャが本格的に踏み込んだのが炊飯器市場だった。現在の炊飯器市場では、アルミ内釜へフッ素加工を施した構造が主流となっている。しかし今回発表されたIH炊飯器は、完全PFASフリーを掲げる。そのため採用されたのが、ステンレス・アルミ・ステンレスによる三層構造の内釜だった。この構造は、DuraNanoとの出会いがきっかけになったという。

 株式会社ドウシシャ第2事業本部 本部長・井上大輔氏の説明では、熱伝導率が高いアルミは立ち上がりが速い一方、熱ムラが発生しやすい。一方でステンレスは蓄熱性に優れ、熱を穏やかに伝える特性を持つ。その両者を組み合わせることで、熱ムラを抑えながら均一に炊き上げる構造を実現したとしている。

 ここで興味深いのは、「フッ素を使わない」という制約が、結果として“熱の入り方”そのものを見直す方向へ繋がっていることだ。実際、発表会では「お米が均一に炊ける」「熱がやさしく回る」といった説明が繰り返されていた。安全性だけでなく、炊き上がりそのものを変えようとしているのである。

 ドウシシャが目指したのは、「健康のために我慢する」という方向ではなかったことだ。むしろ、「フッ素を使わないことで、結果として美味しくなった」という方向だ。これは非常に料理的にも面白い。強すぎる熱ではなく、どう熱を回すか。素材へどう熱を伝えるか。その視点から構造を見直した結果、三層構造へ辿り着いたのである。

野永喜三夫氏が見せた、「熱で料理する」という感覚

日本料理の名店「日本橋ゆかり」三代目・野永喜三夫氏

 今回の発表会に登壇してその魅力を見せてくれたのが三代続けて宮内庁とも繋がる日本料理の名店「日本橋ゆかり」三代目・野永喜三夫氏による調理実演だ。

 野永氏は新型炊飯器を使って炊き込みご飯を調理しながら解説。その中で印象的だったのは「熱をどう入れるか」を繰り返し説明していた点だ。まず紹介されたのが、冷たい出汁から炊き始めることで、米の芯まで均一に熱が入り、綺麗に炊き上がるという。

 さらに具材は米に混ぜ込まず、上に載せる形にすることで“蓋”の役割を果たし、熱や蒸気の流れを安定させると説明した。ごぼう、人参、椎茸、鶏肉などを約3cm程度に切り揃えるのも、火の通りや口当たりを均一にするためだという。

 また、炊飯器の内釜が丸みを帯びた構造になっていることで、内部で対流が発生し、米が踊るように炊き上がるとも語っていた。つまり野永氏が説明していたのは、単なるレシピではない。“熱をどう循環させるか”という内容だ。

 また、「マルチパン22cmガラスふた付き」を使った肉じゃがでは、無水調理を実演。酒、醤油、砂糖のみを加え、野菜から出る水分だけで蒸し煮にしていく。ここで印象的だったのは、新玉ねぎやじゃがいもから出てくる甘い香り。水を加えないことで、素材から出た旨味や香りが鍋の中へ閉じ込められていく。

 また野永氏は、人参の皮を剥かず、牛蒡も水にさらさないことについても説明。香りや旨味、ポリフェノールを逃さないためだという。つまり今回の調理実演は、「便利に作れる」こと以上に、“素材をどう美味しく食べるか”へ重心が置かれていた。

 野永氏の軽妙なトークの終了後には調理された炊き込みご飯と肉じゃががメディアにも振る舞われた。炊き上がり時に蓋を開けると香しい匂いが会場に広がり、それはお焦げが丁度いい塩梅でできた合図だ。「お焦げがつるっととれるから、是非見てほしい!」と野永さんがしゃもじを回すと、綺麗にお焦げが現れる。また、贅沢にも近江牛を使った肉じゃがは素材から出る旨味がぎっしり凝縮され、炊き込みご飯との相性も抜群。新製品発表会に集まるメディアからも美味しいと笑顔がこぼれた。

そして裏エピソードとして開発者のこんなこだわりが!

 また、新型炊飯器は開発までに約2年の歳月を費やしたそうで、その現場指揮をとった株式会社ドウシシャ 家電事業部家電商品デビジョン・マネージャーの本藤昭次氏によれば、製品化で最も苦労した点として、内釜の目盛りの刻印だったそうだ。DuraNanoでコーティングされた表面にはレーザー刻印でしか定着させられず、それを何度も試行錯誤して製品化にたどり着いたとのこと。

 一見すると見落としがちな細かな点だが、開発者やドウシシャの熱意が伝わるエピソードでもあり、DuraNanoを使った炊飯器を製品化させたいという思いから実装に漕ぎ着けたのがうかがえる。前述したステンレス・アルミ・ステンレスによる三層構造にDuraNanobの表面コーティング、そしてレーザー刻印の目盛りまで揃って初めて実現した新炊飯器でもある。また、本藤氏は実は実家が農家で、自身も米を作るという。そんな立場から、「この新型炊飯器で是非、美味しいお米を皆に食べてもらいたい!」と意気込みを語ってくれた。

「脱フッ素」は安心安全だけではなく料理をより美味しく

 繰り返しになるが、今回のコレール×ドウシシャが興味深かったのは、「安心安全」だけで終わっていなかった点である。フッ素を使わない。その制約が結果として熱設計や素材構成を見直すことに繋がり、「どう熱を入れれば美味しくなるのか」という方向へ開発が進んでいた。

 実際、今回の発表会では、“熱の回り方”や“対流”、“蓄熱”といった言葉が繰り返し登場していた。つまり今回の炊飯器やフライパンは、単なる“ノンPFAS製品”ではない。「安全だから選ぶ」のではなく、「美味しいから選んだ結果、PFASフリーだった」という方向へ向かっていたのである。その実力は是非、使って食べて、体感してもらいたい。

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