cluster CEO・加藤直人が語った「メタバースプラットフォームの生存戦略」 “サ終”しないためのBtoBシフトと開発方針

「大通り」の大量集客から「創作体験」へ

 メタバース市場が冬の時代と呼ばれる中、新規ユーザーの流入は業界共通の課題だ。インタビューで率直にこの問題を投げかけたところ、加藤氏の回答は意外なほど落ち着いたものだった。

「冬の時代というのは、本当にそうだと思います。ハイプサイクルでいう“過度な期待”のピークを超えて“幻滅の谷”が来て、今はそれを現実に実装していこうとしている時期です。役に立つ、便利な技術になるというフェーズまで行けないと難しい」(加藤氏)

 そしてRec Roomの事例を引きながら、ユーザー数だけでは生き残れないことを指摘した。

「Rec Roomも、最大時のマンスリーアクティブユーザーは1,000万を超えていたらしいですが、それでも潰れてしまう。直近も数百万アクティブユーザーはいたはずで、ユーザーがいればいいのかというと、そうでもないんです」(加藤氏)

 かつてバーチャルイベント全盛期には、プロモーション案件を通じて大量のユーザーが流入した。だが東峰氏は、その構造の限界を率直に認めた。

「集まって来る人はclusterが面白いから来てるのではなく、広告やプロモーションのタイアップ先を見に来ています。基本的に集めても抜けていく人たちで、その人たちに狙いを定めてしまうとプロダクトとして軸がぶれていきます」(東峰氏)

 では、clusterはどこに新規ユーザーの入口を設定するのか。東峰氏が示した構想は、バーチャルSNSではなく「創作体験」を入口にするというものだ。

「clusterの面白い部分に興味を持って入ってきて、(その後も)残るという人の割合をちょっとずつでもいいから上げていかないと、継続的な成長にはなりません。入口を、ビジネスともシナジーのある創作体験に置いて、ビジネス側の要求も満たしながら一般ユーザーにも使ってもらえるようにする。それが持続可能な磨き方なんじゃないかと考えています」(東峰氏)

 例えるならば、教育事業で出会った学生がワールド制作にハマり、やがてイベントを開く――そうした有機的な流れを年単位で育てていく。そのために、ゲームジャムなどクリエイター向けの「きっかけ」を増やす企画や、中高生対象の学生向けのワールド投稿コンテスト「ClusterCup」も始動する。

「ゲームジャムというと、どうしても『ゲームを作るんだ』となってしまう。ですが、ゲームにフォーカスしきらない、もっと広い創作の企画があってもいいと思っています。例えば今はAIを使ってソフトウェアを作れるので、clusterスクリプトを使った制作にトライしてみようと思ってもらえる企画を考えたいですね」(加藤氏)

 東峰氏も、「一周回ってハッカソンのようなイベントが最も効果的」であると振り返りつつ、加藤氏同様に「ゲーム」という枠を超えた展開を模索していることを語った。

「作るきっかけさえあれば、クリエイターの皆さんの方がいろんなアイデアを持っています。創作のきっかけになる部分をいっぱい作っていきたいですね」(東峰氏)

 最後に、既存のclusterユーザーやクリエイターに向けたメッセージを聞いた。東峰氏の答えはこうだ。

「『もっと簡単に作品を作れること』と『痒いところに手が届くような、今までできなかった深いところに手が届くツールやシステムの導入』の二軸を強化していきます。そういう意味では、新規ユーザーよりも、既存ユーザーに向けた開発方針の意味合いもあります」(東峰氏)

メタバースの「冬」を越えて

 Rec Roomは累計で約3億ドルの資金を調達し、最盛期には35億ドルの評価額がつけられた。それでも持続可能なビジネスモデルを見つけられなかった。メタバースプラットフォームの運営は、ユーザーの熱狂やUGCだけでは成り立たない。

 clusterが選んだのは、華やかな集客競争ではなく、産業DXや教育現場で地道に使われることで収益基盤を固め、プラットフォームへ還元する「愚直な」モデルだ。

「『バーチャル空間に住む』というSFの世界観はまだ黎明期です。その夢を追うためには、便利に使ってもらう部分でしっかり稼ぎながら、長くバッターボックスに立たないといけません」「いきなり明日clusterがなくなるということはしばらくないです。安心して楽しんでいきましょう」(加藤氏)

 メタバースの冬は、ハイプサイクルの幻滅期を意味する。だがその先には、テクノロジーが社会に実装されていく「啓蒙の坂」がある。クラスターは、その坂を登り切るための足腰を、いま静かに鍛えている。

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