多彩な“変化”を楽しめるADV『ファミコン探偵倶楽部 うしろに立つ少女』が持つ、インタラクティブな魅力

 『ファミコン探偵倶楽部 うしろに立つ少女』(ファミコン探偵俱楽部PARTII うしろに立つ少女)を1回クリアして終えてしまうのはもったいない!

 突然だが、コマンド選択型アドベンチャーゲーム『ファミコン探偵倶楽部 うしろに立つ少女』(以下、うしろに立つ少女)は、最低でも2回(2周)は遊んでおく意義のある作品である。厳密には、Nintendo Switchとスーパーファミコンのリメイク版である。

 なぜかと言えば、普通にプレイしているとまず見落とす要素やモブキャラクター、イベントが豊富に仕込まれているからだ。

 1989年にファミリーコンピュータ ディスクシステム向けに発売され、いまなお名作、あるいはトラウマゲーとの呼び声が高い『うしろに立つ少女』(※当時の正式名称は『ファミコン探偵倶楽部PARTII うしろに立つ少女』)。

 作中のホラー要素、演出がクローズアップされがちだが、実はプレイヤーごとに異なる道筋が生まれるアドベンチャーゲームでもある。特に1998年、2021年に発売されたリメイク版はその特徴が強化され、一期一会な体験が味わえるようになっている。

ファミコン探偵倶楽部 消えた後継者・うしろに立つ少女 紹介映像

 最新作『ファミコン探偵倶楽部 笑み男』(以下、笑み男)には、「インタラクティブドラマ」というジャンル名が与えられているが、その源流にもあたるのがリメイク版の『うしろに立つ少女』でもある。ただし、その面白さは1回クリアしただけでは分からない。

 もし、すでにクリア済みで2周していないなら、この機会に挑んでみていただきたい。とはいえ、具体的にどんな体験があるのか。それについてはおいおい紹介する。おそらく、人によっては「なんだこれ?」と思うかもしれない。

ホラー寄りの作風と恐怖心を煽る演出が異彩を放つ名作『うしろに立つ少女』

 本題の前に『うしろに立つ少女』のことを紹介しておきたい。

 前述したが、『うしろに立つ少女』は、1989年にファミリーコンピュータディスクシステム向けに発売されたコマンド選択型アドベンチャーゲーム。1988年発売の『ファミコン探偵倶楽部 消えた後継者』(以下、消えた後継者)の続編である。

『ファミコンミニ ディスクシステムセレクション』(ゲームボーイアドバンス)の『ファミコン探偵倶楽部PARTII うしろに立つ少女』より

 当時の正式名称には「PARTII」が冠されているが、ストーリーの時系列は『消えた後継者』の2年前。主人公が探偵助手になるきっかけになった人物・空木俊介、ヒロインの橘あゆみとの出会いを描いている。

 本編では、探偵助手になって数ヶ月後に起きた女子高生の殺人事件の調査と解決に挑む。事件の背後には「うしろの少女」と呼ばれる、被害者が通っていた高校に古くから伝わる噂(怪談)があり、調査を進めていくにつれ、15年前に起きた殺人事件との繋がりが明らかになってくる展開が特徴となっている。

 1998年にはスーパーファミコンでリメイク版が発売。当時、コンビニエンスストア「ローソン」で展開されていたスーパーファミコンのゲームソフト書き換えサービス「NINTENDO POWER(ニンテンドウパワー)」の新作として展開された。

 リメイク版は前編と後編に分かれていたストーリーをひとつにまとめ、章仕立てに再構成。さらに映像と音響全般の強化、一部要素の整理を図った作りになっている。新機能として情報をまとめるメモ、前回のストーリーを振り返るあらすじも追加されている。

 2021年発売のNintendo Switchのリメイク版は、スーパーファミコン版をベースにしている。そのため、変更点としては映像と音響全般の現代化と、ボイス演出の追加が最も大きなものとなっている。細かい部分でも、既読スキップ、バックログなどの現代のアドベンチャーゲーム、ノベルゲームを踏まえた機能やオプションが実装されている。

 『うしろに立つ少女』の最も大きな魅力として語られるのは、ホラーテイストの強くなったストーリーと演出だ。前作『消えた後継者』は、横溝正史作品を思わせる作風だったが、『うしろに立つ少女』は主な舞台を街や学校とし、現代的な作風に改められている。また、『消えた後継者』にもあった会話の話題に応じて効果音が変わる、曲が止まるといった音響周りの演出がパワーアップ。

