「審査では嘘じゃない歌を聴きたい」 小西遼×TonyGumboのプロデュース楽曲への想い

楽な楽曲より厄介な楽曲を選んできた

――制作はどのように進めていきましたか?

Tony:私が色々なテーマのデモ音源をたくさん投げて、そこから小西さんが気になった楽曲をピックアップしてもらう流れでした。

小西:既存曲のアレンジではなく、書き下ろしにするところから始まりましたね。折角の機会だからゼロイチで作る作業を一緒にしたくて。それから音楽以外の話もしながら、「ボイスメモでいいから送ってみてください」と伝えたんです。そうしたら、すごい勢いで曲が送られてきた(笑)。

Tony:私のイメージする音楽業界の第一線はそのスピード感なのかと思ったんです(笑)。

小西:いやいや、このスピードでデモ出しできる人は非常に有能だと思います。それにソングライターとしての資質も十分にあるので、それだけでも全然やっていけますよ。「こういう曲を、こんなアイデアで作ったらどうだろう?」という意図がちゃんとわかるクオリティのデモでした。そういうデモが計10曲以上届いたんじゃないかな。打ち合わせて数日で5~6曲、少し空いてからまた5~6曲。これは本当にすごいことだなと。

――実際の楽曲は「ディープでコンテンポラリーな曲に仕上がった」と聞いていますが。

Tony:以前はそういう印象でしたが、小西さんとコミュニケーションを取って実際に楽曲も完成したいまは、希望あふれる曲になったと思っています。ジャンルがわからなかったので「コンテンポラリー」という表現にしましたが、作為的にキャッチーにしたりせず、自然な流れで生まれたオーガニックな楽曲。

小西:彼女の幼少期の体験から着想された曲で、言葉やメロディ、構成も全部パンチのあるものになりました。作ろうと思って作れる曲ではないです。まれに見る「こういう風にポップスを作るんだぞ」というフォーマットに当てはまらない作品。自分からにじみ出てくる血肉のような楽曲なんでしょうね。パーソナルなものを純粋に音楽にした美しさがデモのアカペラ音源時からありました。

Tony:私は主に詞先で曲を作るんです。歌詞を何度も反芻してメロディを付けていくのですが、本作の場合は自我のなかに入りこんでいきました。ぼうっとしている状態から、他のアドバイスや小西さんの視点も入れずに「自分はどうやって生きていけているんだろう?」と落とし込んだ時に、ふわっと紡ぐように浮かんできて。そのまま最後まで歌って、それをお送りした感じ。メロディも言葉もその瞬間に出てきたフリースタイルなんです。

小西:最後まで残ったデモの片方は、わかりやすくて彼女の歌唱力を存分に出し切った楽曲で、「ここにひたすらアレンジを乗せていくだけでいい仕上がりになります」とコメントしたんです。一方で本作のデモは「なにかよくわからないけど、引っ掛かるから残しておきました」としました。僕としては「前者の方がスムーズだよ?」とプレゼンしたつもりだったのですが……。厄介な方を選んできた(笑)。

Tony:小西さんが「なにかわからないけど素晴らしい。「なんだこの怖い曲は?」と思った」と言っていたのを聞いて嬉しかったですね。

小西:鋭い歌詞が怖いというよりも“生もの”な感じですよね。ピュアなものって迫ってきますから。美しいと思いつつ「怖えな」って。だからこそ、もう一方の候補を推薦したんです。とはいえ、特に難しいこともありませんでした。言葉とメロディが導く方向に伴奏を付けていったというだけ。あとは当時TonyGumbo名義のバンドでしたから、僕のやるべきことはメロディと言葉をもとに伴奏を付け、それに他のメンバーを入れ込むという作業でした。

――小西さんは、一青窈さんや中村佳穂さん、安藤優子さん、 TENDREさんなど多くのシンガーとお仕事をされてきていますが、そういうときに考えることは?

小西:「アーティストらしさ」ってアレンジの音色センスにも関わってるんですよ。TENDREなら彼らしい音色や伴奏の作り方があるので、一緒に作る前にその人の楽曲は聴きます。その上で、この人はこんなアレンジで歌わないだろうな」と思ったら、それを絶対やろうとは考えますね。奇をてらうというわけでもなく、「この人はヒップホップのビートで歌ってなさそうだけど合いそう」という考え方です。

 楽曲の力が強すぎて抗えない、という時はひたすらそれに沿ってアレンジしていくこともあります。ただ日本語はリズムが難しいから、そこに合う伴奏やドラムトラックを作ったら3、4割は完成かな。

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