初めて触れた“惨劇の夜”は、ミステリーの醍醐味に満ちていた――サウンドノベルの金字塔『かまいたちの夜x3』プレイレポート
9月19日『かまいたちの夜x3』が発売される。こちらは2006年にPlayStation2向けに発売されたソフト『かまいたちの夜×3 三日月島事件の真相』の移植版となるタイトルだ。
「かまいたちの夜」シリーズと言えば、1994年にスーパーファミコンで発売されたチュンソフトの『かまいたちの夜』を起点とするサウンドノベルで、多くの続編やフォロワーを生んだ歴史的な一本である。
今回、筆者は三部作を初プレイしてみたが、オリジナルの持つミステリーとしての魅力や、惨劇の館に閉じ込められたかのような臨場感あふれる恐怖演出をじっくりと味わうことができた。その点についてご紹介しよう。
本作は1作目・2作目のメインストーリーと、シリーズ完結編の三本のシナリオが一緒になったタイトルであり、一本でシリーズの中核となった作品群をひと通り堪能することができる。収録策は以下の通りだ。
ペンション“シュプール”編
1994年発売の『かまいたちの夜』のミステリー編に相当するシナリオ。スキー旅行に訪れた大学生・透とそのガールフレンド・真理が、滞在先のペンション「シュプール」で殺人事件に巻き込まれる。電波の通じない山荘で、ひとりひとり殺人鬼によって殺されていくのを、選択肢を正しく選ぶことで回避するのが目的のゲームだ(もしくはわざと間違えて、非情な惨劇を目の当たりにするのも面白い)。
「あなたのせいで、死体が増える」という有名なキャッチコピーの通り、スリラー映画さながらに手に汗握る展開が山ほど用意されている。後発の作品に比べるとミステリー部分はライトだが、流石に伝説を打ち立てただけの名作だと感じた。
監獄島のわらべ唄編
2004年発売の『かまいたちの夜2 監獄島のわらべ唄』のわらべ唄編に相当するシナリオ。ネタバレになるため、詳しくはお伝えできないが、序盤からメタフィクションの構造になっている。
とある人物が前作の関係者たちを一泊二日の旅行に招待する。いわく付きの監獄が建てられた三日月島に集められた透や真理たちは、絶海の孤島で殺人事件に巻き込まれるのだった……。
「かまいたちの夜」シリーズを代表するシナリオであり、筆者としてももっとも読み応えがあったと感じた。王道だが大掛かりなミステリー、おぞましい設定、登場人物の心理描写……どれをとっても一級品で、クリックする手が止まらなかった一本だ。
三日月島事件の真相編
2006年発売の『かまいたちの夜x3 三日月島の真相編』の本編。わらべ唄編のシナリオを補完するつくりで、三日月島で起きた惨劇の一年後が舞台になっている。
心に傷を抱えた登場人物たちを追いかけるシナリオで、シリーズでももっともウェットな話だ。わらべ唄編のストーリーで多少無理があった箇所に対して説明を加える内容にもなっているので、ぜひともあわせて読み込んでみてほしい。
と、以上のラインナップになっている。ただ、一点だけ注意事項があり、本作はあくまで2006年の『かまいたちの夜×3 三日月島事件の真相』の移植であるため、元々の『かまいたちの夜』『かまいたちの夜2』に収録されていたサブシナリオはすべてカットされている。
スパイ編や悪霊編といった話はどれも読めないので、その点は気を付けてほしい。
初めて遊んでみてまず思ったことは、選択肢分岐の秀逸さである。殺人鬼が潜んでいるかもしれないという極限状況のなかで、自分とガールフレンドの安全を確保しつつ、証拠や手がかりを探していくというシナリオは、普遍的ゆえに訴求力がある。
たったひとつ選択肢を誤ってしまったがゆえに、後ろから襲い掛かられて呆気なく死んでしまったりもすることで、恐怖心を煽られ、どう行動するか悩むことになるのがとても面白い。
加えて、しょうもないエンディングが随所に仕掛けられているのもチェックしておくべきポイントだ。大阪で商売をしているおっちゃんの口車に乗せられて、なんとなくそのまま社長を任されることになったり、ほんの冗談で犯人ぶるセリフを吐いたら、激昂した客のひとりに刺し殺されたり、普通のミステリー小説なら雰囲気がぶち壊しになるようなエンディングも、お茶目に差し込むことができるのも本シリーズの魅力だといえるだろう。
もちろん、自分でミステリーを解いていかなければ、殺人事件の真相に辿り着けない点も、当たり前ながらやはり面白いポイントだ。アリバイを洗い、不可能な点を削ぎ落として、コイツしかいないと思って名指しする瞬間のカタルシスたるや、ミステリーゲームを遊ぶ最高の醍醐味のひとつと言えるだろう。
サブシナリオが落ちている点は残念ではあるが「かまいたちの夜」シリーズをざっくりと俯瞰したい場合はちょうどいいコレクションである。ぜひともチェックしてみてほしい。