 その真骨頂とも言えるのが本編ラストからエンディングにかけての展開で、とりわけ深夜、寝静まったときに体験すれば、鬼に金棒な恐怖を味わうことになる。

 ディスクシステム版の発売から35年がたったいまもなお、その迫力は色褪せず、当時のプレイヤーからは語り草になっており、ある意味では『うしろに立つ少女』を名作として決定付けた部分と言っても過言ではないだろう。

 しかし、この魅力はいささかクローズアップされすぎているきらいもある。そもそも、『うしろに立つ少女』の魅力はそれだけではない。ホラーテイストが前面に出つつも、節々でコミカルな掛け合いが起きたり、中盤に予想だにしないイベントが起きるといった、強い印象を残す要素が存在する。

 また、ほんの少し横道に逸れることにより、特殊な会話が発生したり、過程がわずかに変化するという仕掛けもあった。この仕掛けはスーパーファミコンとNintendo Switchのリメイク版にも継承されているのだが、そのパターンがディスクシステム版よりも増量。プレイヤーの行動次第で、より一層「一期一会」な体験が味わえるようになったのである。

結末は決まっているが、プレイヤーの行動次第で過程に細かな変化が生まれる

 もともと、『ファミコン探偵倶楽部』は初代の『消えた後継者』も含め、ストーリーに分岐要素は存在しない。基本的に結末はひとつと決まっている。それゆえ、ゲームとしてはエンディングを迎えてしまえば、それで2度とプレイせずにお終いとなりやすい。

 ところが『うしろに立つ少女』は前述したように、それで終わりと判断するのはまだ早い。特徴である「行動による過程の変化」がリメイク版ではより分かりやすく、そして表現的にも豪華なものに進化しているからである。

 たとえば本編序盤、15年前に起きた殺人事件の情報と詳細を担当刑事から聞くため、警察署へと訪れるシーン。

Nintendo Switch版のこのシーンでは本来、主人公の左手前にお茶が出される。しかし、この写真には……?

 訪問時、主人公(プレイヤー)は婦警(※注:本編表記より引用、作中の時代設定が昭和モチーフであることからこの表記になっている)と会話することになるのだが、このときにちょっとした行動を取ることで、特殊な会話とイベント(?)が発生する仕掛けが凝らされている。

 Nintendo Switch版では、この仕掛けが演出込みでパワーアップ。刑事との会話が始まる前、婦警からお茶を出される一幕が新たに追加されているのだが、このときに前述したイベントを発生させると、お茶が出されないまま話が進むという展開になるのだ(そして、刑事のセリフもそれを踏まえたユニークなものに変化する)。

 正直、このイベントを発生させるためには気の引ける行動を取らなくてはならないのだが、興味があればお試しいただきたい。思わず「えっ!?」となるだろう。

 もうひとつ、本編序盤にヒロインの橘あゆみから話を聞くシーンがある。ここで「聞く」のコマンドに用意された話題を順番に選んでいくと、「アリバイ」のときにあゆみを精神的に傷つけることになってしまう。

コマンドの順序に沿ってアリバイを聞いても回答してくれないが……?

 ところが、選ぶ手順をほんの少し変えてみると、あゆみに配慮しながらアリバイの話を聞き出すことができる。これと同時にその後の会話の内容も変わるのだ。これはリメイク版にて新たに仕込まれた要素となっている。

 このほかに本作では被害者が通っていた高校に通う学生を始め、多数のモブキャラクターが登場しては、主人公に情報を提供してくれる。

 そのなかにも行動の選択によっては、まったく目にすることもなくフェードアウトしてしまうキャラクターがいて、結末に至るまでの過程に違いが生じるのだ。

 目にすることもなく終わるその立ち位置から、ストーリーに与える影響は皆無なのだが、会えたら会えたで、ほんの少し得した気持ちにもなりやすい。とりわけ繁華街で出会える、サングラスをかけた男はその筆頭だろう。

 逆にストーリー上、まず出会うことになるモブキャラクターにも行動次第で変わる要素がある。その後の会話を変化させるキャラクターもいるので、深く関わってみると得するかもしれない。一部、損するキャラクターもいるが。

 こうした1回目では気付きにくい要素が『うしろに立つ少女』には多い。特にリメイク版は顕著で、ディスクシステム版とは違ってモブキャラクターに固有の立ち絵が設定されていることが出会えたときの驚きと、得した気分を引き立てる。

