小笠原流・実践レビュー 現代の傑作品を訪ねて(第10回)
テスラ『Model Y』を南房総で実走レビュー ハンドルを握り実感した「世界で売れ続ける理由」と「EV旅行の楽しさ」
「世界で最も売れているクルマ」のひとつとも言われるテスラのSUV『Tesla Model Y』。日本では自動運転がまだ一般的ではないこともあり、「自動運転車(FSD)」というよりは、「EV(電気自動車)」の文脈で語られることが多いモデルだ。
ここ数年で街中でも見かける機会は増えてきたこともあり、「実際の乗り心地はどうなのか」と気になっている人も多いのではないだろうか。筆者自身も、そんな関心を持っていた一人だ。
そこで今回、テスラから試乗車を借りて実際にハンドルを握り、その乗り心地を確かめる機会を得た。せっかくなら短時間の試乗で終わらせるのではなく、丸1日かけてじっくり乗ってみようと考え、ショートトリップに出ることに。
選んだルートは房総半島の内房(東京湾側)をなぞるように走るコース。高速道路と一般道の両方を含み、海沿いの景色も楽しめるルートで、さまざまな走行シーンを体験できる。
ちなみに、米ラスベガスの地下をテスラ車が走る「ベガスループ」は体験している筆者だが、実際にこの手でテスラを運転するのは今回が初めて。また、電気自動車で長距離を走るのも初の経験となる。
航続距離や充電といったEVならではの実用面も含めて、長時間のドライブでどのような印象を受けたのか。房総南端までの道のりを通じて、その実力を確かめていく。
試乗した『Model Y』のスペックについて ディスプレイでのシフト操作は慣れが必要
今回試乗したのは、テスラのミドルサイズSUV『Tesla Model Y』の2026年モデルだ。ボディーサイズは全長約4.8m、全幅約1.9mと、日本の道路環境ではやや大きめの部類に入る。車重は約2トンで、前後にモーターを備える4WD仕様。航続距離はWLTCモードで約682kmとされている。
パワートレインは前後それぞれにモーターを搭載するデュアルモーター構成で、加速力と安定性を両立しているのが特徴だ。数字だけ見るとピンと来にくいかもしれないが、実際にはアクセル操作に対してダイレクトに反応する力強さがあり、高速道路での合流や追い越しといった場面でも余裕を感じられる仕上がりとなっている。
スペックを細かく見ていくとモーター出力やトルクなど注目すべきポイントは多いものの、実際に乗ってみてまず感じたのは、そうした数値以上に操作感の違いだ。
ナビやオーディオ、車両設定、空調といった各種操作がすべてセンターディスプレイに集約されており、画面上からほぼすべての情報にアクセスできる。操作系が分散していないため、運転中でも必要な情報に素早くたどり着けるのが便利だ。
たとえば、渋滞時や初めて走る道でルートを確認しながら、同時にバッテリー残量や航続距離をチェックするといった操作も画面上で完結する。手元や視線の移動が少なく済むため、長距離運転はもちろん、日常のドライブでも安心感につながるポイントだと感じた。
一方で、物理ボタンではなくタッチ操作が中心になり、狙った場所を正確に押す必要がある。そのため、ある程度スピードが出ている状態では、操作にやや気を使う場面もあるというのも伝えておきたいポイントだ。
また、パーキングやリバースといったシフト操作も、物理的なレバーではなく、センターディスプレイ上で行う仕様になっている。普段ガソリン車でシフトレバーを操作している場合、最初はこの違いにかなり戸惑うかもしれない。
慣れてしまえば違和感は薄れていくが、人によってはやや扱いづらさを感じる場面もありそうだ。従来のクルマとは明確に異なるポイントであることは間違いなく、最初に印象に残る部分のひとつといえる。
いざ南房総へ、高速道路でオートパイロットや加速性能をチェック
今回の出発地は千葉県松戸市で、出発したのは朝9時ごろ。都内から房総方面へ向かうルートは定番で、しかもこの日は土日ということもあり、すでに高速道路は混雑していた。合流して間もなく、トンネル内で渋滞に捕まる展開となる。
