連載:エンタメトップランナーの楽屋(第九回)

プリキュアは“破壊と挑戦”の繰り返し FIREBUG 佐藤詳悟×アニメプロデューサー鷲尾天対談

「東アニメソッド」は口伝である

佐藤:東アニさんには、「東アニらしさ」を担保するメソッドのようなものは存在するんですか? 他のアニメ制作会社さんだと、制作メソッドに注目したドキュメンタリーが残されていることがけっこうあるじゃないですか。

鷲尾:それが……ないんですよ。口伝です。ただ、社外の方から「東アニは見栄を切るのがうまい」と言われたことがあり、それは確かにその通りだと思います。たとえば、プリキュアの変身や技を出すときの見せ方。そういったことは、現場で歴史的に受け継がれてきたところがあると感じます。

佐藤:それは「こういう方法でやりなさい」と誰かが言い伝えているわけではないんですか?

鷲尾:現場で直接見て学ぶようなことが多いですね。それがいつの間にか伝わり続けているという、不思議な文化で成立しています。社内でも誰かがそれを言語化しようとか、メソッドとしてまとめようとかみたいなこともなかったと思います。

 ただ、プリキュアシリーズが今年で20周年、アニメ『ONE PIECE』は約25年続いていて、そういった長く続く作品を制作してきましたので、その積み重ねがあるおかげで受け継がれてきた文化があるのではないかとは思います。

おもちゃ屋で感じた“ヒットの実感”

佐藤:テレビシリーズが放送を開始して、「ヒットした」というのはどのように実感するものなのでしょうか。

鷲尾:枠によってもいろいろあるのですが、やはり視聴率ですよね。プリキュアシリーズが放送を開始した頃は今よりもっと視聴率が重視された時代ですし、あとは、ターゲット(4〜6歳女児がいる世帯)視聴率がものすごく重んじられていました。そういった定性的な数字面では、まず良い結果を出しました。

佐藤:そういった数値的な結果と体感的な結果でいうと、どちらが嬉しかったですか?

鷲尾:数値的なものが嬉しくないわけではありませんが、やっぱり体感的な方が嬉しいですよね。放送初日にはもういろんな商品が発売されるんですけども、その日の午後に近所のおもちゃ屋さんへ行きまして。小さな棚に少しだけ陳列されているのを見つけたんです。

佐藤:さすがにそんなにすぐ商品は動かないですか。

鷲尾:私も「まぁ、こんなものか」と思って帰ろうとしたら、店員さんが棚にプリキュアの商品を補充し始めたんです。最初から陳列数が少なかったわけじゃなく、すでに売れていたというのがわかりました。

 それから1時間半くらい眺めていたら、きちんと手に取られて売れていった様子も見ることができましたね。2週間後くらいに玩具メーカーの担当者さんから「欠品しています」とご連絡があり、そこからはもう、嵐に巻き込まれたかのようにいろんなことが起きていきましたよ(笑)。

佐藤:そこから20年経って、今年『映画プリキュアオールスターズF』が公開されましたが、どのようなことを意識して作られたのでしょうか。

鷲尾:監督に対して明確に伝えたのは、「原点を意識しましょう。放送開始当時に観ていた子どもたちが大人になった今、その人たちが観ても楽しめるものを作りましょう」ということです。もちろん、子どものための映画であるということを意識したうえで。

 今回、映画の敵にあたるキャラクターカラーが黒と白なのですが、それは「原点を意識しましょう」という言葉を監督が解釈した結果で生まれたものです。原点に対する解釈は監督の自由にしてもらいました。

佐藤:プリキュアシリーズの特徴として、世の中の空気や価値観を取り入れて作られてきた印象があります。どのように意識されてきたのでしょうか?

鷲尾:昔から私は、みんなが良しとすることをあまりそのまま信じないタイプなんですよ。なににでも反対をするというわけではありませんが、なにに対しても「本当にそうかな?」とまず疑うところがあります。

 だから時代の空気についても、感じ取りながらもまずは疑ってみて、考えています。いまの時代の価値観はこうだと言われているけど、果たして本当にそうだろうかと。そういった考え方がプリキュアを作るときにも反映されているかもしれません。

佐藤:時流は常に移り変わっていますしね。

鷲尾:そうですね。例えばその瞬間に流行しているものを取り入れても、コンテンツが完成する頃には時代遅れになっていたり、かといって早く取り入れ過ぎて誰にも刺さらなかったり、みたいなことがあるじゃないですか。

 だから常に、どんなときにどういうことが望まれているのか、さらにプラスアルファなにができるのか、観てくださる方々が喜んでくれて「新しい」と言ってもらえるようなことを考えています。

関連記事