昭和・平成のテレビゲーム黎明期を“体験”できる名作『ゲームセンターCX 有野の挑戦状1+2 REPLAY』の魅力

懐かしさと新しさを両立させた収録ゲームの凄さ

 本作を良作たらしめる理由はシミュレーターとしての一面だけに限らない。2作それぞれに収録された架空のゲームの出来のよさもそのひとつだ。当時の懐かしさを表現しつつ、現代的な遊びやすさと独自性も押さえるという、緻密なバランスで設計されている。

 とりわけ秀逸な完成度を誇るタイトルが『有野の挑戦状2』に収録された、携帯ゲーム機向け落ちモノパズルゲーム、その名も『トリオトス』。『コラムス』、『ぷよぷよ』といった名作落ちモノパズルをベースに、『テトリス』のライン消しの要素を加えた独自のシステムを加えた、ユニークな遊び心地と中毒性を秘めたゲームに完成されている。

 『有野の挑戦状1』に収録された縦スクロール型シューティングゲーム、『スタープリンス』も秀逸な完成度を誇るタイトルだ。

 『スターソルジャー』、『ザナック』といった名作をベースにしつつ、ショットボタン押しっぱなしで発動するバリアを用いたカウンター攻撃、パワーアップアイテムを破壊しての全体攻撃(ボム)といったユニークな特徴を持っている。小気味よい効果音もあって、敵を撃墜していく爽快感も上々で、ステージ上にもハイスコアにつながる隠しボーナスがたくさん仕込まれているので、挑戦を一通り終えた後も単独でやり込みたくなってしまう魅力がある。

 また、本作の挑戦には救済措置が追加されるイベントがあるのだが、これはぜひ、本編を遊んで確かめてみていただきたい。あまりにも自然な追加の流れに笑ってしまうだろう。それを用い、挑戦を攻略した後にアリーノーが見せる反応も必見である。

 そして3本目として、『有野の挑戦状2』に収録されたコマンド選択型アドベンチャーゲーム『課長は名探偵』が挙げられる。

 『ゲームセンターCX』でおなじみの面々が多数登場するという、若干内輪な部分もあれど、徐々にシリアスさを増していくストーリーの意外性が光る内容に仕上げられている。『ポートピア連続殺人事件』などの名作をオマージュしたコマンドの一覧も分かる人ならニヤリとしてしまう部分がある。また、探偵モノでは定番の殺人を題材にしていないのもちょっとした見どころ。それゆえ、タレント系のコマンド選択型アドベンチャーゲームの名作『さんまの名探偵』の桂文珍氏的なモノ(?)を期待すると肩透かしかもしれないが、十分に楽しめる作品になっているので、こちらも要チェックである。

 これら3タイトルに限らず、全ゲーム共通で、ちゃんとエンディングが用意されているのも大きな特徴。裏ワザの中にも一部、無敵技といった反則じみたものがあったりするのも当時らしさが滲み出ていて面白い。そして、全タイトルは「やりこみ」というモードでそれぞれ、単独で遊べるのもうれしいところだ。

 出来がよいとは言え、一部には難易度が極端に高かったり、内容がザックリしているといった物足りなさを感じさせるタイトルもある。また『有野の挑戦状1』はオリジナル版当時、挑戦がクリアできないと行き詰まるという課題もあった。

 しかし、Nintendo Switch版では続編『有野の挑戦状2』で追加されたギブアップ機能が『有野の挑戦状1』にも採用されたため、行き詰まりは起きなくなっている。なにより、各種ゲームはテレビの大画面でもプレイ可能になった。とりわけシューティングゲーム系のタイトルはこの恩恵を大きく受けているので、これから初めて遊ぶなら、ぜひ大画面でのプレイをお薦めしたい。

 また、Nintendo Switch版にはオリジナル版にはなかった完全新作のベルトスクロール型アクションゲーム『炎の格闘サラリーマン ヤッタロー』が追加されている。これ自体は特定の条件を達成することでタイトルメニュー画面の「スペシャルコンテンツ」から選択可能になる。2作をプレイしているときに選ぶことはできないので、その点はご注意を。

『ゲームセンターCX』の入口としても優れた良作が現代に復活

 収録ゲームの見どころも紹介したが、やはり本作で際立って秀逸なのは1980年代から1990年代前半のテレビゲームを取りまく体験を疑似的に味わえる部分。それをより実感しやすくするためにゲームに限らず、攻略情報が掲載されたゲーム雑誌、その中で起こる出来事、ありの少年との雑談で出てくる話題まで押さえた作り込み具合は、オリジナル版の発売から15年以上が経った現在においても色褪せないものがある。それどころか、年月の経過と共にシミュレーターとしての価値はより熟成した印象すらある。

 さらに2024年現在は、本作を通してモチーフ元である『ゲームセンターCX』を知るための間口も大きく広がった。オリジナル版の発売当時もまた、CS放送が視聴できないハンデを背負っていたとしても、DVD-BOXの購入などの形で番組を楽しむことができた。

有野の挑戦『ロックマン』vol.1

 それが2024年現在は公式YouTubeチャンネルの開設で、より手軽に『ゲームセンターCX』、そして有野課長その人の魅力を知れるようになっている。最新の放送回を追いかけるとなれば、CS放送の本編をチェックするしかないが、それでも『ゲームセンターCX』を知れる入口が増えたのは「いい時代になった」と、素直に言える出来事だろう。

 『ゲームセンターCX』は2023年で放送開始から20周年を迎え、それを記念して今回のNintendo Switch版が開発・発売となった。その経緯もあって、オリジナル版の存在を知らなかった世代には、ファンアイテムとしての印象が強いかもしれない。だが、繰り返し断言しよう。これは『ゲームセンターCX』をまったく知らない人にも強くおススメできる良作である。1980年代から1990年代前半という、昭和の終わりから平成初期におけるテレビゲーム文化の雰囲気、体験を疑似的に体験できる珠玉のシミュレーターである。

 本作から本家『ゲームセンターCX』を見始めてみるのも良し。発売から15年経っても色褪せないどころか、さらに魅力が深まった良作をぜひ、この機会に体験してみていただきたい。オリジナル版経験者としても豪語したい。これはマジでおススメです。

 最後にちょっとした余談を。アリーノーの容姿は、ニンテンドーDS屈指の大ヒット作『脳を鍛える大人のDSトレーニング』(以下、脳トレ)のパロディとも言えるものになっている。そんなアリーノーのデザインからゲーム全般の開発を担当したのは、『しゃべる!DSお料理ナビ』や『シアトリズム ファイナルファンタジー』などを代表作とする株式会社インディーズゼロ。同社はオリジナル版の発売当時、パロディ元の『脳トレ』シリーズの開発に参加した実績はなかった。しかし、15年以上が経った2024年現在。

『脳を鍛える大人のNintendo Switchトレーニング』

 インディーズゼロは『脳を鍛える大人のNintendo Switchトレーニング』の開発を担当したことで、実績を持つ会社になった。そう、今回のNintendo Switch版の発売によって、同作の川島教授に宿っていたと思しき魂の持ち主もやってくるという、衝撃(笑撃?)の展開が実現したのである!

 そんなわけで『脳を鍛える大人のNintendo Switchトレーニング』と本作『ゲームセンターCX 有野の挑戦状1+2 REPLAY』があれば、並行して遊んでインディーズゼロ製の本家本元とパロディの両方を堪能してみるのも面白いかもしれない。よく観察してみると、共通点が見つかったり……したらしたで、どう反応したらいいのだろう。

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