実はこのセリフ、特定の行動を取り続けないと聞けない。

 これ以外にもリメイク版においては、周回プレイを促す独自要素が存在する。それを意識しながらプレイしてみることで、1回目のときには気付かなかったイベントや会話が挟まるといった前回とはひと味違った楽しみ方ができる。すでに結末を知っているからこそ、実はこの時点で結末に至るまでの伏線があったなど、ストーリー全体への理解が深まるメリットもある。

 なのでもし、1回クリアして、それで終えているのであれば、あらためて最初から遊んでみていただきたい。以前とは違った展開があったり、キャラクターが出てくることに気付かされるだろう。

 そして、これこそが新作『笑み男』にて与えられたジャンル名「インタラクティブドラマ」の源流とも言える。まさに、それぞれのプレイヤーの行動次第で出会える人物が変わったり、レアな会話が発生するといった、過程に変化が生まれる構造となっているのである。とりわけリメイク版は顕著で、そのことを踏まえて遊んでみると、単純にストーリーを追っていくときとは異なる楽しみ方ができる。なので、繰り返しになるが、最低でも2回は楽しんでみる価値があるのだ。

ディスクシステム版『消えた後継者』では、ほとんど隠しキャラクターだった。

 ちなみに『消えた後継者』は、この手の要素は少なめとなっている。ディスクシステム版には、行動によって二度と会えずに終わる看護婦(※注:本編表記より引用)のキャラクターが存在したのだが、Nintendo Switchのリメイク版では件のキャラクターの出番が大幅に増えたこともあり、出会えずに終わることはない。

 そのため、一期一会な体験の濃さは『うしろに立つ少女』に軍配が上がる。

新作『笑み男』にも引き継がれ、発展を見せる「インタラクティブドラマ」

 このリメイク版『うしろに立つ少女』での試みは、最新の『笑み男』においても継承され、より分かりやすい変化が現れるパワーアップが凝らされている。

 とりわけ、章の節目ごとに実施される「推理」は、本作から選択肢を選ぶスタイルになっているので、まさにプレイヤーそれぞれの違った見解や会話が繰り広げられる。真面目に推理するもよし、ふざけてみてもよしとしているのは、『うしろに立つ少女』のオリジナル、リメイク版双方における一連の仕組みを知っていれば、感慨深くなるかもしれない。

 ちなみに『笑み男』には、『うしろに立つ少女』をプレイ済みの人ほどニヤリとさせられるネタが盛り込まれている。たとえば、本作から新たに追加された携帯電話で、『うしろに立つ少女』で出てきた電話番号を打ち込んでみると……これ以上は実際にご覧いただきたい。ちなみにこのネタは「事前合同調査」こと無料体験版でも確かめられる。

電話番号は他にもいろいろなパターンがある。

 アドベンチャーゲームというのは、1度終えてしまったらそれで2度と遊ばれなくなることが多い。そのジャンルとしての発展の限界から、「ファミコン探偵倶楽部」も新作展開は長らく止まっていたというが、『うしろに立つ少女』のリメイク版で提案された「一期一会」な体験の強化はある意味、シリーズ独自の魅力を広げる可能性を切り開いたとも言える。

 体験版の時点で明らかになっているが、おそらく新作の『笑み男』でも、一期一会な展開がプレイヤーごとに生まれることになるのだろう。一体、どんなドラマがプレイヤーごとに生まれ、すべてを終えたときの印象を変えるのか。同時にこのインタラクティブドラマな仕掛けは、これから「ファミコン探偵倶楽部」をどう変化させていくのか。シリーズが事実上の再始動を見せたいまこそ、そのような未来が紡がれていくことに期待したい。

 そして、『笑み男』で初めて「ファミコン探偵倶楽部」を体験した方は、ぜひ、興味があればインタラクティブドラマの方向性を示したリメイク版『うしろに立つ少女』も体験いただきたい。ストーリーの時系列がシリーズで最も過去にあたるので、入門編としても最適だ。そこから『消えた後継者』へと進む遊び方を筆者としてはオススメしたい。

 2024年現在は現行の環境で遊べない状況だが、いつか遊べるようになった際には、スーパーファミコンのリメイク版とディスクシステムのオリジナル版も体験してみてほしいところだ。いずれも、それぞれでしか味わえない独自の魅力と怖さがある。

 しかし、作中に未成年者の喫煙シーンがある関係で、CEROレーティングがC(15歳以上対象)になってしまっている作品。もし、復刻が実現するとなれば、提供媒体になるであろう『ファミリーコンピュータ Nintendo Switch Online』と『スーパーファミコン Nintendo Switch Online』のレーティング引き上げは避けられない。

 それが果たして、許容されるのか否か。少し心配なこの頃である。

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