ストップ&ゴーを繰り返す状況の中で、まず試してみたのが自動運転支援機能だ。『Model Y』に搭載されるオートパイロットは、前走車に合わせた追従や車線維持を自動で行うもの。
実際に使ってみると、一番最初の加速時にググッと前に進む感覚はあるものの、その後の加減速は滑らかで、ブレーキのかかり方にも違和感は少ない。前走車との距離感は常に一定に保たれるため、急な減速や追突の心配はほとんどなく、精神的に安心感がある。
手をハンドルに添えつつ周囲を確認するだけで、渋滞中の運転でも余裕が生まれ、これまでより少しリラックスして景色や車内の快適性を楽しめるようになる。合流や車線変更はドライバーが操作する必要があり、完全自動運転というわけではないものの、ドライバーと車が一緒に走っている感覚が得られる点が、この機能の大きな魅力だ。
渋滞を抜け、本線へと合流する場面では、テスラらしい加速性能の片鱗も見せてくれた。アクセルを踏み込んだ瞬間、後ろからギューンッと押し出されるような力強い加速で一気に速度に乗る。エンジンの回転上昇を待つ必要がなく、踏んだ分だけそのままスッと加速していく感覚だ。
一方で、アクセルを離した際の減速は想像以上に強く、最初は戸惑いもあった。回生ブレーキによって自然と速度が落ちていくため、従来のガソリン車とはペダル操作の感覚が大きく異なる。ただ、これも30分ほど走行を続けるうちに徐々に慣れ、ブレーキペダルに頼らず速度をコントロールできる場面が増えていった。
もうひとつ印象に残ったのが、ステアリングの設定だ。『Model Y』ではハンドルの重さを3段階から選択でき、走行中でもフィーリングを調整できる。軽めの設定では取り回しがしやすく、街中や低速域で扱いやすくなり、重めに設定すると高速走行時の安定感が増し、直進時の安心感につながる。
実際に走行中に切り替えてみると、状況に応じて「もう少し軽くしたい」「少し重めのほうが安心できる」といった感覚に合わせて調整できるのが分かりやすい。
高速道路での巡航時には、オートパイロットの車線維持や追従の自然さもより実感できた。車線中央をしっかりとトレースしつつ、前走車との距離も適切に保つ挙動は安定しており、不自然な操作を感じる場面は少ない。
また、片側1車線の狭い自動車専用道では、スピードが出ると狭さを感じて不安を覚えることがよくあるが、このオートパイロット機能があることで安心して運転することができた。
完全にハンドルから手を離せるわけではないものの、長距離移動における疲労軽減という意味では、その効果は確かに体感できるものだった。
スーパーチャージャーで急速充電体験 約30分でフル充電
高速で一気に南下したあと、いったん木更津で高速を降り、テスラが展開する「スーパーチャージャー」を試すことにした。テスラ車専用の急速充電ネットワークで、高出力の電力を供給し、比較的短時間で充電できる設備だ。
設置されていた駐車場は比較的広く、周囲に停まっている車も少ない。せっかくの機会ということで、ここでオートパーキングも試してみる。
ディスプレイ上で操作を行うと、ハンドルに触れていないにもかかわらず、車両がスルスルと動きながら駐車スペースへ収まっていく。初めての体験ということもあり、その挙動には素直に驚いた。駐車完了時には枠線内にまっすぐ車体が収まっており、完成度の高さも印象に残った。
駐車後にバッテリー残量を確認すると37%。時刻は11時14分ごろで、ここから充電を開始した。いわゆる急速充電ではあるものの、どの程度のスピードなのか気になるところだ。
充電中は特に車内で待機する必要もないため、向かいのコンビニでコーヒーを買い、少し休憩を挟むことに。充電時間を前提に、こうした過ごし方が自然に組み込まれる点も、電気自動車ならではの特徴といえる。
そしてクルマに戻ってみると、想像していた以上に早く充電が進んでいた。11時44分の時点で、バッテリー残量は80%に到達。およそ30分でここまで回復するのであれば、ドライブの合間に立ち寄る感覚でも十分実用的だと感じる。なお、この木更津のチャージャーは125Wで、最新のものは250Wだそう。理論値では更に倍のスピードで充電が可能だ。
