連載「エンタメとテクノロジーの隙間から」(第11回)

“LINE風”UIの活用に、心地よいゲーム体験 『未解決事件は終わらせないといけないから』がおもしろい

 リアルサウンドテック編集部による連載「エンタメとテクノロジーの隙間から」。ガジェットやテクノロジー、ゲームにYouTubeやTikTokまで、ありとあらゆる「エンタメ×テクノロジー」に囲まれて過ごす編集部のスタッフが、リレー形式で毎週その身に起こったことや最近見て・試してよかったモノ・コトについて気軽に記していく。

 第11回は自分の誕生日に発売される『龍が如く8』が楽しみで夜しか眠れない(執筆時は発売前)ゲーム担当・片村が、短編アドベンチャー『未解決事件は終わらせないといけないから』について、「ストーリーのネタバレなし」で書いていきます。

“メッセージアプリ風”UIの活用法

 本作は韓国のインディーゲームクリエイター・SOMI氏による推理アドベンチャー。簡単に概要を説明すると、12年前に警察を退職した主人公・清崎蒼のもとを、ある警官が訪れる。彼女に言われて未解決事件を“終わらせる”ために過去を思い出すが……というのがストーリーの始まりです。ゲームシステムはメッセージアプリ風のUIで、発言者や時系列がバラバラの状態から真実を探し求めていくという形になっています。

 最初に“メッセージアプリ風”と聞いたとき、イメージしたのはキャラクターとのやり取りをLINEのような画面で進めていくような形式でした。古くは『STEINS;GATE』(いや古くはないか……と思って調べたら発売は15年前でした。そして正確に言えばシュタゲはガラケーのメールですね)などから、最近でも多くのアドベンチャーゲームやRPGのコミュニケーションパートで用いられる手法だと思います。

 しかし、本作は“アプリ風UI”がもっとゲームの根本に紐づいています。清崎蒼は事件にまつわる記憶が混濁しており、発言者や時系列がめちゃくちゃになっています。最初にメッセージ画面を開いても、そこにあるのは発言者も発言した日時も実質不明の言葉たち。さすがに最初は「これ、どうなっていくんだ?」という不安を抱きました。

 もっとも、そんな不安もすぐに解消されました。推理アドベンチャーらしく、謎が謎を呼ぶ形でストーリーは入り組んでいくのですが、決して把握できないような壮大さではなく(もちろん良い意味で)、ちょっとした違和感を解決したくて進めていくうちに、少しずつメッセージ画面は整理されていきます。そのなかで“未解決事件”の輪郭がはっきりしていき、ゲームを進める手が止まらなくなりました。

押しつけがましさのない、心地よいゲーム体験

 本作はネタバレを絶対に避けてプレイしてほしいため、ストーリーについては言及せず、このゲームシステムについてもう少しご紹介したいと思います。

 このゲームは基本的にメッセージ画面ですべての操作が完結しており、主人公が登場人物と直接会話する描写自体はありません。「それだと臨場感がないのでは?」と思えるかもしれませんが、実際はリアルな文章のやり取りのログ、そしてなにより自分で発言者と時系列について考え、並べ直していくというゲーム性のおかげで、ストーリーがまるで実体を持って迫っていくるような感覚を覚えることができるのです。

 これが前述した「“アプリ風UI”がもっとゲームの根本に紐づいている」ということです。清崎蒼が正しい記憶を呼び起こしていくという作業にプレイヤーがインタラクトしていくことにより、最初はほぼなにもわからないストーリーを自然に把握しつつ、次の謎へとのめり込んでいく図式が完成していました。

 作品説明でも「全員が嘘つき」という表現がされているとおり、メッセージ画面上のどの登場人物も、なにかしらの隠し事をしています。それぞれに意図があるため、まずは可能な範囲で発言者を整理して、その発言者の考えや傾向を汲みながら時系列や新規発言の開放に取り組んでいく、という方法で進めていましたが、このあたりはプレイヤーのやりやすい形を選ぶことができます。このように制作側からの“押しつけがましさ”を感じないことも、心地よいプレイ体験につながっていたと思います。

 パズルのような謎解きとしっとりとしたストーリーに引き込まれる『未解決事件は終わらせないといけないから』は、Steamにて800円で購入可能。ぜひ“ストーリー情報を入れずに”プレイしてみてほしい作品です。

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