連載「エンタメとテクノロジーの隙間から」(第15回)

ゲーム初心者が『ファミレスを享受せよ』でインディーゲームデビューをした話

 ずっと気になっていた作品がある。『ファミレスを享受せよ』というインディーゲームだ。

 筆者はゲーマーというほどゲームをプレイするわけではなく、プレイしたとしても、メジャーな作品や流行りの作品にたまに手を伸ばす程度の人間だ。そんな私が、『ファミレスを享受せよ』という作品だけは、なぜかずっと気になっていた。

 黄色と青と黒という、数色だけで構成されたゲーム画面。『ファミレスを享受せよ』というタイトル。夢のなかで流れていそうな心地いいBGM。すべてが筆者の興味をそそってしょうがなかったので、今回満を持して購入した。

 リアルサウンドテック編集部による連載「エンタメとテクノロジーの隙間から」。ガジェットやテクノロジー、ゲームにYouTubeやTikTokまで、ありとあらゆる「エンタメ×テクノロジー」に囲まれて過ごす編集部のスタッフが、リレー形式で毎週その身に起こったことや最近見て・試してよかったモノ・コトについて気軽に記していく。

 第15回は、テクノロジー初心者・はるまきが、念願の『ファミレスを享受せよ』の世界をレポートしていく。

“こんな場所が欲しい”を具現化した店『ムーンパレス』

 享受という言葉は、“受け入れて楽しむ”という意味だ。ということは、『ファミレスを享受せよ』とは、ファミレスを受け入れ、味わい、楽しめということだろうか。筆者にとってファミレスは、仕事に追い込まれたときの駆け込み寺としてしょっちゅうお世話になっている場所なのだが、たしかにちゃんと味わったことはないかもしれない。

 解説にはこう記載がある。

 「なあ君、ファミレスを享受せよ。月は満ちに満ちているし ドリンクバーだってあるんだ。」

 なんて素敵な一文だろうか。普段はなんの感情も抱いていなかったドリンクバーが、急に素敵な産物に思えた。まだ1ミリもプレイをしていないのだが、期待のハードルが完全に上がりきっている。同時に文学的要素も強いゲームなのかもしれないと感じた。小説の帯のような素敵な文章をしっかりと読み、さっそくゲームを開始した。

ファミレスを享受した先に待っているのは

 物語は、主人公が深夜にファミリーレストラン『ムーンパレス』を訪れるところから始まる。最初は本作に興味を持った理由でもある鮮やかなグラフィックデザインに、とにかく圧倒された。本当に少ない色使いで、夜の深さや、そのなかで光るファミレスの人工的な明るさ、月明かり、絶妙に非現実的な雰囲気を表現している。こんな出立ちをしたファミレスがあらわれたら、絶対に入りたくなるだろう。

 制作を手がけたのは、『月間湿地帯』というゲーム・イラストサイトを運営するクリエイター・おいし水(すい)だ。

ファミレスを享受せよ BGM

 本作はグラフィックデザインだけではなく、曲も最高だ。ライターでありながら楽曲の良さを表現するボキャブラリーが乏しくて申し訳ないが、寝落ちしかけているときの精神状態を音にしたらこんな曲になるのではないか、と思った。本作に出会ってからは、普段の日常生活のなかでも聞くほど好きなサウンドになった。

 ゲームの操作はとても簡単だ。コマンドを選んで、『ムーンパレス』にいるほかの客と会話をするだけ。何度も何度も会話をしていくうちに、この人たちはなんなのか、どうしてここにいるのか、いつからいるのか、そもそも『ムーンパレス』とはなんなのか。言葉の節々から、世界の全体像が徐々に明らかになっていく。

 ゲーム初心者の筆者ですらひと晩でクリアできたので、総プレイ時間はそこまで長くはかからない。だが、本作はクリアをすることはそこまで重要ではなく、有り余る時間をかけて『ムーンパレス』という空間を享受することが肝になっている。プレイした人ならすぐにわかるが、実際に“そう感じさせる出来事”が主人公の身に舞い降りる。

 もういつからいるのかもわからないくらい『ムーンパレス』で過ごしている客たちと、ドリンクバーで飲み物を飲みながら会話をし続ける。永遠に近い享受の先に待っている結末を、ぜひ実際にプレイして見届けて欲しい。

 仕事に疲れ切った夜や、布団に入ったはいいものの寝付けそうにない夜にぴったりの作品だ。人生で初めてインディーゲームというものをプレイしたが、初めての作品が『ファミレスを享受せよ』で本当によかった。

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