そして、理論値でいえば金額面でも魅力。テスラが公表しているデータでは走行1000キロ当たり、ガソリン代(190円換算)で9700円、テスラスーパーチャージャーなら5950円となる。今回の充電量だと約2000円程となる。
なお、80%で充電が止まっているのは、リチウムイオンバッテリーの特性によるものだ。満充電に近づくほど充電速度が緩やかになるうえ、高い充電状態を長時間維持するとバッテリーの劣化を早める要因にもなる。そのため、日常的には80%前後までの充電に留め、必要に応じて満充電に近づけるという使い方が推奨されることが多い。
今回のように短時間で効率よく充電できる環境が近くにあるのであれば、「満タンにしてから出発する」というよりも、移動の途中でこまめに充電を挟むスタイルのほうが現実的な場面も多いだろう。
街乗りで高速道路との違いを実感 車内空間の快適性もチェック
充電を終え、ここからは南房総エリアでの街乗りへと移る。道路は比較的広く、土日でも極端な混雑はなく、流れに乗ってスムーズに走れる状況だった。
車内では「Spotify」で音楽を再生しながらドライブを楽しんだが、ここで印象的だったのがスピーカーの音質だ。実際に聴いてみると想像以上にクリアで、音の広がりも感じられる。思わず音量を上げたくなるような感覚で、そのまま気分よく走り続けてしまう。電気自動車ならではの静粛性の高さも相まって、車内空間はかなり快適に感じられた。
街中では信号による停止と発進を繰り返す場面も多く、ここでは足回りの印象も見えてくる。乗り心地はややしなやか寄りで、路面の細かな凹凸をいなすような動きが感じられた。いわゆる高級セダンのようなフラットさとは少し方向性が異なるものの、過度に硬さを感じることはなく、日常的に使いやすいバランスに収まっている印象だ。
また、アクセルを軽く踏む場面が多く、その範囲では思ったよりも速度の乗りはゆるやか。高速に入るときの鋭い加速を体験しているだけに、「あれ、意外と穏やかだな」と感じる瞬間もあった。ただ、これは踏み込み量に対して素直に反応しているとも言え、強く踏めば高速で感じたような力強さもしっかり引き出せる。
ステアリングは街乗りでは軽めの設定に変更。低速域での取り回しがしやすくなり、交差点の右左折や細かな操作もスムーズに行える。高速走行時とは異なり、こうした場面では軽さがそのまま運転のしやすさに直結していると感じた。
少し遅めの昼食を取るため、クルマを房総半島の南端にある館山市へと走らせる。目的地は相浜港にある漁協直営の「相浜亭」だ。
相浜港は小さめの漁港ということで、目的地に近づくにつれて、道幅は徐々に狭くなっていく。こうしたローカルな道では、『Model Y』の車体サイズがやや気になる場面もあった。対向車とすれ違う際には多少気を遣うものの、視界自体は確保されているため、慎重に操作すれば大きな不安を感じるほどではない。さらにステアリングを軽めに設定していたことで、細かなハンドル操作がしやすく、狭い道でも落ち着いて対処できた。
無事に相浜亭へ到着し、昼食には海鮮丼とうつぼの唐揚げをチョイス。房総半島は三方を海に囲まれており、漁港も多いことから新鮮な魚介を楽しめるエリアとして知られている。観光客向けの食事処でも気軽に海鮮丼が味わえるため、ドライブの立ち寄り先としても定番の選択肢だ。
こうした目的地での楽しみがあると、移動そのものにも意味が生まれてくる。気がつけば、クルマを試すというよりも、すっかり小旅行を楽しんでいる感覚になっていた。
食事を終えたあと、少し時間に余裕があったこともあり、駐車場であらためて車内空間を試してみることにした。『Model Y』はラゲッジスペースが広く、後席を倒すとフラットに近い空間が広がる。実際に寝転がってみると、大人でも十分に体を伸ばせるだけの余裕があり、想像以上にくつろげる。車中泊も快適そうだった。
収納スペースも多く、小物類の置き場に困ることは少ない。特に便利だったのが、ガソリン車ならシフトレバーがある場所に大きめの収納スペースがあること。モーター駆動でトランスミッションの構造がシンプルな電気自動車だからこそ生まれたスペースで、ドライブ中に増えがちな荷物を整理しやすい点は、実用面でもありがたいポイントだ。
さらに印象的だったのがガラスルーフの存在だ。頭上まで視界が広がっているため、車内にいながら空を見上げることができる。この日は天気も良く、青空がそのまま視界に入ってくる感覚が心地よく、移動の合間にふとリラックスできる空間になっていた。
昼食を終えたあとは、海沿いを走る「房総フラワーライン」へ。時期的に菜の花が見頃を迎えており、黄色い花が続く道を横目に走る時間は、まさにドライブらしい心地よさに満ちていた。
こうした余裕のあるシーンでは、クルマの機能を試す楽しさも出てくる。車内ではテスラならではの遊び要素として、カメラ機能を使った撮影も試してみた。左右対称のユニークな写真をその場で撮影できるなど、移動の合間にちょっとした遊びが生まれるのも、このクルマの面白いところ。
また、この日は花粉の飛散がかなり多く、同乗者のくしゃみが止まらなくなる場面も。そこで試してみたのが、テスラ独自の空調機能「対生物兵器モード」だ。車内の空気を強力にろ過する機能とされているが、実際にオンにしてみると、車内のファンから強い風が出て車内の空気を循環。わずか数分ほどで症状が落ち着き、これには同乗者も驚いていた。
もちろんすべての環境で同様の効果が得られるとは限らないものの、花粉が気になる季節においては心強い機能のひとつ。こうした細かな快適性の積み重ねも、長時間のドライブ体験を支える要素だと感じた。
運転支援で一日中運転しても疲れ知らず 慣れれば「運転を楽しむ」こともできるクルマ
房総での一日を終え、松戸市に戻ってきたのは20時ごろ。この日はほとんどの区間を筆者自身が運転していたが、その後帰路に就いた時点でも疲労感はほとんど感じなかったのが印象的だった。
今回、電気自動車でここまでの距離を走るのは初めての体験だったが、正直なところ、これほど快適に移動できるとは想像していなかった。静粛性の高さやスムーズな加減速に加え、必要に応じて使える自動運転支援も相まって、長時間のドライブでも余裕を持って運転を続けられる。
一方で、運転に慣れてくるにつれて感じたのは「任せるだけではない楽しさ」の部分だ。帰る頃には操作にもすっかり順応し、あえて自動運転に頼らず、自分でハンドルを握って走る時間が増えていた。アクセル操作に対して素直に反応する加速感や、状況に応じて変えられるステアリングのフィーリングなど、クルマを操る感覚そのものをしっかり味わえる点も、この一台の魅力といえる。
さらに、今回のドライブを通じて感じたのは、移動距離に対するハードルの低さだ。筆者の実家がある青森まではさすがに一気にとはいかないものの、たとえば仙台あたりで充電を挟めば、『Model Y』でも現実的に走り切れる距離感だと感じた。従来のガソリン車とは異なる「途中で充電しながら進む」というスタイルも、ドライバーの休憩を兼ねることができるため、無理のない選択肢として多くの人に受け入れられそうだ。
今回の房総ドライブは、テスラというクルマの性能を試すだけでなく、電気自動車そのものの印象を大きく変えるきっかけにもなった。移動手段としての合理性と、運転する楽しさ。その両方を高いレベルで両立していることを実感できた一日だった。
ちなみに、テスラはAIによる運転支援システム「フルセルフドライビング(FSD)」について、2026年内に日本国内の一般道で実装する方針を示している。実現した場合、ドライバーが運転席に座って状況を監視し、必要に応じて介入することを条件に、手放しでの自動運転ができるようになる。今回試乗した『Model Y』もソフトウェアアップデートで対応見込みだ。
こうした機能が加われば、『Model Y』でのドライブは今以上に自由度が高まり、運転する楽しさと安心感の両方を味わえる一台になりそうだ。